Amazon Web Services ブログ
月刊 AWS 製造 2026 年 10月号
みなさまこんにちは。自動車・製造インダストリーソリューションアーキテクトの 小川 です。10月に入っても関東は秋雨模様のお天気から徐々に秋晴れの日も増えてきましたね。こちらの「月刊AWS製造」ブログでは直近1カ月に発表された製造関連のブログ・サービスのアップデート・事例や今後開催予定のイベントなどを毎月お届けしています。最近Amazonの独自チップ開発に関する記事やニュースが複数出ていたので、今月は製品設計開発領域でのAI活用に関して、ピックアップトピックとして触れさせて頂きます。
ピックアップトピック: Amazonの独自チップ開発とEDAツールベンダーとのコラボレーションに垣間見るAIネイティブ設計
Amazonは2015年1月に半導体設計開発を行うAnnapurna Labsをチームに加え、AWSのデータセンターネットワークや仮想化基盤、GravitonやTrainium、Inferentiaなどの独自チップを内製で開発し利用・提供しています。これらのチップはチップ単位で外販しておらず、独自チップを社内で運用しドッグフーディングできているのは、大規模なインフラを運用しているAWSだからできるユニークな取り組みと言えます。顧客の機能要求をチップレベルで実装しAIチップのロードマップを形作ったストーリーなどもこちらのAmazon Newsで触れられているので、ご興味ある方は参照ください。
EDAツールベンダーのSynopsysと組む狙い
先日 9/30にEDAツール大手のSynopsys社とAmazonが総額10億ドルにおよぶライセンス契約と双方の協業についてプレスリリースを行いました。この契約にはSynopsysが有するIPやソフトウェアプロダクトをAmazonが利用する契約に加えて、SynopsysがAWSのクラウド環境を使用して、EDAアプリケーションの開発スピードを早めたり、AIネイティブなエンジニアリングを目指す事で、双方のチームの生産性を上げることが掲げられています。
先端プロセスの半導体は1チップのトランジスタ数が 10 Billion を超える世界になっており、Amazonも公開しているものだと、Graviton4のチップで 730億のトランジスタを集積しています。このような巨大チップを開発するにはEDAを駆使し大量のコンピューティング能力を使ってシミュレーションする必要があり、人的にも物的にも開発リソースの逼迫が次世代チップの開発の妨げになっています。この壁を乗り越えるアプローチがAIネイティブなエンジニアリングであり、EDAツールベンダーとコラボレーションすることで、設計者は使い慣れた開発ツールの延長でAIを活用して開発を効率化できる機会を得られる可能性があります。
製造業の設計開発現場でのAI活用の現在地
製造業の設計開発現場ではエレキ設計のEDA、メカ設計のCAD、工学シミュレーションのCAE など各種ツールチェーンを用いて設計開発を行っています。ソフトウェア開発の領域ではAWSだとKiroに代表されるコーディングエージェントの台頭によって AI活用が急速に進んでいますが、CAD、CAE、EDAなど各種アプリケーションを操作して開発を行う現場では、その特性上 エンジニアリング現場でのAI活用はユースケース毎に分けて活用されているというのが現在地です。
例えばシミュレーション結果を予測するAIサロゲートモデル、マニュアルドキュメントやナレッジを検索/要約して設計作業を支援するRAG、自然言語でCADやCAEのアプリケーションを操作するMCPなどの活用が挙げられます。これらはアプリケーションベンダー側でもAIの新プロダクトとして提供したり、既存CAD/CAE/EDAツールにAI機能を付加するなどの動きがあり、先のSynopsysのプレスリリースはこれらの流れを組むものです。かたや、複数ベンダーのツールチェーンをAIエージェントが横断的に連携処理させたり、自社のルールに則った設計内容になっているかAIにチェックさせたい、といった需要もよく聞かれ、これには独自にカスタムしたエージェントやMCPを用意したり、自社の設計データやドキュメントならびにツールチェーンのナレッジなどを加えたファインチューニングによる独自AIモデルを作成するようなアプローチが考えられます。AWSでは製品設計開発におけるAI活用のデモ、ワークショップ、情報発信など数々行っていますので、チェックして頂き、気になるものがあれば近くのAWSメンバーに相談ください。
この分野はすさまじいスピードで進化しており、最近も空間認知能力をもつとされるGPT-6 Astraがリリースされた事で、吊るしの基盤モデルで3D設計も職人級の仕事ができてしまうようになる日もそう遠くないのかもしれません。
