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顧客の統一ビューを構築する方法
この記事は How to create a unified view of your consumer (記事公開日: 2025 年 6 月 13 日) を翻訳したものです。
はじめに
今日の競争の激しいビジネス環境において、顧客の 360 度ビューを構築することは、顧客体験の向上、運用戦略の最適化、そしてマーケティング効率の改善につながります。顧客の行動は、従来の実店舗での対面取引から、データに基づくオンラインでの個別対応へと変化しています。企業は、情報の中から必要なものを整理することで、顧客についてより多くのことを学ぶことができます。顧客の統一ビューとは、企業が顧客と持つすべての接点やデータソースから得られる、様々な異なる情報を統合し連携させる能力を指します。これには、取引履歴、ロイヤルティプログラムの会員情報、ウェブサイトやモバイルアプリの訪問記録、カスタマーサービスとのやり取りなどが含まれます。これらすべてのデータソースには顧客の行動に関する貴重な洞察が含まれていますが、それぞれ異なる顧客データの要素と紐づいており、連関のないシステムに分散して保存されています。顧客は、ウェブサイト、モバイルアプリ、実店舗、様々なマーケティングキャンペーンを通じてブランドと接触し、それぞれの接点で独自の記録が生成されます。Amazon Connect Customer Profiles と AWS Entity Resolution を使用してこれらの断片化されたデータポイントを単一の一貫したプロファイルに統合することで、企業は顧客をより深く理解し、真にパーソナライズされた体験を提供できるようになります。
ある銀行の顧客であるシャーリーさんの例を考えてみましょう。長年にわたって、シャーリーさんは当座預金口座を開設し、クレジットカードを申し込み、住宅ローンを申請し、銀行のリワードプログラムに登録し、カスタマーサポートチームに何度も連絡を取っています。しかしながら、このデータは断片化されています。
- 後に買収された地方銀行で口座を開設していた
- 住宅ローンは現在住んでいない住所と関連付けられている
- 個人口座と法人口座を異なる請求情報で開設している
これらの要因により、銀行はシャーリーさんとの関係について部分的な把握しかできていない可能性があります。その結果、以下のような機会を逃すかもしれません。
- 過去の履歴に基づくオーダーメイドのオファー提供
- 過去の行動パターンに基づくニーズの予測
- カスタマーサービス連絡時の効率的な問題解決
しかし、AWS Entity Resolution を活用することで、銀行はシャーリーさんのすべての記録とやり取りを連携させ、顧客としての包括的な理解を得ることができます。そして、Amazon Connect Customer Profiles を使用してシャーリーさんの統一された信頼できる記録を作成し、銀行とのやり取りがあるたびにリアルタイムで更新されるシステムを構築できます。
主な課題
シャーリーさんのような顧客に、より良い体験を提供するために、企業は以下のような課題に対処する必要があります:
- データの断片化:顧客データは、異なるスキーマ、形式、場所、アクセス方法を持つ相互に関連のないアプリケーションに分散しており、一元化が困難になっています。
- 一貫性のない顧客プロファイル:企業は結果的に、一貫性がなく、不完全で、時には矛盾する顧客情報を抱えることになります。これにより、各個人について明確で正確な理解を築くことが困難になります。
- パーソナライゼーションの困難さ:統一された顧客ビューがなければ、真にパーソナライズされた体験を提供することはほぼ不可能になります。企業は再訪問した顧客を認識できず、関連性の高い推奨事項を提供できず、複数の接点にわたってシームレスな体験を提供できなくなる可能性があります。
- マーケティングと営業の最適化不足:断片化されたデータは、企業が意味のある洞察を得て、購買ジャーニーをマッピングし、ターゲットを絞った効果的なマーケティングキャンペーンを実行する能力を阻害します。これにより、マーケティング予算の無駄遣いや営業機会の損失につながる可能性があります。
- コンプライアンスとプライバシーのリスク:GDPR (一般データ保護規則) や CCPA (カリフォルニア州消費者プライバシー法) などの現代のデータプライバシー規制では、企業が各顧客について収集・保存する個人データを包括的に理解し、アクセス要求、監査、オプトアウト、削除に使用することが求められています。断片化されたデータでは、このような規制への準拠が困難になります。
これらの課題に対処し、顧客データを統一ビューに統合することで、企業は顧客体験の向上、成長の促進、競争優位性の維持のための豊富な機会を得ることができます。
このブログでは、Amazon Connect Customer Profiles と AWS Entity Resolution を使用して顧客の統一ビューを作成する方法について説明します。
ソリューション
Amazon Connect Customer Profiles は、連絡先情報や取引履歴からサポートでのやり取りや設定まで、すべての関連する顧客情報を統合・保存し、単一の統一された顧客プロファイルにまとめて実用的な洞察を作成します。これらのプロファイルには、最も重要な連絡先情報、最新のやり取り、その顧客に関するその他の計算された洞察が含まれています。Amazon Connect Customer Profiles は、主要な顧客データシステムとノーコードで統合でき、データを自動的に取り込んで、整理・保存します。保存したデータは、Amazon Connect 内ですぐに検索やアクセスのために利用できます。AWS Entity Resolution とシームレスに統合することで、Amazon Connect Customer Profiles は各プロファイルが重複排除された顧客エンティティにリンクされることを保証し、一貫性のない断片化されたデータのリスクを排除します。
