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Amazon Connect Global Resiliency で実現するマルチリージョン高可用性

はじめに

アマゾン ウェブ サービス (以下、AWS) は、2025年6月30日に Amazon Connect の機能として Amazon Connect Global Resiliency(以下、ACGR)を日本で一般提供開始しました。これにより、AWS アジアパシフィック(東京)リージョンで Amazon Connect インスタンスをご利用されているお客様が、AWS アジアパシフィック(大阪)リージョンのインスタンスに設定を同期し、フェイルオーバーできるようになりました。日本国内にある2つの AWS リージョン間で Amazon Connect Global Resiliency を利用することによって、地域的な災害や障害が発生した場合のダウンタイムを最小限に抑えることができます。また、データを日本国内に保持しながら、コンタクトセンターの可用性を高めることができます。

本ブログでは Amazon Connect が備えている信頼性について改めて解説した上で、ACGR の機能概要と利用にあたりお客様にご理解いただきたい事項、日本で利用可能なACGR の機能についてご紹介します。ACGR の詳細な解説については、管理者ガイドをご参照ください。

Amazon Connect の信頼性

Amazon Connect は、AWS グローバルインフラストラクチャ上にデプロイされるオムニチャネルのクラウドコンタクトセンターです。AWS グローバルインフラストラクチャは、AWS リージョンとアベイラビリティーゾーンを中心に構築されています。AWS リージョンは、低レイテンシー、高スループット、高い冗長性を備えたネットワークによって接続された、物理的に独立した複数のアベイラビリティーゾーンを提供します。アベイラビリティーゾーンは、単一または複数のデータセンターインフラストラクチャよりも可用性が高く、耐障害性に優れ、スケーラブルです。

Amazon Connect は、サービスを提供している各 AWS リージョンにおいて、3つ以上のアベイラビリティーゾーン (AZ) に冗長な専用ネットワーク経路を持つ、複数の通信事業者と接続しています。特定のコンポーネント、データセンター、または AZ 全体に障害が発生した場合、影響を受ける箇所は自動的にシステムから除外されます。これにより、お客様に一貫した品質の体験を提供することが可能です。

Amazon Connect に接続する各通信事業者は、アクティブ/アクティブ構成で複数の AZ に接続されています。これにより、ネットワーク経路や AZ 全体の障害がお客様の体験に影響を与えることはありません。また、異なる通信事業者の複数電話番号を利用するデザインにすることで、万一通信事業者に障害が発生した場合でもお客様は別の電話番号を利用してコンタクトセンターに問い合わせることが可能になり、影響を最小限に抑えることができます。詳細については Amazon Connect の耐障害性をご覧下さい。

図1.単一リージョンのテレフォニーとソフトフォンのアーキテクチャ(出典:Amazon Connect 管理者ガイド

マルチリージョンの Amazon Connect デプロイメントを検討されるお客様はまず、シングルリージョン/マルチ AZ デプロイメントではお客様のニーズを満たせない理由を明確にし、理解することが重要です。次に、お客様の災害復旧やビジネス継続性に関する要件が、運用やコンプライアンス、その他の規則や規制に関連し、マルチリージョンを必須要件としているかなどを 、AWS のソリューションアーキテクトと議論してください。また、お客様の本番環境で ACGR をご利用いただくには、AWS Well-Architected FrameworkAmazon Connect Custom Lens を確認することが前提条件となります。Well-Architected Framework のレビューを実施することで、ACGR の必要性を確認することができます。

ACGR の機能概要

ACGR は、Amazon Connect に地理的なテレフォニー(電話通信)の冗長性を提供し、予期しないリージョンの機能停止や中断が発生した場合に、インバウンドトラフィックとエージェントを別のリージョンの Amazon Connect インスタンスに分散する柔軟なソリューションを提供します。お客様は複数の AWS リージョンに Amazon Connect をデプロイし、どのリージョンで着信コールを受信し、エージェントが対応するかを API によって制御できます。

  • コンタクトセンターのお客様は、フェールオーバー後も同一の電話番号を使用して問い合わせが可能です。
  • コンタクトセンターのエージェントは、フェールオーバー後もログインし直すことなく業務継続が可能です。
  • ソースインスタンスとレプリカインスタンスは、自動的に双方向で設定を同期します。

これらの機能を理解するために、以下ではいくつかの概念と関連用語を解説します。

トラフィック分散グループ (TDG)

トラフィック分散グループ (TDG) は、異なる AWS リージョンにある Amazon Connect インスタンスをリンクするリソースです。ACGR の使用を開始すると、デフォルトの TDG が1つ作成されますが、事業部別窓口などのユースケースに基づいて TDG を追加することもできます。TDG では、トラフィックやエージェントログインの分散を割合 (%) で指定します。コンタクトセンターの管理者はTDG ごとの割合を操作することで、お客様の問い合わせトラフィックをルーティングするリージョンと、エージェントがログインするリージョンを変化させることができます。

