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株式会社アクト・ノード様の AWS 生成 AI 活用事例:Amazon Bedrock Agent Coreで実現する「見守りエージェントAI」。一次産業の人手不足と熟練知識の属人化を解決し、見守り頻度を最大48倍に拡大、生産者の工数を50%削減

本ブログは株式会社アクト・ノード様とAmazon Web Services Japan 合同会社が共同で執筆いたしました。

みなさん、こんにちは。AWS アカウントマネージャーの池田です。

日本の一次産業では、深刻な人手不足と熟練知識の属人化が大きな課題となっています。日本の一次産業従事者は2005年比で2025年には半減し、今後20年で更に4分の1になると推計されています。

株式会社アクト・ノード様は農業・畜産・水産養殖の現場のDXを推進するサービス「 ACT.app 」を提供されております。(AWS導入事例

農業・畜産・水産養殖の現場では、環境や生育状態の継続的な監視と異常時の早期対応が必須ですが、熟練者による現地見回りに依存しており、1日1~3回が限界です。そこで、生産者が自然言語で養鶏の様子を相談すると、AIが見守り要件を理解しカメラ画像を自律分析する「見守りエージェントAI」を開発されました。

本記事では、Amazon BedrockAmazon Bedrock Agent Core, Amazon Nova を活用した、一次産業の根本的な課題解決への取り組みについてご紹介します。

お客様の状況と経緯

株式会社アクト・ノード様は、農業・畜産・水産養殖の現場のDXを推進するサービス「ACT.app」 を提供されており、以下の課題に直面されていました。

業界を取り巻くビジネス上の課題

日本の一次産業従事者は2005年比で2025年には半減し、今後さらに減少速度が加速していく見通しです。現場では熟練者が自分の目で見回りを行って異常を判断していますが、物理的に 1 日 1~3 回の見回りが限界で、夜間に異変が起きてしまうと翌朝まで気づけません。

しかも、見守りたい対象は現場ごとにまったく異なります。養鶏場では鶏の暑熱反応、果樹園では開花状況、水産養殖では魚の水面呼吸など。こうした多種多様に分布するニーズのひとつひとつに合わせた形で専用の画像認識 AI やセンサーを開発・導入していては、コストが合いません。

もう一つの根深い問題が、熟練知識の属人化です。それぞれの生き物について、どんな観点から何を見れば良いか、という知見はベテランの頭の中にしかない。言語化するのが難しく、世代交代とともに失われる知識も多くあります。

システム上の課題

また、前述のビジネス上の課題に加え、システム的な課題もあります。既存の定点カメラは単純な記録にとどまり、異常検知は結局、人間が映像を目視して判断するしかありませんでした。つまり、システム化を行い、カメラで映像を確認できるようにしたとしても、経験や知識が豊富な人間が判断する、という状況は変わらなかったわけです。

これらの課題に対してアクト・ノード様が目指したのは、生成 AI を利用した汎用的な見守りプラットフォームへの転換でした。下図は、従来の見守り業務(As-is)と、見守りエージェントAI導入後(To Be)の比較です。

ソリューション / 構成内容

「見守りエージェントAI」は、大きく3つのステップで動作します。① 生産者がAIにチャットで相談し「見守りリクエスト」を生成 → ② 現場のカメラから画像を取得 → ③ AIが「見守りリクエスト」に従い画像を分析し、異常時にアラート通知。この一連の流れを、2つのAIエージェントが連携して担います。

ステップ①:見守り相談AI – エージェントAIとチャットで会話し「見守りリクエスト」を生成

生産者がチャットで「鶏が暑がって口をあけていないか見守ってほしい」と入力するところから始まります。AIが対話を通じて要件を掘り下げ、見守りの対象、検知すべき状態、アラート条件を整理。最終的に「見守りリクエスト」という構造化データ(JSON + 参考画像)を自動生成します。

ここで重要なのが、従来の画像認識 AI とのアプローチの違いです。従来は認識したい対象ごとに大量の学習データを用意する必要がありました。本システムでは、参考画像を数枚と説明文を組み合わせる Few-shot examples の手法を採用。たとえば、鶏が暑さを感じたときに口を大きく開けて呼吸する「パンティング」という行動を、参考画像と説明文を「お手本」として AI に理解させ、検出できるようにしています。