AWS Entity Resolution は、企業が複数のアプリケーション、チャネル、データストアに保存されている関連する顧客、製品、ビジネス、またはヘルスケア記録をマッチング、リンク、拡張するのに役立ちます。このサービスは、ルールベースと機械学習ベースのマッチング技術を活用することで、断片化された消費者データの課題に対処します。AWS Entity Resolution は、異なるソースから消費者記録を取り込み、重複を排除し、一意の消費者エンティティを特定します。同じ消費者に属するすべての記録に一意の matchID を割り当てることで、このサービスは分析とセグメンテーションのために統合できるすべてのデータソースの鍵となる、人を表す共通キーを作成します。AWS Entity Resolution は、アイデンティティ解決パイプラインの構築に必要な重い作業 (データ正規化、大規模データセットでのペア生成、比較分散、ID 一貫性、クラスタリング、分割) を取り除くため、複雑なデータエンジニアリングソリューションを構築する代わりに、設定しやすいマッチング技術を使用できます。ルールベースマッチングの開始方法がわからない場合、ML ベースマッチングは個人識別情報 (PII) ベースのデータに対して業界最高水準の精度を提供し、設定が不要です。
企業は、AWS Entity Resolution で処理されたデータ基盤を基に、Amazon Connect Customer Profiles を使用することで、各顧客の包括的で実用的な 360 度ビューを構築することもできます。
この統合ソリューションの主要なメリット :
- 統一された顧客インテリジェンス:企業は、すべての接点とやり取りを通じて、各顧客の属性、行動、興味、課題点を含む包括的な理解を得ることができます。
- パーソナライズされた体験:顧客の完全なビューがあることで、組織は高度にパーソナライズされた製品、サービス、コミュニケーションを提供し、顧客ロイヤルティと満足度を向上させることができます。
- よりパーソナライズされたマーケティング:断片的または重複した記録をマーケティングや広告キャンペーンに使用すると、マーケティング予算の無駄遣い、キャンペーン結果の悪化、冗長なメッセージングによる顧客への迷惑につながる可能性があります。
- パーソナライズされたカスタマーサポート:カスタマーサービス担当者は、顧客の履歴や過去のやり取りの全体像に素早くアクセスでき、より迅速で効果的なサポートを提供できます。
- クロスセルとアップセルの改善:顧客の全体的なジャーニーと製品・サービス利用状況を理解することで、企業は関連性の高いクロスセルとアップセルの機会を特定し、収益成長を促進できます。
- コンプライアンスとプライバシー規制への対応:GDPR や CCPA などの現代のデータプライバシーポリシーでは、企業が各顧客について収集・保存することが許可されている個人データを包括的に理解する必要があります。また、オプトアウトや記録削除の要求をすべての規制基準に従って適切に実行する必要があります。
- 連絡設定の尊重:顧客が電話やメールでの連絡を希望しない場合、複数の電話番号やメールアドレスを持っていても、その意志を尊重することで企業はより良い体験を提供できます。
Amazon Connect Customer Profiles と AWS Entity Resolution の力を組み合わせることで、企業は消費者の包括的な 360 度ビューを実現し、顧客理解とビジネスインパクトの新たなレベルを実現できます。
仕組み
以下のリファレンスアーキテクチャは、Amazon Connect Customer Profiles と AWS Entity Resolution が顧客データを統合して、顧客離脱の削減、パーソナライゼーションの向上、カスタマーサービスの改善などに使用できる 360 度ビューを作成する方法を概説しています。
Amazon Connect Customer Profiles and AWS Entity Resolution reference architecture
消費者の記録とやり取りを含むデータソースは、重複排除、マッチング、リンクのために AWS Entity Resolution に送信されます。これらのソースには通常、消費者の個人識別情報 (PII) が含まれており、ロイヤルティ登録システムや CRM システムが良い例です。AWS Entity Resolution のマッチングロジックと設定により、顧客は複数の接点や複雑なロジック、あいまいなアルゴリズムを活用するルールを構築できます。また、機械学習ベースのマッチングモデルを使用することで、複雑なルールを使用せずに PII を用いて正確なデータマッチングを行うことも可能です。
その後、Amazon Connect Customer Profiles は、マーケティングオートメーション、コールセンターのやり取りの記録、ユーザー設定などの他のデータソースを取り込んで、顧客に関する実用的な洞察を作成できます。これらのソースは同じロジックを必要とせず、通常はアカウント ID などの特定のキーや識別子を使用して、既知のユーザー / エンティティに紐づけられます。