図2.トラフィック分散グループ(出典:Amazon Connect Global Resiliency Workshop

グローバルサインイン

ACGR により、コンタクトセンターのエージェントは業務開始時に1度サインインするだけで、どのリージョンを利用しているかを意識することなく、現在アクティブなリージョンを利用してお客様の問い合わせに対応できます。管理者が API を使用して TDG のエージェントログイン先を変更した場合、エージェントが再ログインすることなくアクティブなリージョンに切り替わります。これは、エージェントが ACGR に対応するオプションを有効化したカスタム CCP を利用している場合、またはエージェントワークスペースを使用している場合に有効です。

図3.グローバルサインイン(出典:Amazon Connect Global Resiliency Workshop

グローバル設定管理 (GSM)

ACGR の利用を開始する際は、API を使用してソースインスタンスのレプリカを作成します。これにより、グローバル設定管理サービスは初期レプリケーションプロセスとして、AWS リージョン間で Amazon Connect 設定を複製します。この最初のステップが正常に完了すると、複製されたリソースに対して行われた変更は、ソースまたはレプリカインスタンスのいずれであっても、リージョン間で継続的に双方向で同期されます。同期対象のリソースはこちらを参照してください。レポート、ルール、ビューなどのデータや設定は対象外です。また Amazon Connect が連携している Amazon Lex や AWS Lambda、Amazon S3 上のデータも同期の対象外です。対象外の設定やデータのうち運用に必要となるものは、お客様の責任において設定やデータの複製を実施いただく必要があります。

図4.グローバル設定管理(出典:Amazon Connect Global Resiliency Workshop

ACGR の監視と運用

ACGR の運用は、お客様と AWS の共同責任です。AWS は2つの AWS リージョンでフェイルオーバーするためのインフラストラクチャを提供する責任があります。お客様は、インスタンス設定を最新の状態に保ち、お客様ごとのビジネス要件に基づいてトラフィックとエージェントの分散を管理する責任があります。また、インスタンスを監視しシステム状態とパフォーマンスにおける異常や、通常と異なる動作を発見する仕組みを準備することが求められます。さらにお客様は、独自の事業継続プロセス (BCP) および標準運用手順 (SOP) において、フェールオーバーの承認プロセスや判断基準を定義しておく必要があります。

ACGR の運用にあたっては、Amazon Connect インスタンスのモニタリングと、ACGR のモニタリングも必要となります。インスタンスのモニタリングでは、アクティブな通話数やコンタクトフローのエラーなどにより、Amazon Connect の健全性を確認します。ACGR のモニタリングは、設定のミラーリングプロセスを確認することで、ACGR 自体の健全性を確認します。これらの監視にあたっては、 Amazon CloudWatchAWS CloudTrail を活用することができます。

日本における ACGR 利用上の注意事項

AWS アジアパシフィック (大阪) リージョンの Amazon Connect は、AWS アジアパシフィック (東京) リージョンのビジネス継続性を確保するために、音声、チャット、タスクのチャネルを利用することが可能です。2025年6月30日時点では、アジアパシフィック (大阪) リージョンにおいて以下の機能はサポートされていません。

  • Amazon Lex
  • Amazon Connect Contact Lens
  • Amazon Q in Connect
  • Amazon Connect Customer Profiles
  • Amazon Connect Cases
  • アプリ内通話、ウェブ通話、ビデオ通話機能、および画面共有機能
  • 予測、キャパシティプランニング、スケジューリング
  • Amazon Connect アウトバウンドキャンペーン
  • ステップバイステップガイド

このため TDG による分散は、通常時が東京100% / 大阪0%、フェールオーバー時は東京0% / 大阪100% という設定で運用されることになると想定しています。これ以外の設定で東京と大阪を同時に利用する場合、お客様およびエージェントごとの体験に差異が生じる恐れがあります。また、フェールオーバー時に継続利用可能な電話番号は、2025年6月30日時点で TFN (料金無料通話番号)をサポートします。

まとめ

ACGR の一般提供開始により、地理的に離れた場所での災害対策を必要とするお客様や、国内でデータを保存する要件のあるお客様のニーズにお応えすることが可能になります。ACGR の利用を開始するには、AWS のアカウントチーム、テクニカルアカウントマネージャー、または Amazon Connect ソリューションアーキテクトにお問い合わせください。詳細なセットアップの方法や、切り替えテストの手順、ベストプラクティスについては、Amazon Connect Global Resiliency Workshop を参照してください。