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ファーストパーティデータによる D2C (Direct-to-Consumer) マーケティングの実現:生成 AI によるパーソナライズされた体験の提供

この記事は 「Mastering Direct-to-Consumer Marketing with First-Party Data: Delivering Personalized Experiences Using Generative AI」(記事公開日: 2025 年 3 月 11 日)の翻訳記事です。

消費財 (Consumer Packaged Goods) 企業が長期的な成功を収めるためには、考慮すべき点がたくさんあります。とりわけ、ブランドイメージを維持し、利益率を改善し、顧客との良い関係を築く新しい方法を見つける必要があります。幸いなことに、生成 AI の出現により、消費財企業がこれらすべての課題に対処できるようになりました。ただし、これは万能のアプローチではありません。AI を組織に導入するだけでは、最大のメリットは得られません。ビジネス目標に沿った戦略的アプリケーションを採用する必要があります。

このため、消費財ブランドは、そうした消費者への D2C 戦略を実施するために、高度な分析と生成 AI のサービスとソリューションを豊富に用意しているアマゾンウェブサービス(AWS)に目を向けています。専用の基盤モデル、豊富なツール、AWS の堅牢なインフラストラクチャを活用することで、企業はファーストパーティデータを実用的なインサイトに変えることができます。サードパーティーデータへの依存を減らし、AWS のソリューションとサービスを使用してパーソナライズされた体験を向上させた Tapestry、Adidas、DoorDash、FrontDoor Inc. の事例を参照してみてください。彼らの投資は事業の将来を見据えたものであり、持続可能な成長を促進し続けています。さらに、今日の競争の激しいビジネス環境においても、プライバシーコンプライアンスを遵守しながら、インサイトを収集し、パーソナライズされた体験を実現しています。このブログではそうした方法についても説明しますが、その前に、こうした変革をもたらした背景について説明します。

ファーストパーティデータによる消費者行動の予測

ファーストパーティデータは、消費財企業が高度な分析機能を通じて顧客のニーズを予測する上で重要な役割を果たします。過去の購入パターンを分析することで、企業は将来のキャンペーン戦略のベースとなる有意義な傾向を明らかにすることができます。高度な機械学習 (ML) モデルは、購入意向や潜在的な解約リスクなどの特定の行動を予測することで、この機能を強化します。消費財企業は、これらのインサイトを活用して、さまざまな顧客セグメントの共感を呼び起こす、セグメント別のターゲットごとに最適化されたメッセージングキャンペーンを推進することもできます。

消費財企業によるファーストパーティデータ戦略への適応

消費財企業は、ロイヤルティプログラムと改善された CRM(顧客管理)システムを通じて収集されたファーストパーティデータを活用することで、Cookie が使えなくなる未来に適応しようとしています。そこで AWS では、パーソナライズされたマーケティング、データ駆動の商品開発、および効果的なターゲット広告のためのリテールメディアネットワークの連携を可能にする 5 つの主要な戦略に焦点を当てることを提案しています。

  1. ロイヤルティプログラムの構築:ロイヤルティプログラムは、報酬と引き換えにデータを共有してもらうよう消費者にインセンティブの形でアプローチします。たとえば、割引や限定商品を提供することで、購入パターンに関する貴重なインサイトを収集し、リピート購入を促すことができます。Starbucks はその好例です。
  2. CRM システムの強化:ファーストパーティデータを CRM プラットフォームに統合することで、消費財企業は詳細な顧客プロファイルを作成できます。こうしたプロファイルを活用して、パーソナライズされたマーケティングキャンペーンや顧客とのより強固な関係構築が可能になります。
  3. パーソナライズされたマーケティングキャンペーン:ファーストパーティデータを分析することで、ブランドは消費者の好みや行動に基づいてオーディエンスをセグメント化できます。たとえば、オーガニック製品(商品)に関心のあるセグメントを特定した企業は、こうした商品を強調してセグメント別のターゲットごとに最適化されたキャンペーンを作成し、コンバージョン率を高めることができます。
  4. 商品開発の最適化:ファーストパーティのデータは、商品イノベーションに役立つ消費者からの直接的なインサイトを提供します。したがって、企業が消費者の間でグルテンフリーのスナックへの関心が高まっていることに気付いた場合、需要に合わせてそうした種類の商品の開発を優先することができます。
  5. リテールメディアネットワーク:iHerb や Oriental Trading などの企業は、Amazon Ads テクノロジーと連携して、パーソナライズされた広告を配信し、広告主とのつながりを最適化し、プラットフォーム全体で買い物客の体験を向上させています。これにより、企業は Amazon Ads をすでに利用しているブランドに広告を簡単に提供できるようになり、広告主とのつながりがスムーズになります。