直近で開催予定のイベント
- 10/13 – 10/16 CEATEC 2026
- JEITA 主催のデジタルイノベーションの総合展示会が幕張メッセで開催、AWSもブース展示を行います。AWSブースのテーマは「日本の担い手と、フィジカルAI社会を実現するAWS Japan 」です。安川電機様とコラボレーションした展示や、今回CEATEC AWARDを受賞した「AIエージェントがロボットを育てる ― 一行の指示から実機までをつなぐPhysical AI自律R&D基盤」など複数の展示を行う予定ですので是非AWSブースにお立ち寄りください。
- 11/7 JAWS FESTA 2026
- 年に一度、全国各地で開催されるJAWS-UGのお祭イベント。JAWS-UG(ユーザーコミュニティ)主催 で、特定業種ではなく 横断的な技術テーマ が中心で、製造業「専用」のトラックやセッションはありませんが、スマート農業×AI/XR、IoT現場活用、設計書のAI活用、BCP、データ基盤 といった、製造業でも応用できるセッションが複数あります。
- 11/18 – 20 EdgeTech+2026
- 組込み・エッジ技術を中心にAI/IoT/セキュリティ等の最新技術を集めた、300社以上が出展する国内最大級のエッジテクノロジー総合展示会です。パシフィコ横浜で開催され、AWSは組み込み開発や自動車関連の講演を予定しています。
- 11/30 – 12/4 AWS re:Invent 2026
- AWS 最大の学習イベントがラスベガスで開催されます。2,200 を超えるセッションが予定されています。製造業でフィルタリングしたセッションカタログの他、キーノートや展示などでも製造業に関わるトピックが例年存在します。オンラインで視聴できる内容もありますので、是非チェックしてください。
製造関連ブログのご紹介
- 9/2 Building a Production AI Agent on AWS: A Six-Pillar Walkthrough
- 「PoC では動いたエージェントが、本番にはなかなか載らない」。その原因を、作る・試す・動かす・守る・観測する・統制する(Build / Test / Run / Secure / Observe / Govern)の 6 つの柱に分解して解説した記事です。走る例として自動車製造工場の部品在庫エージェントを使い、Amazon Bedrock AgentCore や Bedrock Guardrails、Cedar によるポリシー制御を組み合わせています。エージェントの試作は済んだものの、本番運用に向けた守りと統制の設計をこれから固めたい方に参考になります。
- 9/9 Manage ESG data and simplify Sustainability reporting with Amazon Quick
- サステナビリティ報告の難所は、設備管理・調達・カーボン会計など各所に散らばった情報を監査に耐える開示へまとめ上げる点にあります。本記事は Amazon Quick をサステナビリティ情報のハブとして、要件分析からレポート生成までを 5 つのフェーズで組み立て、ESRS や CDP など複数フレームワークへ一元データからマッピングする構成を示します。報告フレームワークへの対応に追われている方の負担を軽くするヒントになります。
- 9/10 How Apollo Tyres Uses AI-Driven APC for First Time Right Tyre Extrusion
- タイヤの押出ラインでは、レシピを変えるたびに規格外の材料が出る立ち上げが発生し、1 日 30〜35 回の段取り替えを行う現場では総生産量の 5〜6% を占めていました。Apollo Tyres 様は、エッジで動く予測モデルと閉ループの APC 制御で最適な立ち上げ速度を自動付与し、立ち上げ時の手直しを約 26%、安定化時間を約 40% 削減、月あたり約 20 時間の生産時間を回収しました。Apollo Tyres Ltd の Harsh Vardhan 氏との共著です。段取り替えの多いプロセス系ラインで歩留まりとスループットの両立を狙う方におすすめです。
- 9/10 Reducing paint shop downtime with Industrial Data Fabric on AWS
- システムごとにデータが閉じていると、ライン停止の原因を SCADA や MES、停止ログの突き合わせで探すことになり、根本原因分析に 2〜4 時間かかることもあります。Mahindra 様の塗装工場では、分断データを Industrial Data Fabric で文脈化したナレッジグラフ(Amazon Neptune)に統合し、Amazon Bedrock AgentCore 上の 2 つのエージェントが上流の原因まで自然言語で提示します。平均修復時間(MTTR)を 20%、他工場への横展開時間を 30% 削減しました。同じ仕組みを複数拠点へ広げたい方の設計の参考になります。
