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【開催報告】AWS Summit Japan 2025 〜 流通小売消費財業界ブース
2025/7/16 更新:イベントが閉幕したため、イベント案内ブログを開催報告として更新しました。
6 月 25, 26日の 2 日間にわたり、幕張メッセにおいて AWS Summit Japan が開催され、会場では延べ 36,000人以上、オンラインも合わせると過去最高となる、延べ 69,000 人超の方の参加者を記録しました。基調講演、事例セッションをはじめとする各種セッションとともに、AWS Expo のエリアでは AWS サービス、ソリューションの最新活⽤事例や、実際に AWS を触れるワークショップなど、皆さまが様々な⾓度から AWS の可能性を体験できるコンテンツを展開しました。
その AWS Expo エリア内に今年は「インダストリー・パビリオン」のコーナーが設けられ、製造、金融、自動車、そして私たちの担当する流通小売消費財など 13 の業界別に特化したソリューションをご紹介しました。各業界をリードするお客様の AWS 活用事例や、生成 AI をはじめとする最新テクノロジーの実用的なデモを通じて、業界固有の課題解決方法をご覧いただけるようになっており、また、業界に精通したエキスパートと具体的な活用シナリオについて、じっくりとご相談いただけるスペースも設けました。私たち流通小売消費財業界担当チームでは、このインダストリー・パビリオンにおいて、今年のテーマである「The Future of Retail」のもと、NRF、リテールテックのデモをさらに進化させた展示を行い、両日ともに終日、ご来場者が途切れることなく多くのお客様に足を運んでいただきました。デモを体験いただいたお客様からいただいた多くのフィードバックから、私たちもまた新しいアイデアを考えることができました。
このブログでは、流通小売消費財業界ブースの展示内容をダイジェストでご紹介します。展示内容に使われている AWS サービスやアーキテクチャの詳細については個別の解説ブログも公開しており、本ブログの中からそれらのブログもご案内しています。
AWS 展示ブーステーマ 「The Future of Retail – AWS の提案するリテールの少し先の未来」
流通小売消費財企業は、商品開発製造から物流、多様なチャネルを横断したシームレスな購買体験の提供、進化する消費者のニーズと期待に応えるためのオペレーション最適化などを再発明 (reinvent) するための変革に直面しています。その変革において欠かすことのできない技術要素である生成 AI を中心として、3D 技術を拡張した AR/VR、デジタルツインによるシミュレーションといった技術を組み合わせることで、店舗体験を「少し先の未来」へと変えることができます。
大きなディスプレイは視認性抜群で、今回のブース展示で一番人気のデモでした!
ブース全体は次世代のアパレル店舗をイメージして設計しました。展示要素として「3D アバターによる接客」「最新の AI モデルによる仮想試着」「AI エージェントによるショッピングアシスタント」「フリクションレス・チェックアウト」など複数用意し、かつそれらを個別のデモとして配置するのではなく、カスタマージャーニーをコンセプトの中心に置いて一人のお客様が来店されてから購買に至るまでの一つのシナリオとして組み立てることで、最新技術に触れつつ現実の購買体験を実際にイメージいただける形でご紹介できたのではないかと思います。
今回の Summit にゲストとして各種イベントにご登壇の QuizKnock さんも、ブースにお立ち寄りくださり、一通りのデモをお楽しみいただきました!