AWS ベースのファーストパーティデータソリューションの主要インフラストラクチャコンポーネント

消費財企業が長期的な価値を追求したいのであれば、ファーストパーティのデータ戦略に投資すべきです。データの収集と利用に不可欠な AWS ソリューションとサービスを活用することで、企業は長期的な価値をいくつかの方法で実現できます。

  • テクノロジーインフラストラクチャ:顧客データプラットフォーム(Customer Data Platform; 以後 CDP)などのツールを導入することで、企業は複数のソースからの消費者データを統一されたプロファイルに一元化し、パーソナライズされたマーケティング活動を行うことができます。これには、クラウドストレージソリューションと分析ソフトウェアへの投資が不可欠です。
  • データ管理:企業には、クリーンで正確かつ安全なデータを維持するためのプラットフォームが必要です。データレイクには Amazon Simple Storage Service (Amazon S3) 、データウェアハウスには Amazon Redshift というのは素晴らしい選択肢です。というのも、分析を可能にしながら大規模なデータセットを安全に保存できるからです。AWS Glue などのツールは、生データを自動的に取り込んで実用的なインサイトに変換し、データ準備の簡素化をサポートします。
  • データ分析とインサイト:Amazon SageMakerAmazon QuickSightAmazon Bedrock などの AWS 分析ツールは、CDP からのファーストパーティデータを分析してパターンを特定し、消費者の行動を予測することができます。Amazon Q Business の生成 AI 機能は、自然言語によるインサイトを提供し、トレンド分析を自動化し、履歴データとリアルタイムの行動シグナルに基づいて顧客セグメントに関する予測を行います。
  • コンプライアンスへの取り組みとプライバシー遵守:AWS Artifact は、企業が監査レポートにアクセスできるようにし、規制コンプライアンスを維持できるようにする包括的なコンプライアンスツールと認証を提供しています。このソリューションには、きめ細かなアクセス制御、暗号化機能、および地域別のデータ保存オプションが付属しているため、組織は詳細な監査証跡を維持しながら特定のプライバシー要件を満たすことができます。
  • 組織的な連携:Amazon S3 と Amazon Redshift によってデータの保管場所を集約することができますが、消費財企業はこれらを利用して部門間のコラボレーションを促進することもできます。さらに、AWS Lake Formation と AWS Glue を使用して、抽出、変換、およびロード機能とともに安全なデータ共有をサポートできます。最後に、Amazon QuickSight と Amazon OpenSearch Service は、チームが共有データを分析して視覚化するのをサポートします。これらのサービスには、さまざまな部門に適切なアクセスレベルを割り当てて管理するアイデンティティアクセス管理コントロールが含まれます。

こうしたシステム導入には初期投資が必要な場合がありますが、ROI は確実に得られます。IDCForrester の調査によると、ファーストパーティのデータを広告ターゲティング戦略に統合することで、ビジネスに大きなメリットがもたらされることがわかっています。これを実施した企業は、AI 駆動のインサイトを利用してメディア支出を再配分することで、購入数を 500% 向上させ、広告のクリックスルー率(CTR)を 300% 向上させ、顧客満足度を 78% 向上させ、コンバージョン率を 73% 向上させました。

