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全従業員の行動変容を目指すAstemo が自己破壊を経て見つけたAI駆動開発の実効性

2026年6月10日〜12日、AWS Japan オフィスにて「AI-DLC UnicornGym」を開催しました。参加いただいたのは、自動車部品・システムのグローバルメガサプライヤー Astemo 。SDVソリューション開発本部と技術開発本部から44名が集まり、7チームが実業務テーマでAI駆動開発を3日間体験しました。

AI-DLC の全体像については「AI駆動開発ライフサイクル(AI-DLC)」をご覧ください。

なぜ Astemo が AI-DLC に取り組んだのか

「これまでの成功体験をアンラーンし、自己破壊をしてほしい」

ワークショップ冒頭、UnicornGym のゴールとして参加者に投げかけられた言葉です。自動車のソフトウェア定義化(SDV)が加速する中、エグゼクティブは「これまでにない生産性」を目標に掲げ、最重要ミッションは技術開発ではなく全従業員の行動変容であると明言しました。44 名の参加者は、その変革の起爆剤として位置づけられています。

自動車業界では品質基準やプロセスが厳格に定義されており、新しい開発手法の導入にはどうしても慎重になります。「生成 AI は使ってみたが思ったようにいかない」「自分で書いた方が早い」という声も現場にはありました。今回の Unicorn Gym は、全社展開に向けた行動変容のきっかけづくりとして企画しました。

3日間で何をしたのか

1日目は Inception(構想)です。各チームが持ち込んだ実業務テーマに対し、Claude Code との対話でビジネス意図をユーザーストーリーに落とし込みます。AI が生成したモック画面をチーム全員で見ながら「これが欲しかったもの?」「ここは違う」と認識を揃えていきます。テキストだけでは抽象度が高すぎて合意に時間がかかりますが、目に見える画面があると議論が具体化し、意思決定のスピードが格段に上がりました。

2〜3日目は Construction(構築)です。前日の要件をもとに Claude Code が設計・コードを提案し、チームで集中的に実装を進めます。人間の役割は「コードを書く」から「レビューと意思決定」に変わり、AI の成果物を次々にジャッジしていきます。AI の実装スピードが速いため、むしろ人間同士の認識合わせや意思決定がボトルネックになる場面もありました。

全チームが自社の実課題を持ち込みました。架空のお題ではなく「普段困っていること」をそのまま3 日間でプロトタイプにする形式が、参加者の本気度と成果物の実用性を引き上げました。

成果

ワークショップ後のアンケートは、「同僚にも薦めたい」の推奨度は 4.88/5.0、「自分の働き方が変わると感じた」は 4.67/5.0 という結果でした。

7チームのテーマは、組込みソフトウェアのモデル解析、開発環境の構築、テスト仕様書の自動生成、セキュリティツールの評価自動化など多岐にわたりました。いずれも「今まさに現場で工数がかかっている業務」ばかりです。

具体的には、組込みモデルの挙動を AI で解析するクラウドサービス、要件定義からテスト仕様書を自動生成する AI エージェント、複数ツールの評価レポートを画像認識も含めて自動生成する仕組み、開発メトリクスを収集・可視化するダッシュボード基盤、クラウド環境の運用を統一 UI で自動化するシステムなどが生まれました。

代表的な数字を紹介します。

  • 3 日間で 9 マイクロサービス / 4,500 行超 / 174 コミット / 76 PR
  • 開発スピード約200 %向上

7チーム全てがデモ可能なプロトタイプを完成させました。 さらに、あるチームはワークショップ翌週に早くも 本番リリースしました。3日間で生まれたプロトタイプが「やって終わり」ではなく、翌週からイテレーションが回り始めた事例です。AI-DLC で身につけた開発サイクルがそのまま実務に直結することを示しています。

参加者の声

「今までの自分を破壊することが出来た!」

「人間は選択に集中し、AIに任せるべき。ストレートに開発に響く学び」

「記事で読んでも実感できなかったが、体験で腹落ちした」

「初学者の私が一つのシステムを作り上げた達成感」

ベテランから若手まで共通して出てきたのが「体験しないとわからない」です。どれだけ説明を聞いても、実際にAI がコードを生成し、自分がレビューと判断に集中する体験をしないと腹落ちしません。AI-DLC の価値は、実際に手を動かして初めて実感できるものだと改めて感じました。

学び

① 設計判断は人間が握る — AI に任せきりにすると、並行開発でアーキテクチャが混在しチーム間の成果物が結合できなくなるリスクがあります。「どのアーキテクチャで行くか」を Inception の段階で人間が合意しておくことが、Construction のスピードを決めました。

② インセプションの質が全てを決める — ユーザーストーリーの精度が甘いと AI の出力も曖昧になります。コーディングから解放された分、要件の言語化に集中できるのが AI-DLC の強みです。事前に AI-DLC の用語集やコンセプト概要を配布しておけば、初日からさらにスピードを出せたという反省もあります。

③ 自動車業界の品質基準との共存は次の論点 — 自動車固有のプロセスゲートに対して、AI-DLC の学びを活かすために、パイロットプロジェクトを通じて段階的に評価を進めたいと考えています。

④ UnicornGym の3日間は「起爆剤」であり「ゴール」ではない — エグゼクティブが強調したのは「全従業員の行動変容」です。参加者が社内 Champion となり各部門に展開していく仕組みづくりが次の課題になっています。

今後の展開

44名の参加者は、全社展開の起点になります。ここから AI-DLC Champion の育成、AI ツールの組織定着、品質保証部門との連携などを段階的に進めていきます。

エグゼクティブが掲げたのは「全従業員の行動変容」と「これまでにない生産性」です。3日間で7プロトタイプを完成させた今回のワークショップは、その実現可能性を示す最初の一歩になったと考えています。

AI-DLC に興味を持たれた方は、aidlc-workflows(GitHub) をご覧ください。AI-DLC を始めるためのワークフローやテンプレートを公開しています。

著者

山崎 徹
アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 テクニカルカスタマーソリューションズ マネージャー