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【開催報告】組み込みソフトウェア開発でも AI エージェントは活用できる ─ 日立産業制御ソリューションズ様とのワークショップ
専門的な知識が求められ、長期間にわたって保守される組み込みソフトウェアの開発では、知識や設計判断をどのように継承するかが重要になります。
2026 年 7 月、株式会社日立産業制御ソリューションズ様(以下、同社)向けに、「Accelerating Smart Product SDLC with AI Agent」ハンズオンワークショップを 2 回開催しました。本稿ではその開催報告をお届けします。
開発者が実際によく目にする既存プロジェクトを題材に、コードや文書を AI エージェントに読み解かせ、仕様を捉え直し、実装とテストまで進める一連の流れを、組み込みソフトウェア開発に携わる 102 名のエンジニアに体験していただきました。
AI によるソフトウェア開発支援というと、新規開発を対象にしたものだと思われたり、コーディングに絞った生産性改善の方法と受け取られたりしがちです。本ワークショップは、既存コードを対象に、AI コーディングエージェント Kiro を開発ライフサイクル全体に適用します。人が作業を指示し、AI が進め、その結果を人が承認します。この役割分担を、各工程で体験いただく構成です。
なぜ組み込みソフトウェア開発の現場で実施したのか
同社では、車載をはじめとする組み込みソフトウェアの開発を担う部門があります。AI エージェントの活用について議論を重ねる中で、まず現場のエンジニアに実際に体験してもらい、どこまで任せられるのかを見極めたい、というご要望をいただきました。
今回の実施に向けた同社との議論では、信頼性や規格への対応、実機での確認などを踏まえ、AI エージェントを適用する工程と人が判断する範囲を見極めることが論点となりました。加えて、受託開発として顧客企業のコードを扱う場合は、開発ツールの利用条件やデータの取り扱いの確認も必要になる、という議論になりました。こうした検討を進めるうえでも、まず AI エージェントが何をどこまでできるのかを、現場のエンジニアの方々に実際に手を動かして確かめていただく場をご用意しました。
ワークショップの内容
題材は HVAC(空調)制御システムです。引き継いだ仕様書と実装が合っていない、というソフトウェア開発でよく見かける状態から始まります。
はじめに Kiro に既存コード(サンプル)を読み解かせ、構造と振る舞いを整理します。続いて、その理解をもとに追加機能の仕様を Kiro との対話でまとめ、最後に仕様を設計に落とし、その設計を AI が実装するタスクへ分解して、実装からビルド、テストまで進めます。
対話だけで AI に指示すると、設計判断や作業の経過が残りにくくなります。透明性を確保するため、ワークショップではチケット管理システムに AI への指示を記載するアプローチを紹介しました。GitLab の Issue に作業を指示すると、Kiro が設計から実装、テストまで進め、経過を Issue のコメントに書き戻します。どこまで AI に任せ、どこで人が判断したかがチケットに残るため、担当者が変わっても経緯を追えます。長く保守されるソフトウェアと相性のよい進め方です。
ワークショップ全体では、この先のクラウド環境へのデプロイと運用までが Lab として用意されています。今回は 4 時間のプログラムとして、調査・仕様の作成・実装にあたる 3 つの Lab を実施しました。
題材は空調ですが、ライフサイクルが長く、実機の制約を前提に設計する点は、車載ソフトウェア開発にも共通します。今回は、車載ソフトウェア開発を中心に、産業機器を手がける方々にご参加いただきました。
当日は、お一人ずつに実行環境をご用意し、実際に Kiro を動かしながら進めていただきました。
ワークショップのフィードバック
参加された皆様からは、次のような声をいただきました。
- 組み込みでも Kiro を活用できる箇所が想像より広く、いろいろな可能性を知ることができた
- AI によるリバースエンジニアリングを体験できた
- どのくらいの作業時間でどの程度のアウトプットが出るか、イメージが湧いた
とりわけ手応えを感じていただけたのは、実際の開発プロジェクトで遭遇する既存コードを読み解く工程と、そこから仕様や設計を文書として残していく工程でした。AI エージェントは実装を速くするための道具にとどまらない、という受け取り方が広がったことが、今回の大きな収穫だったと感じています。ワークショップ後には、業務での利用に前向きな意見も寄せられました。
あわせて、実務に適用するうえでの検討事項も同社からご共有いただきました。ソースコードや設計情報の取り扱い、生成されたコードをどう検証するか、機能安全や規格対応との整合といった論点です。このうちデータの取り扱いについては、入力したコードが学習に使われるかどうか、通信経路や保管先を同社の管理下に置けるか、どのリージョンで AI を使うか、誰がどのような指示を出し AI が何を変更したかを記録に残せるか、という確認事項に整理したうえで、公式ドキュメントをもとにご説明しました。
今後に向けて
ご要望としていただいたのは、HILS(シミュレータで制御対象を模擬する検証環境)やデバッガと連携させた実機に近い工程の扱いと、要求定義や上流設計により特化した内容です。また、今回は時間の都合で実施できなかった後半の Lab、とくにデプロイや運用の工程を試したいという声もいただきました。同社と引き続き検討していきます。
同社 執行役員 コネクティブエンジニアリング事業部長 遠藤 征樹 様からは、次のようなコメントをいただきました。
ミッションクリティカルな組み込みシステム開発においては、品質・安全性の確保と開発スピードの向上を両立することが重要な経営課題です。
今回、AI が既存コードの理解から仕様化、実装、テストまでを支援できることを実践的に確認できました。
人が品質と安全性を判断し、AI が開発を支援する役割分担の実務適用に向け、引き続き検討を進めてまいります。
まとめ
今回のワークショップは、組み込みソフトウェア開発においても AI エージェントを活用できる領域が広くあることを、実際に手を動かしながら確認いただく機会となりました。なかでも、既存コードの理解や仕様の整理といった上流の工程から始めるアプローチは、参加者が AI エージェントの適用範囲を考えるきっかけになったと考えています。
本ワークショップは公開されており、どなたでもご自身の環境で実施いただけます(AWS ブログでも紹介しています)。組み込みソフトウェア開発への AI エージェント適用にご関心をお持ちの方は、担当のアカウントチームまでお気軽にお問い合わせください。