ホログラフィックディスプレイのようなちょっと目を惹くデバイスもありますが、デモで使ったアプリケーションはディスプレイに依存しませんし、実装が非常に難しいなど特別な考慮点はありません。皆さまの環境でも実現していただくことが可能なものです。それぞれのアプリケーションのデザインや実装について、テーマごとに個別のブログでもご紹介していきます。AWS のサービスを組み合わせることで、皆さまのビジネスにもすばやく取り入れることができるものばかりですので、ぜひご活用ください。
ブース全体のカスタマージャーニー
デジタル世界では 3D 技術の浸透によりモノの見え方やコミュニケーションが変化し、実物が手元になくても見たい角度や精度でリアルに確認できるようになってきました。店舗と e コマースや商品紹介サイトなどのデジタルを融合させる「オムニチャネル」や「OMO(Online-merge-Offline)」のトレンドに、この 3D 技術、生成 AI 技術を組み合わせることで、よりビジュアルにサービス体験の質を向上させることができます。
e コマースサイトであればサイトへのログインをトリガーにして、過去の購買履歴や好みに基づくレコメンデーションやお知らせを画面に表示することは珍しくありません。これを実店舗で同じように体験いただくために、来店するお客様(ご来場いただいた皆さまです)をリアルタイムに識別して、バックエンドでお客様情報などを収集し、3D アバターのショッピングアシスタントがレコメンデーションに繋げます。商品の試着もデジタル空間で実現します。店舗に在庫のないサイズや色などの試着、あるいは試着スペースの確保の難しいポップアップストアでの利用などのユースケースが考えられます。
商品が決まれば購入です。クレジットカードでお支払いをし、ポイントカードを提示してポイントを付与してもらう、スマートフォンを取り出してロックを解除し、QR コード決済アプリを開いて QR を見せてお支払いをする…キャッシュレスが進んだとは言え、レジでお客様が物理的に出さなくてはならないものが現金からスマートフォンに代わっただけ、とも言えます。そんなレジでの行動も、よりフリクションレスに実現できる時代です。昨年の Summit でも展示した手のひら認証デバイス、Amazon One を利用し、Amazon Pay との連動により、手のひら一つで完了する決済を体験いただきました。手のひら認証と決済については昨年のブログ「Amazon One Enterprise の機能とユニファイドコマースの実現」で解説しているものと同じですので、そちらをご覧ください。
それではここから、「最新の AI モデルによる仮想試着」「AI エージェントによるショッピングアシスタント」「3D アバターによる接客」の 3 つの展示要素について見ていきましょう。なお、ブースの技術解説コーナーで利用していたデモ解説などの資料は、こちらのリンクからダウンロードいただくことが可能です。
Amazon Nova Canvas 最新モデルによる仮想試着
NRF の推計によると、2024 年の小売全体の返品額は 140 兆円にのぼり、これは年間売上高の 17% にもおよぶ規模とされています。購入者にとってもせっかく購入したのに、サイズなどが合わなくて返品をしなくてはならない…というネガティブなショッピング体験ですが、小売業者にとっても返品に関する一連のプロセス(返品を受け付け、返品された商品を検査し、返金手続きをするなど)に多くの手間がかかります。社会全体にとっても、不要な配送が発生することによる物流業や炭素排出量への負の影響があります。
特にアパレル領域での返品率の高さは e コマースにおける課題の一つで、多くの小売業者が没入型ショッピング体験への投資を増やしています。今回の仮想試着アプリケーションも、この課題に対する一つのソリューションのアイデアです。
仮想試着のデモ・アプリケーションは、Summit 閉幕直後に一般公開された、Amazon Nova Canvas の最新機能、 ”Virtual try-on and style options(バーチャル試着とスタイルオプション)” を利用して開発しました。試着は店舗での特別な体験の一つではありますが、試着室まで何着も持っていっては試着して確認する、という時間がないときもあります。色の違いなどはぱっと画像で自分のイメージに合うのかどうかを確認できるだけでも十分なこともあります。試着の重要性を意識しつつ、それをより手軽な体験へと変えていくデモを今回開発しました。新機能により、より状況に合わせた商品の視覚化が可能になり、臨場感あふれるショッピング体験を提供することができます。選択した洋服の平面写真一枚から、モデルが自然にその洋服をまとっている様子をご覧いただきました。陰影や洋服のひだまで自然に生成されていることに、多くのお客様から驚きのコメントをいただきました。
この仮想試着アプリで使われているサービスや実現するためのアーキテクチャについては、ブログ「【開催報告】AWS Summit Japan 展示 : Amazon Nova Canvas の Virtual try-on でリアルな商品試着と配置を実現し、返品率を削減する」で解説しています。また Amazon Nova Canvas の新機能についてはブログ「Amazon Nova Canvas update: Virtual try-on とスタイルオプションが一般公開」で解説されています。東京リージョンでご利用いただけますのでぜひお試しください。
AI エージェントによるショッピングアシスタント
