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【開催報告&動画公開】AWS で実現する企業の包括的サイバーセキュリティ対策 – DDoS 攻撃・ランサムウェア対策から学ぶ、クラウド型のセキュリティアプローチ
はじめに
2025 年 4 月 17 日、「AWS で実現する企業の包括的サイバーセキュリティ対策」と題したセミナーを開催いたしました。昨今の IT 環境は激しい変化の中にあり、特にランサムウェアや DDoS 攻撃など、企業の IT システムに対する脅威が社会的にも大きな関心を集めています。
本セミナーでは、セキュリティに携わる方、ご興味がある方向けに AWS を活用した包括的なサイバーセキュリティ対策についての知見を共有いたしました。当日参加できなかった方や、参加したけれども内容を振り返りたい方に向けて、セミナー動画を公開するとともに、当日の概要についてもご紹介いたします。
セッションの紹介
1. オープニングセッション
アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 シニアセキュリティソリューションアーキテクト
勝原 達也
「AWSにとって、セキュリティは最優先事項です」— 本セミナーはこの AWS が大切にしているメッセージから始まりました。AWS の CEO であるマット・ガーマンは 2024 年の AWS re:Invent のキーノートで「すべてはセキュリティから始まる(Everything starts with security)」と述べています。セキュリティは大企業からスタートアップまですべての顧客が気にしているポイントであり、クラウドの基盤として組み込まれるべきものです。
一方、お客様の情報システムを取り巻く環境は日々変化しており、考慮すべきアクセスパターンは増え、外部からの脅威だけでなく内部からの脅威を想定したアプローチも求められています。また社会を支えるシステムの重要度が一層高まっていく点についても十分な考慮が必要です。
セッション中では、CISO との対話の中で得た昨今の印象的なエピソードとして、株主総会において株主から「うちのセキュリティは大丈夫なのか」という質問が出るようになってきたことについても語られました。これは、現場レベルだけでなく、経営レベルでのセキュリティ取り組みの重要性が高まっていることを示唆しています。
2. AWS で実現するセキュリティ
アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 パブリックセクター技術統括本部 シニアソリューションアーキテクト
日吉 康仁
本セッションでは、AWS の特性を活かして、セキュリティと俊敏性を両立しながら、継続的にセキュリティの改善を実現することの重要性について説明しています。
はじめに、世の中の動向として、クラウドを利用していない企業が利用しない理由としてセキュリティへの不安を挙げている一方で、クラウドを利用している企業のが、導入理由として信頼性の高さや情報漏洩対策を挙げており、セキュリティに対する認識にギャップがあることを示しました。
次に、AWS のセキュリティの理解を深めていただくための重要なポイントとして、以下の3点を挙げています:
- 「責任共有モデル」:AWS はクラウドのセキュリティに対する責任を持ち、お客様はクラウド内のセキュリティに対する責任を持つ。AWS とお客様が互いに協力し、システム全体で優れたセキュリティを実現していく、責任共有モデルの考え方
- 「セキュリティとコンプライアンス」:143 の豊富なセキュリティ標準とコンプライアンスプログラムをサポート
- 「包括的なセキュリティサービス」:アイデンティティ管理から脅威検出、データ保護まで幅広く対応した、AWS が提供するセキュリティサービスと機能
その上で、ビジネスを展開していく上で、AWS の特性である「高い可視性」と「運用の自動化・機能連携」を活用することで、一見相反するセキュリティと俊敏性の両立を可能にし、API を通じた操作の記録や、様々な設定情報の収集・モニタリング機能により、ワークロード環境の透明性が高められることを説明しました。セキュリティ統制の考え方では、「ゲートキーパー型(予防的統制)」と「ガードレール型(発見的統制)」をバランスよく組み合わせる事で、俊敏性/利便性とセキュリティの確保の両立が可能になります。発見的統制の具体例として、AWS Config などのサービスを活用して「継続的コンプライアンス」を実現することが可能になります。AWS を活用したセキュリティの取り組みには、AWS Well-Architected Framework が道しるべとなります。
