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Amazon Connect の導入を加速する実績ある移行パターンの紹介

エンタープライズのコンタクトセンターでは、独立した IT および運用チームを持つ複数の事業部門 (LOB) をサポートするのに苦労しています。特にビジネスプロセスアウトソーサー (BPO) では、独自の要件を持つ数百の顧客を管理するため、この複雑さがさらに増大します。コンタクトセンターの移行パターンにより、これらの課題に対処し、デプロイメントを加速し、運用を簡素化することができます。

この投稿では、中規模から大規模なコンタクトセンターの移行において堅牢な基盤を構築する、実証済みの 5 つのパターンについて説明します。これらのパターンの実装には初期投資が必要ですが、全体的な移行スケジュールを加速させるでしょう。

移行の困難さ

架空の企業 AnyCompany で考えてみましょう。この会社は 7 つの LOB を運営しています。4 つの LOB はあるレガシープラットフォーム上で稼働していますが、最近の合併により取得した 3 つの LOB は異なるシステム上で運営されています。同社のサポート体制は 2 つの IT チームと 3 つの運営チームにまたがっており、それぞれがそれぞれのレガシープラットフォームを専門としています。

AnyCompany は、レガシープラットフォームのコストを削減し、安全でスケーラブルなクラウドベースのコンタクトセンターで改善された顧客体験を提供するため、7 つの LOB すべてを Amazon Connect に移行することを決定しました。同社は多くの組織で直面する優先順位付けのジレンマに直面しています。スピードと完璧さ、変革と基本的な移行のバランスを取り、特定のレガシーコンポーネントを維持するか、新規に構築するかを決定する必要があります。

AnyCompany は、まず小規模な LOB の 1 つから移行することを選択しました。移行初期では、各リージョンにおける開発、テスト、ステージング、本番環境全体で設定、フロー、統合を管理するためのパターンを確立する必要があります。レガシープラットフォームの 1 つは独自技術を使用しているので、サポートチームは移行後のコンタクトセンターをサポートするためスキルアップが必要です。

移行を加速するアクセラレーターパターン

アクセラレーターパターンは、3つの基本的な原則に基づきます。

  1. 再発明よりも再利用を:再利用可能なコンポーネントを構築することで、チームは機能を一度開発すれば、コンタクトセンターの複数の領域にそれを適用できます。これは、開発時間を短縮し、一貫性を推進できます。
  2. モノリスよりもモジュール性を:モジュラー設計により、複雑なシステムを管理可能な部品に分割し、チームが独立してそれぞれを実装および保守できるようにします。このアプローチは俊敏性を向上させ、移行プロセス中のリスクを軽減します。
  3. カスタマイズではなく設定を:テンプレートベースの設計により、固有のケースを処理するためにコードではなく設定を定義して、全体的な作業を削減します。このアプローチは柔軟性を維持しながら、カスタム開発を最小限に抑えます。

パターン #1 – 設定可能な CX インターフェース

Amazon Connect は、企業が重要なコンタクトセンターコンポーネントを設定できる包括的なネイティブユーザーインターフェースを提供します。これには、キュールーティングプロファイルユーザー管理セキュリティ設定、および自動化されたフローからエージェントとのやり取りまで、顧客体験を構築するための直感的なドラッグアンドドロップインターフェースが含まれます。エンタープライズ規模のコンタクトセンターでは、通常、フロー内に複数のエントリーポイントが実装されます。言語選択、顧客識別、認証、意図の取得、ルーティングなどのコアコンポーネントは、類似するパターンに従います。ただし、各体験は、問い合わせ属性と Amazon DynamoDB に保存されたデータを使用して動的にパーソナライズされます。またデプロイ後も、ビジネスチームは、緊急アナウンス、特別メッセージ、言語更新など、フロー動作に対して稼働中に変更を行う俊敏性を必要とします。組織はまた、開発、テスト、ステージング、本番環境全体にわたる堅牢な設定管理も必要とします。