基盤モデルとして Amazon Bedrock 上の Anthropic Claude を採用。Amazon Bedrock Agent Core の会話メモリ機能により、セッションをまたいだ文脈の維持にも対応しました。

ステップ②③:見守りAI — 見守りAI – Webカメラの画像を定期的に取得し自律分析する

「見守りリクエスト」が作成されると、見守り AI が稼働を開始します。現場に設置済みの定点カメラから画像を取得し(既存設備をそのまま活用)、リクエストの内容に基づいて自律的に分析。30 分に 1 回、1 日 48 回の画像分析が可能で、従来の人手による 1 日 1 回の見回りとは桁違いの監視頻度です。

検出結果は JSON 形式の構造化データとして記録され、異常時にはアラートを自動通知します。蓄積された見守り結果は生育履歴データとなり、環境データや作業記録と組み合わせた分析にも活用できます。

導入効果

「見守りエージェントAI」の導入により、以下の効果が実現されています。既に養鶏事業者の青木ブロイラー様の現場で実証実験をすすめています。

見守り頻度:1日1回 → 最大48回

人手による見回りでは物理的に1日最大3回が限界だった監視を、AI が 30 分間隔で代行。24 時間 365 日、夜間や早朝も含めた常時監視が可能になりました。

暗黙知のデータ化(言語化)

注目すべき副次効果もありました。生産者がチャット AI に見守り内容を伝える過程で、「経験と勘」にとどまっていた暗黙知が「見守りリクエスト」として言語化・構造化されていくのです。効果の高い見守りパターンを生産者間で共有する仕組みも計画中で、属人的だった生産技術の継承を加速するプラットフォームへの発展が見込まれます。

検出精度の現状

養鶏の暑熱反応検知シナリオでは、AIによる自律的な見守りが実用レベルで機能することを確認しました。ユーザーの目視判断と比較して検出精度にはまだ改善の余地がありますが、現場から「継続利用する価値がある」との評価を得ています。Few-shot examples の追加やモデル改善により、精度は着実に上がってきています。

今後の展望

現在は養鶏が主な実証対象ですが、アクト・ノード様はすでに次の展開を進めており、「見守りエージェントAI」のさらなる機能拡張を計画されています。

対応分野の拡大

柑橘類(みかん)の開花状況監視など、養鶏以外の農業分野への適用を検討中です。農林水産省のスマート農業実証プロジェクトにも認定されており、一次産業全体への横展開が視野に入っています。

見守りリクエストの共有

ある生産者が作った効果的な見守りパターンを、別の生産者がそのまま使える仕組みです。前述の「暗黙知の見える化」で生まれた見守りリクエストが、ベストプラクティスとして流通するイメージです。

マルチデータ対応

カメラ画像だけでなく、環境センサーやアプリの作業記録など、複数のデータソースを組み合わせた見守りへと拡張する計画もあります。画像で「鶏の様子がおかしい」と検知し、同時に温度センサーで「鶏舎内が xx℃ を超えている」と確認できれば、判断の精度は格段に上がります。

まとめ

本企業は日本の一次産業を取り巻く課題を、AI エージェントを活用して解決する好例です。 アクト・ノード様の新技術への積極的な姿勢と、AWS が提供する使いやすい生成 AI サービスの組み合わせが、革新的なソリューション開発につながりました。 アクト・ノード様による「見守りエージェント AI」は、一次産業の深刻な人手不足を技術で解決し、食の安定確保に貢献することが期待されています。

代表取締役百津様からのコメント

「一次産業の現場では、多様な見守りニーズがロングテールに分布しており、従来の専用AI開発では対応しきれませんでした。Amazon Bedrock により、生産者の自然言語での要件定義を理解し、自律的に見守りを実施するエージェントAIを実現できました。生成AIの力で、一次産業の人手不足と熟練知識の属人化という根本的な課題を解決できることを実証できました。」

本取り組みは、経済産業省・NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)主催の「GENIAC PRIZE」にもエントリーしており、国産基盤モデルを活用した生成AIの革新的な活用事例としても取り上げられています。また、農林水産省のスマート農業実証プロジェクトにも認定されており、国を挙げた一次産業のDX推進において重要な役割を果たしています。

アカウントマネージャー 池田 華子

ソリューションアーキテクト 小林 大樹