優れたブレーキがあるからこそ安心してスピードを出せるように、セキュリティは企業の事業活動や成長に必要なビジネスを支えるメカニズムの1つなのです。
3. DDoS 攻撃対策の最新動向と対応策
アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 Edge Services ソリューションアーキテクト
岡 豊
本セッションでは、DDoS 攻撃からお客様のアプリケーションを保護するためのクラウドでの効果的な DDoS 攻撃対策の実装やベストプラクティス、対応策について解説しました。
セッションの冒頭では、 DDoS 攻撃の種類をインフラストラクチャレイヤーとアプリケーションレイヤーの二つの主なグループに整理した上で、AWS の DDoS 攻撃対策の専門チームである Shield Response Team が観測している最近の DDoS 攻撃の傾向や DDoS 攻撃によるビジネスインパクトについて説明しました。
次に AWS がクラウドのインフラストラクチャ全体を DDoS 攻撃からどのように保護しているか、AWS Shield による DDoS 攻撃からの保護の仕組みと AWS の分散されたグローバルインフラストラクチャによる攻撃緩和の有効性について触れています。その後に、一般的な DDoS 攻撃対策の3つの基本アプローチ(1. DDoS 攻撃の対象となる領域を限定する、 2. 攻撃トラフィックを制限・緩和する、 3. 負荷分散可能な構成とする)を説明したうえで、そのアプローチを AWS 環境でどのように実現するか、DDoS 攻撃対策のベストプラクティスに基づいたアーキテクチャについて説明しました。また。お客様側でアプリケーションレイヤーの DDoS 攻撃からアプリケーションを保護するために利用できる DDoS 攻撃対策の機能として、AWS WAF、AWS Shield Advanced、Amazon CloudFront で利用可能な各種機能をご紹介しています。これらの機能を組み合わせることで、お客様側固有のアプリケーションの保護を実現します。
セッションの最後のセクションでは、DDoS 攻撃への備えと対応ということで、DDoS 攻撃発生時の対応プロセスの整備や DDoS 攻撃検知からの通知フローの例、また、ポストインシデントの対応について、一般的な例を交えて説明しました。
本セッションがお客様のアプリケーションを DDoS 攻撃から保護するための参考になれば幸いです。
4. ランサムウェア対策の実践的アプローチ
アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 デジタルサービス技術本部
ISV/SaaS ソリューション部 ソリューションアーキテクト 吉田 裕貴
ランサムウェアは企業から金銭を強要するために使用するビジネスモデルであり、感染したパソコンに特定の制限(データの暗号化や削除など)をかけ、その制限の解除と引き換えに金銭を要求するマルウェアです。IPA の情報セキュリティ重大脅威では 10 年連続で 1 位となっており、世界中で被害が増加しています。
ランサムウェアの感染経路は多様化しており、実は従来のメールによる感染は全体の 18% 程度にとどまっています。警視庁サイバー警察局の情報によれば、近年は VPN 機器やリモートデスクトップ機器などのネットワーク機器を介した侵入が増加しています。
ランサムウェアに対する基本的な対策として、以下が重要です:
- AWS リソースの設定見直し(最小権限の原則、MFA の有効化、AWS Config の使用、適切な暗号化の実装など)
- コンピュートレイヤーでの継続的な脆弱性管理(定期的な脆弱性スキャン、セキュリティパッチ管理の自動化など)
NIST のサイバーセキュリティフレームワークを用いた体系的なアプローチとして「識別」「防御」「検知」「対応」「復旧」の5つのフェーズがあります。これらの活動をAWS のサービスで実現するために、以下の7つのサービスが特に有効です:
- AWS Config:リソースの構成履歴の記録やコンプライアンス評価
- AWS Security Hub:セキュリティチェックの自動化とセキュリティアラートの一元化
- Amazon GuardDuty:マネージドな脅威検出サービス
- Amazon Inspector:コンピューティングリソースの脆弱性チェック
- AWS Systems Manager:パッチ管理などの自動化