パターン #2 – エージェント体験のインターフェース

Amazon Connect には、エージェントワークスペースと呼ばれるすぐに使えるエージェント用の問い合わせ処理機能(機能統合されたエージェントアプリケーション)があります。この統合されたデスクトップインターフェースにより、エージェントは単一のインターフェースから顧客プロファイル、やり取りの履歴、ナレッジベースにアクセスしながら、音声、チャット、タスクにわたる顧客とのやり取りを管理できます。このシステムには、コラボレーションツール、多言語サポート、リアルタイムパフォーマンスダッシュボードが含まれています。

ほとんどの企業顧客は、要件を満たすためにこのエージェントワークスペースを設定します。しかし、企業は Amazon Connect SDK と API を使用してカスタムコントロールパネルを構築することもできます。このオプションを選択する顧客は、エージェントワークスペースでネイティブに準備された機能を再構築する必要があります。エージェント体験を極度にパーソナライズする必要がある一部の顧客にとってはこの重い作業が必要になる場合もあり、このパターンではマイクロアプリケーションアーキテクチャを使用して異なる LOB 間で再利用できるように構築します。各機能を独立したマイクロアプリケーションとして機能し、分離された開発を可能にします。組織は、ニーズに基づいて特定の機能をデプロイし、コード変更ではなく設定を通じてそれらをカスタマイズします。

このアクセラレーターパターンは、自動デプロイメントを通じてカスタマイズされたエージェントインターフェースの開発時間を数か月短縮します。これにより LOB 間で一貫したエージェント体験が可能になり、大幅な再トレーニングなしにエージェントや担当者の共有が可能になります。モジュラー設計により、デスクトップ、ネットワーク、サーバーサイドの問題に対して単一のアプリケーションフットプリントを提供することで、トラブルシューティングも簡素化されます。このパターンを使用する組織は、時間の経過とともに機能を追加する柔軟性を維持しながら、より高速な機能開発サイクルとゼロダウンタイムを実現しました。

パターン #3 – コンタクトセンターの開発・運用・セキュリティ (DevSecOps)

グローバル企業のコンタクトセンターでは複数のリージョンが必要な場合や、また複数の環境(開発、テスト、ステージング、本番)のプロビジョニングが必要な場合があります。コンタクトセンターのワークロードでは、Amazon Connect と併せて 10 以上の AWS サービスを使用することがあります。複数のインスタンスとサービスにわたって迅速にイノベーションを行うため、組織は自動化されたデプロイメントプロセスと一貫した環境設定を計画します。他のクラウドアプリケーションと同様に、標準化された DevSecOps アプローチにより、設定のドリフトやセキュリティ脆弱性のリスクを軽減しつつ、新機能の導入までの時間を改善できます。

このパターンでは、Amazon Connect デプロイメント向けに設計された DevSecOps フレームワークを実装します。 AWS Cloud Development Kit (CDK) などのデプロイメントツールを使用した Infrastructure as Code テンプレートを提供します。また、Amazon Connect インスタンス、フロー、AWS Lambda 関数、および関連する AWS サービスのデプロイメントと設定を自動化する事前構築済みパイプラインも含まれています。このパターンは、デプロイメントパイプラインのすべての段階にセキュリティコントロール、テスト戦略、および自動検証を組み込みます。このパターンの主要コンポーネントには、Amazon Connect インスタンス管理、設定、および環境固有のインフラのデプロイ用のモジュラーコードリポジトリが含まれます。このパターンは、環境間での一貫した配信を確保するブランチング戦略、コードプロモーションワークフロー、および開発者ガイドラインも提供します。(これはレガシー技術でしばしば問題となっていた)環境間でのコードと設定の伝播をカバーし、品質とセキュリティコンプライアンスを向上させながら、LOB 実装あたりの技術基盤構築時間を数週間短縮します。