このようにデータソースを分離することで、アーキテクチャは各 AWS サービスの使用を最適化できます:
- AWS Entity Resolution は、主要な記録システムから顧客識別子へ顧客 ID を解決・リンクするという中核タスクに集中します。
- Amazon Connect Customer Profiles は、解決された顧客データを追加のエンゲージメントデータと集約して、各顧客識別子の総合的な 360 度ビューを提供します。
このアプローチにより、効率的なデータ処理が保証され、パーソナライズされた体験、ターゲットを絞ったマーケティング、強化された顧客インサイトをサポートする包括的で統合された顧客ビューの作成が可能になります。
顧客への理解を深めるにつれて顧客データは時間の経過とともに変化するため、企業はプロファイルの変化に応じて成長・進化できる柔軟なアーキテクチャを計画する必要があります。多くの消費者は、匿名の訪問者と既知の訪問者の両方として、様々なチャネルを通じて企業とやり取りします。チャネル間でのこのようなデータの断片化は、同一人物に対して複数のプロファイルが作成される原因となることが多く、その瞬間に個人を特定することが困難になります。この問題に対処するための一般的なアプローチは、AWS Entity Resolution のルールベースと機械学習ベースのマッチングを活用することです。不完全な情報により、最初のルールベースマッチングでは別々のプロファイルが作成される可能性がありますが、AWS Entity Resolution の機械学習を活用したマッチング機能を時間をかけて適用することで、これらの異なるプロファイル間でより堅牢なリンクを提供できます。このような方法で顧客データを統合することで、組織はより総合的で統一された消費者ビューを獲得し、やり取り全体でよりパーソナライズされたシームレスな体験を提供する力を得ることができます。
プロファイルが作成され、顧客データフィードが Amazon Connect Customer Profiles に送られてプロファイルを充実させるようになると、企業は Amazon Connect Customer Profiles を顧客データファブリックとして使用し、複数のチャネルを通じてセグメンテーション、分析、パーソナライゼーションを行うことができます。Amazon Connect Outbound Campaigns を使用して、企業はアウトバウンドメール、SMS、プッシュ通知イベント用のオーディエンスセグメントを作成したり、顧客プロファイルの属性をカスタマーサービスアクション、アウトリーチ、体験のトリガーとして使用できます。さらに、ユーザーは統合された顧客ビューを、Adobe や Salesforce を含む任意の顧客データプラットフォームにおいて、統合された豊富で最新の顧客ファブリックとして使用できます。
顧客成功事例
United Airlines (ユナイテッド航空) などの顧客は、AWS Entity Resolution と Amazon Connect Customer Profiles を使用して統一された顧客ビューを構築することで、最終顧客満足度とマーケティング予算の ROI を大幅に改善しました。
ユナイテッド航空は、AWS Entity Resolution を使用して、ルールベースマッチングによる確定的 ID と、ML ベースマッチングモデルによる確率的 ID の両方を作成しました。ML ベースとルールベースの両方のマッチングを適用することで、ユナイテッド航空は 90% を超えるマッチング精度を達成しました。
「AWS Entity Resolution を使用することで、すべての予約に対して、リアルタイムでその顧客に正しい確率的 ID を関連付けることができます」と、ユナイテッドのカスタマートラベルエクスペリエンス担当マネージング・ディレクターの Mahesh Veda 氏は述べています。「これにより、顧客の全体的なジャーニーの統一ビューが作成されます。」
ユナイテッド航空は、旅行者とゲストのデータを連携させて洞察を得て、パーソナライゼーションを推進しています。このソリューションを使用することで、予約データベースや CRM ソフトウェアなど、14 の基幹システムとレガシーシステムからデータを取り込んでいます。新しいソリューションにより、ユナイテッド航空は重複する顧客記録を 35% 削減し、インフラストラクチャの統合により運営コストを 30% 削減しました。そして最も重要なことは、顧客が旅行体験の違いを実感したことです。
「ネットプロモータースコアが 15% 向上しました」と Veda 氏は述べています。「お客様は『この方法で予約して戻ってきても、あなたたちは私のことを覚えてくれている』と言って喜んでいます。」
まとめ
企業は多くのチャネルから顧客の断片化されたデータを収集していますが、そのデータを正確に統合することに苦労しています。Amazon Connect Customer Profiles と AWS Entity Resolution は、多くのソースからのデータを統合し、重複するプロファイルをマージして、よりパーソナライズされた体験を提供するために使用できる統一されたビューを作成します。AWS の担当者にお問い合わせいただくか、Amazon Connect Customer Profiles と AWS Entity Resolution を使用して顧客の統一ビューを構築し、より良い洞察と顧客へのパーソナライズされた体験を実現する方法について、オンラインで詳細をご確認ください。
本稿の翻訳は、ソリューションアーキテクトの髙橋が担当しました。原文はこちら。