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AWS Summit Japan 2025 で次世代のフードマネジメントに挑戦! AI と IoT で実現する スマート廃棄物管理

はじめに

2025 年 6 月 26 日に AWS Summit Japan 2025 の AWS Builders’ Fair にて、カメラと重量センサーを活用した新しいスマート廃棄物管理ソリューションを展示しました。これは、過去に AWS Blog で紹介されたソリューションを基に、日本の食品を取り扱う企業が直面する課題に合わせて改良を加えたものです。
特に外食企業やスーパーマーケットでは、「何が」「どこで」「どれくらい」廃棄されているかの把握が重要な課題となっています。従来の手作業による管理では多大な労力が必要でしたが、本ソリューションでは生成 AI 技術の活用により、事前の学習データを用意することなく廃棄物の自動認識が可能になりました。
これにより、企業はデータに基づいて仕入れ量を最適化し食品廃棄を削減できます。そして、事業コストの抑制と同時にフードロス削減という社会課題の解決への貢献にもつながります。まさに、経験や勘に頼った従来の管理手法から、IoT と AI 技術を活用したデータドリブンな管理へ変化する挑戦といえます。
本ブログでは、Summit 展示での展示内容や検出精度、コストについて詳しく紹介します。さらに、お客様から寄せられた貴重なフィードバックを基に、本ソリューションの実用化に向けた展望について考察していきます。

図1 : 当日の展示の様子

事前準備

本ソリューションでは、IoT デバイスゲートウェイとして Raspberry Pi を使用し、廃棄物の重量を測定する重量センサーと、ゴミを落としたときに廃棄物の静止写真を撮る WEB カメラを使用します。展示ソリューションには以下の機器が使われました。

HX711 重量センサーをドキュメントに沿って組み立てた後、Raspberry Pi と I2C 接続します。また、WEB カメラは USB 経由で Raspberry Pi に接続します。Raspberry Pi には最新バージョンの Raspberry Pi OS をインストールします。さらに、このソリューションでは、Raspberry Pi 上で AWS IoT Greengrass を構成し、 AWS IoT Core へ接続します。

デモで体験できることとアーキテクチャ

このデモでは、AI と IoT などの技術を活用することで、ゴミ箱に何がどれくらい廃棄されたのかを可視化できるようになります。これまで把握しづらかったフードロスの実態を、目で見て理解できる第一歩を体験していただけます。

図2 : ゴミ箱に廃棄されたものを判定し、ダッシュボードに表示される様子

このデモは、以下に示す AWS サービスとセンサー類によって構築されています。

図3 : スマートゴミ箱デモのアーキテクチャ

1. IoT デバイスによる自動検知とデータ送信

重量変化をトリガーとした自動撮影システム
デバイス上では、カスタムアプリケーションが重量の変化(±10g)を常時監視しています。廃棄物がゴミ箱に投入されると、重量センサーが変化を検知し、自動的にカメラがトリガーされる仕組みです。この自動化により、従来の手動撮影では困難だった「廃棄の瞬間を逃さない記録」が可能になります。重量をトリガーにすることで、写真を撮影する手間なくクラウド上にデータを送れることが大きな利点です。

セキュアなクラウド連携
重量データは MQTT チャネルを介して AWS IoT Core に送信され、同時に撮影された廃棄物の画像は AWS IoT Greengrass Stream manager を使用して Amazon S3 バケットにアップロードされます。AWS IoT ロールエイリアスにより、AWS IoT Core 以外のサービス(S3など)にも安全にアクセスできます。この仕組みでは、IAM アクセスキーやシークレットキーをデバイスに個別に埋め込む必要がなく、デバイス証明書による統一的な認証管理が可能です。また、デバイス上で動作するコンポーネントは、AWS IoT Greengrass のクラウド経由でのデプロイ機能により、リモートでの管理・更新が可能です。デバイスのスクリプトやソフトウェアをクラウドから一元的にアップデート・管理できるため、運用コストの削減と迅速な機能改善が実現されます。

2. 生成 AI を用いてごみの種別を判定

AWS IoT Core 経由で送られてきたスマートゴミ箱の中の画像は、Amazon S3 に格納されます。AWS Lambda は撮影された画像を取得し、Amazon Bedrock を用いてゴミ箱の中に入っているものを判定します。