AWS の包括的なツールキットで生成 AI の力を引き出す

AWS のエンタープライズソリューションは、ClaudeLlama 2 などの大規模言語モデル (LLM) へのアクセスを提供する Amazon Bedrock を中核としています。 また、コンテキストに応じたリアルタイムの応答のための検索拡張生成機能が備わっている Amazon Titan にもアクセスできます。Amazon Q for Business では自然言語でデータのやりとりが可能で、Amazon SageMaker はモデル開発およびデプロイツールを提供します。企業はまた、自然言語処理のための Amazon Comprehend、インテリジェントなエンタープライズ検索のための Amazon Kendra、そしてAmazon Q Developer を実装することもできます。これらのツールを組み合わせることで、組織は安全でスケーラブルな AI ソリューションを導入し、さまざまなユースケースを通じてビジネスを変革できます。以下は、AWS のソリューションとサービスを使用して顧客体験とエンゲージメントを強化した方法のほんの一部です。

1. インテリジェントなカスタマーサポート:パーソナライズされたインタラクションをリアルタイムで提供し、日常業務を自動化することで、顧客体験を向上させます。消費財ブランドは以下を使用してこれを実現できます。

a. Amazon ConnectAI 搭載のチャットボットと音声アシスタントにより、24 時間 365 日の顧客セルフサービスを実現し、待ち時間を短縮し、初回問い合わせの解決率を向上させます。
b. Amazon Lex V2:音声とテキストを使用するアプリケーション用の会話型インターフェイスを構築します。Amazon Bedrock の生成 AI 機能を使用して、Amazon Lex V2 ボットのボット作成を自動化し、スピードアップさせます。
c. Amazon Q in Connect :動的で状況に応じた応答を生成し、エージェントと顧客への正確で、共感をもたらすコミュニケーションを実現します。

2. パーソナライズされた顧客エンゲージメント:生成 AI と顧客データ分析を組み合わせることで、高度にパーソナライズされた体験を実現します。これにより、ブランドはマーケティングメッセージ、レコメンデーション、オファーを顧客にあわせて簡単に調整できます。

a. Amazon Personalize :AI により高度にパーソナライズされたユーザー体験をリアルタイムで大規模に提供することで、顧客体験を向上させます。
b. Amazon Bedrock:複数の大規模言語モデル (LLMs) から選択可能で、パーソナライズされた E メール、商品説明、プロモーションコンテンツを生成します。
c. Amazon SageMaker:ML モデルを構築し、ターゲットを絞ったキャンペーンを作成するために顧客行動を分析します。

3. プロアクティブな顧客への働きかけ:生成 AI を使用して顧客のニーズを予測し、タイムリーな対応を開始することで、プロアクティブなエンゲージメントを容易にします。

a. Amazon Connect のセグメンテーション機能:リアルタイムデータと履歴データに基づいて顧客を自動的にセグメント化し、ML と生成 AI の両方を使用してパーソナライズされたアウトリーチキャンペーンを生成します。
b. Amazon Comprehend:顧客からのフィードバックのセンチメントを分析して、積極的にエンゲージすべき機会を特定します。

4. エージェント支援の強化:顧客とのやり取り中に、生成 AI を活用したリアルタイムのインサイト、要約、レコメンデーションをブランド担当者に提供してサポートします。

a. Amazon Q in Connect :通話中やチャット中に関連情報にすぐにアクセスできるため、エージェントの作業体験が向上し、生産性が向上します。
b. Amazon Kendra:インテリジェントなエンタープライズ検索をサポートして、ナレッジベースから正確な回答を取得します。これにより、担当者の調査時間が節約され、提供する情報の正確性が向上します。

5. セルフサービスの強化:生成 AI により、企業は直感的で効果的、かつ高度なセルフサービスオプションを提供して顧客が自分で実行できることを増やします。

a. Amazon Transcribe :自動で音声入力をテキストに変換して、シームレスなやり取りを実現します
b. Amazon Translate :多言語に対応できるため、世界中の顧客にアプローチできます。

