Amazon Web Services ブログ
ハイテクインターが Amazon Rekognition と Graviton プロセッサで実現した富山市の人流観測プラットフォーム
本ブログは ハイテクインター株式会社 様と Amazon Web Services Japan 合同会社が共同で執筆いたしました。
みなさん、こんにちは。ソリューションアーキテクト 伊勢田氷琴です。
地方都市の中心市街地活性化は、多くの自治体が直面する共通の課題です。従来、通行者数の調査は単発的に実施されることが多く、年間を通じた傾向把握や詳細な属性分析が困難でした。このブログでは、ハイテクインター様が開発した VIX(Video Information eXchange)クラウドと AI カメラを活用し、富山市が北陸地区で初めて常設 AI カメラによる通年人流計測を実現した事例をご紹介します。AWS のサービスを活用することで、コスト削減と性能向上を両立し、さらにオープンデータとして一般公開することで地域経済の発展に貢献しています。
地方都市が直面する中心市街地活性化の課題と背景
富山市では、富山市スマートシティ推進ビジョンに基づき富山市中心市街地活性化基本計画を策定し、中心市街地の活性化に取り組んでいます。しかし、新規出店等のマーケティングに活用できる詳細なデータが不足していました。従来の調査方法では、単発的な実施に留まり、年間を通じた平日休日別や時間帯別の通行者データ、さらには性別・年齢といった属性情報を継続的に取得することが困難でした。
この課題を解決するため、富山市は地元企業の株式会社 CHRONOX(以下クロノクス)に委託し、スマートシティの情報基盤となる都市 OS 上に AI カメラを活用した人流観測プラットフォームを構築、2023 年 4 月 1 日より運用を開始しました。クロノクスは富山駅周辺および総曲輪地区に 52 台の AI カメラを設置し、ハイテクインターの VIX クラウドと常設 AI カメラによる人流計測を北陸地区で初めて実現しています。
AWS サービスの採用理由:コスト削減と性能向上の両立
ハイテクインター様は、情報通信・映像機器の企画・開発から輸入・販売・サポート、さらにはシステムの構築・設置設定・保守管理まで一貫して手がける企業です。同社が開発した VIX クラウド(Video Information eXchange Cloud)は、クラウド上でカメラから取得した映像を AI 解析し、目的に合った情報に変換する情報交換プラットフォームです。
AWS サービスの採用にあたり、ハイテクインター様は以下の点を重視しました。
まず、コスト効率の高い処理基盤の構築です。映像ストリーム処理と AI 推論を別々のインスタンスで行っていた従来構成では、台数分のコストと運用負荷が課題でした。Graviton プロセッサ搭載の Amazon EC2 インスタンスであれば、Arm ネイティブの処理性能を活かして両方の処理を 1 台に集約でき、約 4 割のコスト削減が見込める点が採用の決め手となりました。
次に、顔属性認識の精度とコストです。人流データに性別・年齢などの属性を付加するにあたり、Amazon Rekognition を採用しました。他社製品比で約 2 割のコスト優位があることに加え、表情の認識粒度が細かく、データの付加価値を高められる点を評価しています。
ソリューションの概要:VIX クラウドによる人流データの可視化
VIX クラウドは、マルチベンダーカメラからの映像取得、各種 AI エンジンの搭載、静止画および動画配信機能を備えた統合プラットフォームです。主な機能として、以下を提供しています。
人流・交通流計測 AI 機能では、カメラから送られてきた画像から車両識別(大型・小型・二輪車)、人流および人属性(年齢・性別)を計測し、グラフ化します。車種別認識率は昼夜問わず 97% 以上を実現しており、時間ごと、曜日ごとの集計が可能です。
危険地域侵入検知機能では、工事現場などでの危険地域立ち入りを検知し、LINE への発報やパトランプとの連携が可能です。スマートフォンで危険領域を設定できる利便性も備えています。
その他、水位異常解析など、多様な用途に対応できる拡張性を持っています。
ソリューションの構成:AWS サービスを活用した効率的なアーキテクチャ
富山市の人流観測プラットフォームは、以下の AWS サービスを中心に構成されています。
IP カメラからの映像ストリームは、Amazon EC2 上で稼働する VIX クラウドに連携されます。ストリーム映像からのエリア検知には Amazon EC2 の Graviton プロセッサを活用し、性能向上とコスト削減を同時に達成しました。従来は i3 インスタンスで変換処理を行い g4dn インスタンスで AI 処理を実行していましたが、G5g インスタンス 1 台でストリーム処理と AI 処理の両方を処理できるように最適化した結果、約 4 割のコスト削減を実現しています。
顔属性認識には Amazon Rekognition を利用しています。他社製品と比較して約 2 割のコスト削減を達成しただけでなく、より豊かな表情認識が可能になりました。
AI カメラは「人間」「車両」「顔」の検出が可能で、52 台のカメラが富山駅周辺および総曲輪地区に設置されています。