図4 : Amazon Bedrock を利用して捨てられたゴミを判定するイメージ

Anthropic の Claude Sonnet 3.7 を搭載した Amazon Bedrock は、最新のものとひとつ前の撮影画像から、画像の差分を認識し、新しく捨てられたごみの名称と、ごみの種別を出力します。
従来の画像判定モデルでは、新しい種類の画像を認識するためには追加の学習データを用いた再トレーニングが必要とされていました。しかしながら、大規模言語モデル (LLM) は、膨大な量のデータを事前学習しており、そのような追加学習の必要性が大幅に軽減されています。そのため、今回のデモで用いたモデルについても追加学習をすることなく実施しました。
画像のパス、ごみの名称とセンサーデータなどのテレメトリデータは、Amazon Timestream for LiveAnalytics に格納されます。なお、Amazon Timestream for LiveAnalytics は 2025 年5 月時点で新規受付を終了しているため、Amazon Timestream for InfluxDB や Amazon DynamoDB 等の利用をご検討ください。

3. ダッシュボード上にリアルタイムで可視化

ダッシュボード上部 ダッシュボード下部

図5 : ダッシュボード

Amazon Timestream に蓄積されたレコードは、Amazon Managed Grafana 上のダッシュボードで可視化されます。データに更新されると、最新の画像とレコードがダッシュボード上に即座に反映されます。廃棄物管理ダッシュボードでは、リアルタイムで取得された画像やレコードを表示するダッシュボードの他に、過去のレコードを集計・分析して表示する機能も実装しています。これにより、長期的なトレンド分析や、他店舗の廃棄物量との比較が容易になります。

結果

AWS Summit Japan 2025 でのスマート廃棄物管理の展示では、約 9 時間の連続稼働で 162 件、149 kg の廃棄物を処理し、認識精度 88.4% を達成しました。AI と IoT 技術の組み合わせにより、従来見えなかった食品廃棄の実態をリアルタイムで可視化することで実用化への可能性を検証できました。

試行回数と検出精度

*精度は検出方法や対象物により大きく異なります。本文ではモデル自体の精度ではなく、検出手法の精度についての結果と考察を目的としていることにご留意ください。

展示期間中の約 9 時間で 162 件の廃棄イベントを検知しました。このうち、手や関係のない物が写り込んだ 12 件を除いた 150 件(92.0%)を評価の対象としました。
画像認識における精度評価は以下のように行いました:

  • 全て正しく判定できた場合:100%
  • 部分的に正しく判定できた場合:判定できた割合
  • まったく判定できなかった場合:0%

150件の分析結果から、以下のことが分かりました:

1. 1つずつゴミを捨てたケース(138 件、全体の 92.0%)

  • 全て正しく判定した割合は 86.2% でした。部分的に正しく判定したケースも含めると 89.9% となりました
  • 「ペットボトル」「バナナ」「りんご」などの個別の食品は特に高い精度で判定できました

2. 複数のゴミを同時に捨てたケース(12件、全体の 8.0%)

  • 部分的に正しく判定したケースも含めた精度は 70.8% で、全て正しく判定した割合は 33.3% でした
  • 全てのゴミを正確に判定することは難しく、一部のゴミを見逃すことがありました

この結果から、1 つずつゴミを捨てた場合は高い精度で判定できることが分かりました。一方で、複数のゴミを同時に捨てた場合は精度が約 19% 低下することも判明しました。

コスト

展示での費用実績を分析すると、初期コストとしてハードウェアデバイスの費用が ¥ 23,318、162 件の廃棄処理に対してクラウド利用料が $ 19.2 発生しました。それぞれの内訳は下記の表で示します。
本ソリューションを複数店舗、複数ゴミ箱に展開する際には、設置するゴミ箱の数に応じて初期費用が、処理する廃棄物の件数に応じてクラウド利用料が増加します。

展示日1日間のクラウド利用料(サービス別)

サービス コスト
Amazon Timestream $16.80
Amazon Bedrock $2.20
その他サービス $0.20
合計 $19.20

初期コスト

品目 金額
Raspberry Pi ¥12,980
重量センサー ¥5,358
WEB カメラ ¥4,980
合計 ¥23,318

お客様からの声

本展示では、多くの来場者から貴重なフィードバックをいただきました。業界を超えた幅広い分野からの反響があり、食品廃棄問題の重要性と本ソリューションの可能性を再確認することができました。