生成 AI は、業務のビジネス面だけでなく、顧客にもメリットをもたらします。例としては次のような機能があります。

  • パーソナライズされた自動応答により、問題をより迅速に解決できます。AI を搭載したシステムは、顧客からの問い合わせを即座に分析して応答できるため、応答時間を短縮できます。自動応答は顧客の履歴とコンテキストに基づいてパーソナライズされるため、数時間ではなく数分で正確なソリューションを提供できます。
  • シームレスなやり取りを通じて顧客満足度を高めます。一貫性のある正確な回答は、顧客満足度スコアを向上させることができます。AI システムは、24 時間 365 日、遅延なくサポートを提供し、ピーク時でも高品質を維持したサービスを提供できます。
  • 正確なターゲティングによりコンバージョン率を高めます。AI は顧客の行動パターンと購入履歴を分析して的を絞ったレコメンデーションを提供します。その結果、従来の方法と比較して、クエリの解決が速くなり、コンバージョン率が高くなります。
  • 実際に発生する前に顧客のニーズを予測します。予測分析を使うと、行動パターンと履歴データに基づいて潜在的な顧客ニーズを特定します。これにより、積極的なサポート介入が可能になり、顧客がサポートに問い合わせる回数が減ります。
  • 不満に早期に対処することで解約率を減らします。リアルタイムの感情分析により、解約リスクのある顧客を特定し、即時対応を可能にします。問題の早期発見と解決は、顧客離れを減らし、顧客維持率を高めます。

多様なデータを最大限に活用

ファーストパーティのデータは、第三者による Cookie の利用が制限されつつある状況をうまく乗り切っていかなければならない消費財企業にとって重要な資産として浮上しています。AWS を使用することで、企業は社内と社外の両方でデータをさらに活用できるようになりました。生の顧客データを実用的なインサイトに簡単に変換し、よりパーソナライズされた経験を提供できるので、消費財企業にはこれまで以上に多くの選択肢を持つことができます。

データのニーズについて相談したい場合や、小売店向けに 生成 AI ソリューションを導入する準備ができている場合は、AWS がお手伝いします。 今すぐアカウントチームに連絡して始めましょう。

その他の参考資料

  • Tapestry は、何千人もの店舗スタッフから顧客の需要に関するリアルタイムのフィードバックを収集し、在庫管理と店舗の品揃えを最適化しました。
  • Adidas は AWS の生成 AI を使用して、受信者ごとにカスタマイズされたマーケティングキャンペーンを提供し、エンゲージメント率を向上させています。
  • DoorDash は Amazon Connect と Amazon Lex を使用してインタラクティブな音声応答システムを作成し、エージェントの移動距離を 49% 削減し、ファーストコンタクトの解決率を 12% 向上させ、年間 300 万ドルの経費節減を実現しました。
  • Frontdoor, Inc. の経験から、AI を活用したワークスペースがいかにエージェントの能力を強化し、顧客からの複雑な問い合わせに初日からより効果的に対処できるようになるかが明らかになっています。

著者について

Udit Jhalani

Udit は、バージニア州アーリントンを拠点とする AWS の 消費財シニアソリューションアーキテクトです。彼はクラウドベースのアプリケーションの設計に豊富な経験があります。彼は現在、大企業と協力して、そうした企業が拡張性、柔軟性、耐障害性に優れたクラウドアーキテクチャを構築することを支援し、クラウドに関するあらゆることを指導しています。彼はニューヨーク州立大学でコンピューターサイエンスの理学修士号を取得しており、「ソフトウェアは進化させなければ意味がない」という Dr. Werner Vogels の格言を信奉しています。

Krishnan Harihanan

Krishnan はシカゴを拠点とする AWS のソリューションアーキテクチャ兼シニアマネージャーです。現在の役職では、顧客、商品、テクノロジーに関する広範な知識、運用に関する多様なスキルを活用して、小売/消費財企業の顧客が AWS を使用して最適なソリューションを構築できるよう支援しています。AWS に入社する前は Kespry 社の社長兼 CEO、LightGuide 社の COO を務めていました。デューク大学 Fuqua School of Business で経営学修士号を、デリー大学で電子工学の理学士号を取得しています。

本ブログは CI PMO の村田が翻訳しました。原文はこちら