- 9/27 Building AI-augmented B-pillar DFMEA on AWS: Architecture, multi-agent orchestration, and implementation
- 設計 FMEA(DFMEA)は品質工学の中核ですが、手作業では潜在的な故障モードを見落としやすい課題があります。本記事は自動車の B ピラーを題材に、オントロジーで表現した知識グラフとマルチエージェントのオーケストレーションで、故障モードの網羅性とトレーサビリティ(ISO 26262 / IATF 16949)を高める実装例をサンプルコードとともに示します。確信度が低い場合は人に差し戻す設計で、自律化と品質保証を両立します。FMEA の網羅性やトレーサビリティに課題を感じる設計・品質部門の方に向いた内容です。
- 9/30 【開催報告】組み込みソフトウェア開発でも AI エージェントは活用できる ─ 日立産業制御ソリューションズ様とのワークショップ
- 日立産業制御ソリューションズ様との共催ワークショップでは、既存の組み込みコード(HVAC 制御システム)を題材に、コードの読み解きから仕様の捉え直し、設計、実装、テストまでを AI コーディングエージェント Kiro で体験しました。指示を GitLab の Issue に書き、エージェントが経過をコメントに書き戻すことで、人が判断した箇所がチケットに残る点が長期保守向きです。2 回のワークショップに開発者 102 名が参加しました。既存コードの保守・仕様化という上流工程で AI を活用した効率化を進めたい方におすすめです。
製造関連の主要なサービスアップデート
- 9/18 Amazon Bedrock AgentCore の新しい AgentCore Runtime が一般提供開始
- エージェント実行基盤のサーバーレス環境が刷新されました。セッション中に使われていないメモリを回収する弾力的なメモリ管理と、イメージサイズによらず一定の高速なコールドスタートが特長です。現場支援や保全のエージェントを本番運用する際のコスト最適化につながります。東京リージョン(ap-northeast-1)でも利用できます。ピックアップトピックで触れたエージェントの本番化を下支えする機能です。
- 9/18 Amazon SageMaker HyperPod Inference Gateway
- HyperPod 上での大規模言語モデル推論に向けた、Kubernetes ネイティブなルーティング層です。KV キャッシュの使用率やキューの深さといった実シグナルに基づいてルーティングし、初回トークンまでの遅延を最大 82% 削減します。大規模な産業向け AI 推論基盤を運用する際に関係します。
- 9/26 Amazon CloudWatch Omni
- アプリケーションと AI エージェントを単一の画面で観測できる新しいオブザーバビリティ機能です。OpenTelemetry ベースで既存のテレメトリをそのまま取り込み、サービスの自動検出や依存関係のマッピングを提供します。前述のエージェントの可観測性(Observe の柱)を実装する際の選択肢になります。
- 9/26 Amazon EventBridge の強化されたカスタムイベントバス
- 組織をまたいだイベント駆動アプリケーション向けに、カスタムイベントバスが強化されました。AWS RAM 経由で複数アカウントが共有できる集中バス、順序保証、コンテンツベースの重複排除などに対応します。工場やサプライチェーンをまたぐイベント連携の基盤として活用できます。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
季節の変わり目で寒暖差疲労を起こしやすい時期ですので、風邪などお召しにならないよう体調管理に気をつけてお過ごしください。また来月も月刊AWS製造ブログでお会いしましょう!
著者について
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小川 貴士 (Takashi Ogawa) 国内システムインテグレーターでインフラエンジニアとして従事した後、HPCソリューションアーキテクトとしてAWSに入社。現在は自動車・製造業にフォーカスするインダストリーソリューションアーキテクトとして、主にR&D部門のお客様のDXをご支援しています。 |