このアクセラレーターパターンは、組織が環境間での一貫性を維持しながら、機能デプロイメントを加速し、人的エラーを削減することを可能にします。モジュラー設計により、チームは既存のツールと成熟度レベルに基づいて、コンポーネントを段階的に採用できます。組織が複数の事業部門にわたって Amazon Connect フットプリントを拡張する際に効果的にスケールする、反復可能なフレームワークを提供します。

パターン #4 – モニタリングと運用の自動化

AWS サービスは、メトリクスとログを Amazon CloudWatch に公開します。このデータを表示および分析して、重要な運用メトリクスを監視し、アラームを設定できます。大規模なコンタクトセンターでは、サービス、インスタンス、リージョン全体にわたる監視が運用上の優秀性を維持するために必要です。従来のプラットフォームでは、コンタクトセンターのインフラストラクチャ全体の可視性に苦労することが多く、対症療法的な問題解決と長い解決時間につながっていました。企業は、顧客体験に影響を与える前に潜在的な問題を事前に特定しながら、複数の事業部門にわたってサービスレベル契約 (SLA) を維持する必要があります。

このパターンでは、コンタクトセンターインフラストラクチャ全体の可視性を提供する設定ベースの監視・アラート基盤を実装します。Amazon CloudWatch を基盤として使用し、カスタムメトリクスと Amazon Simple Notification Service を通じた自動アラートで機能を強化します。このパターンには、ヘルスメトリクス、ビジネスメトリクス、カスタマーエクスペリエンス指標の高レベルビューと詳細ビューの両方を提供する事前構築されたダッシュボードが含まれます。設定可能な通知チャネル(メール、SMS、Slack)を使用したしきい値ベースのアラート機能をサポートし、重要な問題に対するエスカレーション管理システムが含まれています。主要コンポーネントを AWS Cloud Development Kit(CDK) などの Infrastructure as Code としてパッケージ化し、環境やリージョン間での一貫したデプロイメントを可能にします。ビジネスチームは、長い待機時間、キューのあふれ、またはカスタマーエクスペリエンスに影響を与えるエラーを監視するためにこれらを使用できます。IT チームは、AWS Lambda 関数の障害、API レイテンシ、音声品質スコア、バックエンド接続エラーなどのシステムレベルメトリクスを監視し、異常を検出および予測するために使用できます。

このパターンで、監視機能を確立するために必要な時間を短縮し、通常は実装あたり数週間の開発工数を節約できます。プロアクティブな問題検出と解決を可能にし、すべての事業部門で高いサービスレベルを維持するのに役立ちます。このソリューションのモジュラー設計により、組織は必要最小限の監視設定から開始し、音声品質監視やサードパーティのチケットシステムとの統合などの高度な機能を段階的に追加できます。組織が追加の事業部門を Amazon Connect に移行する際に効果的にスケールする標準化された監視アプローチを提供できるのも重要な点です。

パターン #5 – 音声およびチャットのチューニングと最適化

セルフサービスのユースケースで会話型 AI を実装するコンタクトセンターは、音声およびチャット実装が最適なパフォーマンスを維持できるよう管理する必要があります。チャットボットの実装では、効率的な顧客体験を推進し、ライブエージェントへのエスカレーションを回避するために、十分なサンプル発話、重複しないインテント、適切なエラーハンドリングが必要です。専門家による会話インターフェースの手動最適化は、専門家にとって付加価値の低い作業となる可能性があり、組織が最適なパフォーマンスを維持することがコスト的に困難になります。

このパターンでは、チャットおよび音声セルフサービス体験の分析とチューニングを自動化する最適化フレームワーク(多くの場合、生成 AI を活用)を実装します。このソリューションは、AWS の専門知識と実世界の実装から得られたベストプラクティスの厳選されたナレッジベースを使ってボットの設定を分析するため、基盤モデルを活用します。インテント、サンプル発話、スロット設定、エラーハンドリング戦略の自動分析が含まれます。インタラクティブな Web インターフェースと既存の CI/CD パイプラインとの統合の両方を通じて実用的な推奨事項を提供します。継続的な最適化フェーズで、ボットの定義や設定を処理します。

