Amazon Web Services ブログ
Amazon Connect の運用に役立つ机上演習とは
コンタクトセンターにおける予期せぬサービス中断は、深刻な影響を及ぼす可能性があります。エージェントがシステムにアクセスできない、顧客が接続の問題に直面する、そしてサポートチームがサービスの迅速な復旧に追われることになります。このようなシナリオは極端に思えるかもしれませんが、現代のコンタクトセンター運営においては、このような状況に対する机上演習が不可欠です。
このブログ記事では、Amazon Web Services (AWS) が提供する AI を活用したクラウドコンタクトセンターソリューション、 Amazon Connect 向けのいくつかの机上演習を紹介します。これらは、コンタクトセンターの移行に際しての様々なシナリオの確認や、予期せぬ事態に備えたプロセスと手順の更新に役立つはずです。
机上演習とは
机上演習は、企業規模を問わず重要な取り組みです。机上演習は、サイバー攻撃、自然災害、システム障害などの危機に対する対応計画をテストでき、体系的に管理された環境を構築するのに役立ちます。演習では、企業のシニアエグゼクティブ、部門長、危機管理チームなどの主要な利害関係者が参加し、戦略的な議論と意思決定プロセスに関わることが必要です。潜在的な脅威や混乱に対処する訓練を通して、企業は緊急時対応手順の不足やずれを特定し、コミュニケーションや連携を改善、実際の事態が発生した際の各チームの役割をしっかりと理解することができます。
また、机上演習は組織のリスク管理戦略を改善し、組織のレジリエンスを高め、予期せぬ課題に直面した際に、自信をもって迅速かつ効果的に対応する能力を構築し、最終的には企業の業務継続と評判を保護することに役立ちます。
1) Amazon Connect サービスの中断
シナリオ : Amazon Connect で一時的なサービス停止が発生し、特定のリージョンでコンタクトセンターでの通話の発信や受信ができなくなりました。顧客がサポートエージェントに連絡できず、エージェントも通話を処理するためのシステムにアクセスできません。
主な方針 :
- 事象が自身の Amazon Connect インスタンスに限定されているのか、複数のリージョンに影響しているのかを確認します
- AWS PHD でサービスの問題を確認します
- CloudWatch メトリクスを使用して、潜在的な原因(接続性の問題、API 制限など)を調査します
- エンドユーザーとステークホルダーに対して、停止の状況と復旧予想時間を通知する方法を決定します
- 代替システムへの通話の転送や、異なるリージョンの使用など、回避策を実施します
2) 品質低下または遅延発生
シナリオ : 顧客通話の一部で高い遅延と音声品質の低下が発生し、顧客体験の悪化につながっています。この問題は、特定の地域のエージェントと顧客との間の通話に影響を与えているようです。
主な方針 :
- Amazon Connect の音声メトリクスと Amazon CloudWatch を使用してネットワークパフォーマンスを調査します
- SIP トランキングや電話統合など、関係する第三者システムの状態を確認します
- 問題が地域のインフラまたはネットワーク輻輳に関連しているかを特定します
- Amazon Connect Voice Analytics ツールや CloudWatch Logs などの診断ツールを使用して音声品質をテストします
- AWS サポートに連絡する際、サポートのトラブルシューティングに役立つよう、 HAR ファイル/コンソールログを準備します(参照: https://repost.aws/ja/knowledge-center/support-case-browser-har-file )
3) コンタクトフローの設定ミス
シナリオ : 新しく更新されたコンタクトフローにより、顧客が正しい部署にルーティングされない状況が発生しています。意図したエージェントにつながらず、顧客との接続が切断されたり、誤ったキューに転送されたりしています。
主な方針 :
- CloudWatch メトリクスで「ContactFlowErrors」と「ContactFlowFatalErrors」を確認します
- 影響を受けたコンタクトを特定し、CloudWatch のコンタクトフローログでエラーに関する詳細情報を確認します
- コンタクトフローを確認し、設定ミス(不適切な条件、誤ったキューへのルーティングなど)を特定します
- 設定変更が問題の原因である場合、機能を復旧するためのロールバック計画またはホットフィックスを実施します
- 変更後にコンタクトフローをテストし、問題が解決されたことを確認します
- チームとエンドユーザーに変更内容を文書化して伝達します
4) Amazon Connect インスタンスの動作が遅い
シナリオ : Amazon Connect インスタンスにおいて、エージェントのログインにかかる時間、コールのルーティング、管理ダッシュボードのパフォーマンスに遅延が発生しています。これは顧客とエージェントの両方の体験に影響を与えています。
主な方針 :
- Amazon CloudWatch を使用してシステムのパフォーマンスとリソース使用状況を監視します
- 同時使用のスパイクや Amazon Connect のサービス制限を確認します
- 問題が高トラフィック量または設定エラーに関連しているかを特定します
- 関連リソースのスケールアップや使用パターンの調整など、是正措置を講じます
5) AWS Lambda 関数のタイムアウト
シナリオ : カスタム統合(例:データベースからの顧客データの取得)に使用される Lambda 関数がタイムアウトし、通話処理に遅延を引き起こし、その結果、通話の切断や情報取得の遅延が発生しています。
主な方針 :
- Lambda 関数のログを確認し、タイムアウトが発生している理由(例:遅いデータベースクエリ、関数のロジックエラー)を特定します
- Amazon Connect の外部で Lambda 関数を手動でテストし、パフォーマンスの問題を確認します
- Lambda のタイムアウト設定を変更し、関数のコードを調整してパフォーマンスを改善します