- AWS Backup:データバックアップの計画・管理
- AWS Well-Architected Tool:セキュリティのベストプラクティス評価
ランサムウェアからのデータ保護には、重要データの特定、アクセス管理、バックアッププランの策定、多層防御の実装、暗号化の適切な設定などが重要です。保護しているバックアップデータに対する改ざんや削除を防ぐための多層防御も不可欠です。
クラウドのメリットを活かしたランサムウェア対策として、GuardDuty による侵入検知、セキュリティグループによる即時の通信遮断、自動化ツールを組み合わせた封じ込めの自動対応などが可能です。
AWS の様々なサービスを活用して、ランサムウェアに強い環境を構築していきましょう。
5. AWS 環境でのセキュリティインシデントレスポンス
アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 シニアセキュリティソリューションアーキテクト
勝原 達也
本セッションでは、セキュリティインシデントに備え、検知・対応し、素早く封じ込め・回復していく、そのための考え方や活用できる AWS サービスについてご紹介しました。
全てのお客様にとって万が一セキュリティインシデントが発生したとしても、ビジネス影響を最小化できる形で対処したいと考えています。そのためには、平時のうちから有事を想定して、準備を備えていくことが欠かせません。その際、オンプレミスでのナレッジに加え、AWS の特性・オンプレミスとの違いなど考慮しておくことが重要です。
具体的には、実際のオペレーションにおいて重要な「検知と分析」の観点では、AWS が有する優れた可視性に基づいて、様々なログを大規模に取得・保存し、更に分析できることを示しました。また Amazon GuardDuty の活用が重要であることにも触れています。加えて、「封じ込め・根絶・復旧」においては、AWS の特性を踏まえて「適切・効果的な対処」を実現するための考え方に加え、インシデント対応の自動化の事例についてもご紹介しました。さらに、昨今セキュリティインシデントの考え方が幅広くなっており、実際の不審なアクティビティを検知し対処するという従来からあるものに加え、平時のうちからお客様環境に生じる既知脆弱性や設定不備に伴う大きなリスクが生じている状態を把握・改善し、問題の発生を未然に防ぐ継続的なアプローチが大切になってきていることに触れています。
セッション終盤では、効率的・効果的なセキュリティインシデント対応実現を支える新たな選択肢、AWS Security Incident Response という新サービスについて紹介しました。これは、AWS によるお客様環境の監視とアラートのトリアージに加え、AWS のセキュリティエキスパートである AWS Customer Incident Response Team(CIRT) とのコラボレーションを実現するものです。
本セッションでご紹介した考え方や AWS の特性・ツールを活用し、優れたインシデント対応を実現する、そしてビジネス影響を最小化するという目標達成へ向けて取り組んでいきましょう。
おわりに
本セミナーでは、4つのセッションを通じて、AWS を活用した包括的なサイバーセキュリティ対策について幅広い内容をお届けしました。
- AWS を活用し、効率的かつ効果的にセキュリティを実現することは、俊敏性と安全性の両立、さらにお客様ビジネスの成長に繋がる
- AWS は高度化する DDoS 攻撃の脅威からお客様のアプリケーションを保護し、高い可用性を要するシステムの安定稼働を支える
- AWS のセキュリティサービスを活用し、識別から復旧まで一貫したアプローチでランサムウェアの脅威からお客様環境を保護する
- AWS 上で実現する高度な検知と対応に加え、AWS のセキュリティエキスパートの支援でインシデントのビジネス影響を最小化する
AWS の CISO である Chris Betz は最新のブログで「大規模なセキュリティのシンプルな実現」と「イノベーションの加速と現代の脅威に耐え回復性を備えたアプリケーションの構築の両立」の重要性を強調しています。このメッセージは、AWS re:Inforce 2025 の基調講演の内容を先取りしたものとなっています。「セキュリティは最優先事項」であり、AWS は今後も引き続きお客様のセキュリティ強化を支援してまいります。AWS を活用して、ビジネスを安心して加速していただければ幸いです。
この記事は シニア セキュリティ ソリューションアーキテクト勝原達也が担当しました。