外食産業からの声

外食チェーン企業の方々からは、「現在は廃棄するゴミを重量計にのせて手書きで記録しており、自治体ごとに分類が異なるため管理が大変」というご意見をいただきました。特に粗利を最大化するために在庫の最適化を極力進めたいというニーズがあり、本ソリューションの価値を感じていただけました。

また、実用化に向けた具体的な改善提案として、「手が塞がっていることが多いので音声で上書きできる機能」や「自治体ごとに異なる分類表を読み込ませ、LLM が検出した廃棄物をどのゴミ箱に捨てるべきか正しくガイドする機能」へのニーズが挙げられました。

ホテル業界からは、「ビュッフェではある程度の食品廃棄は許容されるが、過剰な廃棄は問題になっている」という課題が共有されました。

他業界への応用可能性

展示では外食産業だけでなく、様々な業界からの関心が寄せられました。

工場現場では「部品などの画像分析」や「廃棄物管理の自動化」への応用可能性が指摘されました。ある製造業の来場者からは「ゴミの手動分別をした後にリサイクルや廃品回収で買い取ってもらっているが、ルールが複雑なので自動化していきたい」という具体的なニーズをお聞きしました。

建設業界でも「木材・建材の廃棄量は問題になっている」とのコメントがあり、本ソリューションの応用範囲の広さを実感しました。

コンサルティング企業の方からは、「産業用廃棄物の分類は法律でも決まっていて分類が大変。特に外国人労働者にとってはハードルが高い」という課題をお聞きしました。「正しいゴミ箱を教えてくれるのか、入れたら自動で分類してくれるのか、知識がなくても分類できるようになるのをアシストしてくれると嬉しい」という具体的なニーズが示されました。

改善提案

実用化に向けた改善提案としては、以下のような声が寄せられました。

  • 一度に複数のゴミを捨てた時の判定精度向上:「一気にゴミを捨てた時に判定できないのは不便」
  • コスト削減:「デバイス代が高くつくのはコスト面から厳しい。例えば一店舗に複数のゴミ箱を置いて、一台のカメラで判別することはできないか?」
  • 家庭用への応用:「自治体ごとのルールを読んでくれて、家のゴミ分別を自動でやってくれるようにしてほしい」「ゴミ箱に入れてほしくないもの(例えば燃えるゴミ入れに電池が入る等)が廃棄されるとアラートが飛んでほしい」

これらのフィードバックは、本ソリューションの実用化に向けた貴重な示唆となりました。特に、自治体ごとに異なる廃棄物分類ルールへの対応や、複数物体の同時判定精度の向上は、今後の開発における重要な課題として認識しています。今後は、これらのフィードバックを活かし、より実用的で幅広い業界に適用可能なソリューションへと発展させていきたいと考えています。

まとめ

AWS Summit Japan 2025 で AI と IoT 技術を組み合わせたスマート廃棄物管理ソリューションを展示しました。

約9時間の連続稼働で 162 件の廃棄物を処理し、88.4% の認識精度を達成しました。特に注目すべきは、事前の学習データなしで生成 AI(Amazon Bedrock)により多様な廃棄物を自動認識できた点です。また、サーバレスアーキテクチャにより、インフラ管理が不要で処理量に応じた従量課金を実現できました。

展示では外食産業を中心に、製造業、建設業、ホテル業界など幅広い分野から関心が寄せられ、「自治体ごとの分類ルール対応」「音声修正機能」「複数ゴミ箱の一元管理」など具体的な改善提案をいただきました。多くの方に関心を持っていただけたことを嬉しく思います。

本ソリューションは従来の「経験と勘」に頼った廃棄物管理から「データドリブン」な管理への転換を可能にし、企業の収益性向上と環境負荷軽減を同時に実現する可能性を示しました。今後は複数物体同時判定の精度向上、コスト最適化、業界特化機能の開発、スケーラビリティの向上に取り組み、持続可能な社会の実現に貢献していきます。

このブログは、ソリューションアーキテクトTei、大久保、本田、古山、寺山 が執筆しました。