通年データ取得から始まる都市計画の最適化
富山市中心市街地活性化に向けて、年間を通じた平日休日別や時間帯別の通行者の人数・滞留時間・属性(性別・年齢)をデータ化することに成功しました。従来単発的に実施されていた調査データを通年で取得することにより、これまで以上に最適化された都市計画の立案に寄与しています。
特筆すべきは、このデータをオープンデータとして一般に公開している点です。富山市の人流データダッシュボードでは、誰でも人流データにアクセスできます。これにより、新規出店を検討する事業者がマーケティングに活用したり、研究機関がデータ分析に利用したりと、地域経済の発展を多角的に支援しています。
AWS のサービスを活用することで、約 4 割のインフラコスト削減と約 2 割の顔属性認識コスト削減を実現し、持続可能な運用基盤を構築できました。
今後の展開:スマートシティの更なる進化
ハイテクインター様と富山市は、今回構築した人流観測プラットフォームを基盤として、さらなるスマートシティの実現を目指しています。通年で蓄積されたデータを活用した詳細な分析や、他の都市 OS 機能との連携により、より高度な都市計画の立案が期待されています。
また、VIX クラウドの持つ拡張性を活かし、水位異常解析など、防災や環境保全の分野への応用も検討されています。オープンデータとして公開されている人流データは、民間企業や研究機関による新たなサービス開発や学術研究にも活用され、地域経済のエコシステム形成に貢献していくことが期待されます。
お客様の声
本プロジェクトにおける VIX クラウドの開発と AWS 基盤の設計を主導したハイテクインター株式会社 映像開発部 AI クラウド開発 Gr. 課長 高橋 亨氏は、今回の取り組みを振り返り次のようにコメントしています。
「富山市人流計測システムの開発においては、AWS を基盤とするクラウドネイティブなアーキテクチャを採用し、スケーラビリティとリアルタイム性を両立できる実行基盤を構築しました。特に、映像入力から推論、属性抽出、集計、可視化までを疎結合に設計することで、処理負荷の変動に対しても柔軟に追従できる構成とした点が、本システムの技術的な特徴です。AI 処理については、最新の Graviton プロセッサのインスタンスを活用することで、映像データに対する推論処理の高速化を図り、現場で求められるリアルタイム応答性を実現しました。また、Amazon Rekognition による顔属性取得機能を組み合わせることで、単純な通行人数の把握にとどまらず、属性情報を含めた多面的な人流分析を可能にしています。これにより、都市空間における人の流れを定量的かつ即時的に把握できるシステムとして、運用面・分析面の双方で高い有効性を持つ構成に仕上げることができました。開発側の観点では、本取り組みは、マネージドサービスと高性能な推論基盤を適切に組み合わせることで、開発効率と運用性を確保しながら、実用レベルの精度と応答性能を実現できた点に大きな意義がありました。加えて、機能拡張や処理対象の追加にも対応しやすい構成として設計しているため、今後の横展開や類似ユースケースへの適用可能性も高いと考えています。」
また、富山市 活力都市創造部 まちづくり推進課 管理振興係 副主幹・係長 五十嵐祐子氏は、AI カメラを活用した人流データの計測の導入効果について次のように述べています。
「富山市では、中心市街地のにぎわい創出に向けた取り組みを進める中で、これまで単発の調査では把握しきれなかった人流の実態を、継続的にデータとして把握する必要があると考えていました。本システムの導入により、年間を通じて通行者数や滞留状況、時間帯・曜日ごとの変化に加え、年代や性別といった属性情報も継続的に取得できるようになり、中心市街地の活性化施策や都市計画の検討に活用できる基盤が整いました。また、本データはオープンデータとして公開しており、市民や事業者、研究機関など多様な主体が自由に利用できる環境を整えています。実際に大学による人流分析の研究にも活用されるなど、データの新たな活用が広がり始めています。今後は、これまでに蓄積してきた人流データをさらに活用し、AI などの技術による高度な分析も取り入れながら、データに基づいたまちづくりを推進していきたいと考えています。」
まとめ
ハイテクインター様が開発した VIX クラウドと AI カメラを活用し、富山市は北陸地区で初めて常設 AI カメラによる通年人流計測を実現しました。Amazon EC2 の Graviton プロセッサと Amazon Rekognition を活用することで、約 4 割のインフラコスト削減と約 2 割の顔属性認識コスト削減を達成し、持続可能な運用基盤を構築しています。
通年で取得された詳細な人流データは、都市計画の最適化に貢献するだけでなく、オープンデータとして一般公開されることで、地域経済の発展を多角的に支援しています。この取り組みは、地方都市におけるスマートシティ実現のモデルケースとして、今後の展開が期待されます。
AWS の生成 AI サービスや IoT サービスについて詳しく知りたい方は、AWS のスマートシティソリューションをご覧ください。
ソリューションアーキテクト 伊勢田氷琴