- Lambda 関数が AWS サービスの制限に達していないか、リソースの制約に抵触していないかを調査します
6) CRM (Customer Relationship Management) 統合の問題 ( 例:Salesforce、ServiceNow)
シナリオ : Amazon Connect から発信された通話で、CRM への顧客データの取り込みが失敗し、エージェントが顧客対応時に必要な情報にアクセスできない状況が発生しています。
主な方針 :
- Amazon Connect と CRM システム間の API 統合が機能しているか調査する
- CRM または Amazon Connect の統合に関する最近のアップデートや変更で問題の原因となった可能性があるものを確認する
- 両システム間の認証と承認の設定(API キー、IAM ロールなど)を確認する
- Amazon Connect と CRM 間の接続を手動でテストし、エラーがないかログを確認する
7) ルーティングプロファイルの設定ミス
シナリオ : エージェントが誤ったルーティングプロファイルに割り当てられており、その結果、間違ったキューからの通話を受信したり、まったく通話を受信できない状態になっています。
主な方針 :
- ルーティングプロファイルを確認し、正しいエージェントに割り当てられていることを確認します
- キューに配置されるメンバーとスキルが適切に設定され、通話が適切にルーティングされるようにします
- 異なるエージェントでルーティングロジックをテストし、通話が正しくルーティングされることを確認します
- 設定の不一致を調整し、システムの改善状況を監視します
8) 高い通話放棄率
シナリオ : コンタクトセンターで異常に高い通話放棄率が発生しています。顧客がエージェントに到達する前に、またはキュー待機中に電話を切ってしまっています。
主な方針 :
- Amazon Connect のメトリクスを使用してキューの長さと待ち時間をモニタリングし、許容範囲を超えていないか確認します
- コンタクトフローの設定を確認し、推定待ち時間が顧客に明確に伝えられているか検証します
- エージェントの稼働状況にボトルネックがないか、またはシステムが過負荷になっていないか確認します
- 待ち時間を短縮し、より正確な待ち時間予測を提供するために IVR やルーティング戦略を調整します
9) エージェントの認証失敗
シナリオ : エージェントが Amazon Connect インスタンスにログインできない状態です。アイデンティティプロバイダー(例:AWS IAM Identity Center 、Active Directory)の設定ミスが原因と考えられる認証エラーが発生しています。
主な方針 :
- Amazon Connect とアイデンティティプロバイダーの連携が有効な状態を維持しているか確認します
- エージェントのログインに影響を与える可能性のある IAM ロール、ポリシー、またはセキュリティ設定の最近の変更を確認します
- 認証やアクセス許可のエラーについて CloudWatch Logs を確認します
- 問題がアカウント固有のものかシステム全体に及ぶものかを切り分けるため、異なるアカウントでエージェントのログインをテストします
10) 顧客データの不整合
シナリオ : Amazon Connect または統合されたシステム (AWS Lambda、Amazon DynamoDB など)に保存されている顧客データが、顧客とのやり取りの中で一貫性を持っていません。例えば、以前のケースメモや顧客の設定が次の通話でエージェントに表示されないなどの問題が発生しています。
主な方針 :
- データ統合のプロセス(Lambda、DynamoDB、Salesforce など)が正しく機能していることを確認します
- 通話中にリアルタイムで顧客データが正しく取得、保存、更新されていることを確認します
- 不整合の原因となる可能性のあるデータ同期の問題を調査します
- エージェントのデータ取得の一貫性を確保するための修正を実装し、将来のデータの不一致に備えてログ記録とエラー処理を見直します
11) マルチチャネル体験の品質低下
シナリオ : 顧客のマルチチャネル体験(音声、チャット、メール)が低下し、顧客が異なるチャネル間で一貫性のない対応を受けています。
主な方針 :
- Amazon Connect と他のチャネルとの統合を確認します
- 各チャネルのコンタクトフローが正しく設定されており、顧客データがチャネル間で共有されていることを確認します(例:音声からチャットへ、またはその逆にコンテキストを受け渡せているか)
- すべてのチャネルの CloudWatch メトリクスを監視し、特定のチャネルのパフォーマンスが低下していないか確認します
- 各チャネル(音声、チャット、メール)を個別にテストし、品質低下の性質を確認します
- チャネル間のエスカレーションオプション(例:チャットから音声通話への転送)を実装し、顧客のコンテキストがチャネル間で保持されることを確認します
まとめ
このブログ記事では、Amazon Connect の 11 種類の多様な机上演習シナリオを紹介し、コンタクトセンター環境で発生する可能性のある一般的な問題のトラブルシューティングと解決に向けた包括的なアプローチを紹介しました。それぞれの課題に対処するための詳細な手順を確認することで、みなさまが Amazon Connect の機能を効果的に管理するための貴重な知見を得られることを願っています。
これらの演習は問題解決技術を強化するだけでなく、安定的な運用を維持するための事前計画、テスト、継続的なモニタリングの重要性も示しています。コンタクトセンターのマネージャーであれ、技術専門家であれ、これらのシナリオを練習することで、実際の問題に自信を持って効率的に取り組むために必要なレジリエンスと専門知識を身につけることができます。
そして、継続的にこのような演習を通じて改善することで、Amazon Connect 環境の堅牢性を維持し、優れた顧客体験の提供を保つことができます。
翻訳はテクニカルアカウントマネージャー高橋が担当しました。原文はこちらです。