このパターンによって、ボットの最適化時間を数日から数分に短縮し、高品質を維持しながら長時間の専門コンサルテーションの必要性やコストを最小限に抑えます。組織が深い技術的専門知識を必要とせずに最適なパフォーマンスを維持できるようにしながら、すべての会話インターフェースでベストプラクティスの一貫した適用を可能にします。インテントの混乱、不十分なトレーニングデータ、不適切なエラーハンドリングなどの一般的な問題を防ぐのに役立ちます。このパターンを使用している組織では、セルフサービスのパフォーマンスの向上とセルフサービスでの解決率の増加を確認し、同時にエージェントへのエスカレーションを削減しました。

考慮事項とアイデア

前のセクションで挙げた各パターンについて、その価値と必要な投資を評価することをお勧めします。すべてのアクセラレーターパターンがあらゆる組織に適合したり、必要になったりするとは限りません。アクセラレーターが適合する場合、組織には以下の選択肢があります :

  1. AWS Professional Services と連携して、数百の組織のコンタクトセンター変革のために提供される事前構築済みアクセラレーターを実装する。これは、追加の継続的なコストなしに、これらのアクセラレーターを社内で所有、保守、拡張する意欲と専門知識を持つ顧客に適しています。
  2. 月額継続コストで利用できる Software as a Service モデルを使用して、類似のアクセラレーターパターンを提供する Amazon Connect パートナーを探す。このオプションは、社内でのソフトウェア開発と保守の専門知識が限られている顧客に適しています。
  3. 社内で構築する。Amazon Connect は他の AWS サービスとともに、この拡張性を促進する豊富な API セットを提供します。

他にもアクセラレーターパターンのアイデアとして、自動化された機能テストおよび負荷テストツール、ルーティング設定変更の影響を検証するルーティングシミュレーションツール、復旧運用の自動化、生成 AI ベースのフローのドキュメント化などがあります。コンタクトセンターのクラウドへの移行を設計する際に、追加のパターンを特定する可能性があります。

結論

この投稿では、5 つの移行パターンについて説明しました。設定可能な CX インターフェース、エージェントエクスペリエンス インターフェース、DevSecOps、監視と運用の自動化、音声とチャットのチューニングです。再利用性、モジュール性、設定駆動型アプローチに焦点を当てることで、AnyCompany は移行の複雑さを軽減し、後続の事業部門での価値実現までの時間を短縮しました。チームのスキル、予算、目標に適したアプローチを選択しましょう。これらのパターンは、クラウドネイティブなコンタクトセンターにおける継続的な改善とイノベーションの基盤を築き、技術の進歩に AnyCompany が適応し、優れた成果を上げられるようになりました。

Amazon Connect では、使用した分だけお支払いいただきます。初期費用、長期契約、最低月額料金はありません。セットアップにサポートが必要な場合は、AWS Professional Services からサポートを受けることができます。また、世界中で利用可能な Amazon Connect パートナーからサポートを求めることもできます。

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筆者について

Parind Poi は AWS プロフェッショナルサービスのシニアプラクティスリーダーです。彼は AWS のカスタマーエクスペリエンス (CX) に関する深い専門知識を持ち、専門業務をリードしています。Parind は、お客様がクラウド上でカスタマーエンゲージメントワークロードを最新化できるよう支援することに情熱を注いでいます。
Prashant Desai は AWS プロフェッショナルサービスのプリンシパルコンサルタントです。彼は大規模なコンタクトセンターの設計とクラウドへの移行の経験があります。25 年を超えるレガシー、クラウド両方のコンタクトセンターの経験があります。Prashant は、顧客体験をシンプルで革新的にする方法を常に模索しています。

翻訳はテクニカルアカウントマネージャー高橋が担当しました。原文はこちらです。