Amazon は 2024 年、生成AIを搭載した新たな対話型ショッピングアシスタント Rufus(ルーファス)の導入を開始しました。Amazon アプリでご利用されていらっしゃる方も多いかと思います。また 2025 年に入ってからは新しい機能、Buy for Me も導入しています。顧客は Amazon の e コマース内にいながら、他のブランドのサイト上にある商品を見つけ購入することができるようになります。これを支える技術の一つが、AI エージェントです。
Amazon Rufus 画面(出典: Amazon)
生成 AI 技術の深化と浸透は私たちの想像を超えるスピードで進んでいます。AI がより人間の意図を理解し、業務遂行を支援する、AI エージェントは今年の大きなトレンドです。ガートナーによると、2028 年までに、日常的な業務判断の少なくとも 15% が AI エージェントによって実行されるようになると予測されています。
前述したように e コマースであればログインした顧客の情報をもとにレコメンデーションをすぐに提示することができますが、実店舗のスタッフが同じ顧客体験を提供しようとするとどうでしょう。全スタッフが、お客様の好みや過去の購買履歴、付与されているキャンペーンの状態などをすべて覚えていることはとても難しいことです。今年のブースでは、AI エージェント技術を実店舗の購買シーンの裏方に組み込むことで、例えばこれまで長くお客様に対応してきたベテランスタッフのような対応を模倣できるようになっていくのではないか、そんなデモを開発しました。
この AI エージェントアプリで使われているサービスや実現するためのアーキテクチャについては、ブログ「【開催報告】3D アバター とマルチ AI エージェント による新たな接客体験」で解説しています。
3D アバターによる接客
Amazon では Amazon Beyond という没入型 3D テクノロジーを活用した仮想ショールームを体験いただくことができます。顧客は自宅にいながら、実店舗でのショッピングを楽しむような、デジタルツインの没入型仮想ショールームを体験することができます。日本では未展開ですが、米国 Amazon のサイトでは多くの Amazon セラーによる美しい仮想ショールムが公開されています。Amazon のバーチャルホリデーストアでは、2024/11/1–12/28 の 8 週間で 1,000 万以上のインタラクション、95 万以上のインプレッションなど、直接的なビジネス効果にもつながったことが報告されています。
Amazon Beyond デモ画面(出典: Amazon)
Coresight のリサーチでは、ブランド、小売業者の 55% が今後 3 年間で没入型体験への投資を増やすと回答していることがわかっています。仮想試着、AI エージェントといった技術要素はその “見せ方” も重要です。Amazon Beyond のような「デジタル空間にいかにリアルな没入体験を再現するか」だけではなく、「リアルな空間(店舗)にいかにデジタル没入体験を統合するか」というテーマもこれからいろいろなアイデアが出てくるでしょう。
今回のブース展示ではこの点を意識し、仮想試着では、ホログラフィックディスプレイを利用することで試着モデルをより立体的に見せることができました。また AI エージェントによるレコメンデーション結果を画像に表示するだけではなく、デジタル空間の 3D アバターと連携させることで、より新鮮で魅力的な購買体験をもたらす工夫をしました。いずれのデモアプリも PC 画面上でも動かすことはできます。ですがこの見せ方の一工夫で大きく印象は異なったのではないでしょうか。
自由度高くフロントを支えるコマースバックエンド
紹介したような新たなフロントエンドのアイデアはこれからも次々と登場し、デジタル、リアル問わず小売現場で試されていくでしょう。そのフロントエンドの要求に柔軟に応えることのできるバックエンドも重要なポイントです。ここまでに紹介した 3 つのデモアプリケーションは、バックエンドとなるカートや決済といった主要なコマース機能として、一つのアプリケーションを利用して連携しています。
今回はこのコマースバックエンドとして、これまでに何度かご紹介している AWS の e コマースのサンプル実装である Retail Demo Store(こちらのブログで解説しています)を利用しました。Retail Demo Store では、Composable Commerce アーキテクチャが採用されており、既存のサンプル実装で用意された各マイクロサービスの API を呼び出すことで、短期間で開発することができました。
Retail Demo Store のコードは、Github aws-samples にて公開しています。またコンポーザブルコマースについては、2024 年の Summit セッション([資料 | 動画])で紹介しています。
AWS Summit JAPAN 流通小売消費財ブースにご来場いただきありがとうございました
Born from Retail, Built for Retailers – AWS は、Amazon という小売業から生まれた、小売業のためのクラウドサービスです。そして、AI/ML は、Amazon において 25 年以上前から採用され磨かれてきた技術であり、お客様が Amazon.com で目にする機能の多くは AI/ML によって実現されています。AWS は、Amazon.com によって市場テストされた後、皆さまにご利用いただくために外部化された業界固有のサービスを継続的に開発しています。すべてのクラウドサービスプロバイダーが同じではありません。AWS は、小規模なスタートアップチームの俊敏性と、エンタープライズクラスの小売業リーダーの経験を独自に組み合わせています。この経験が、小売企業に大きな成長をもたらし、世界最大の小売企業が AWS 上でビジネスを展開している理由です。AWS ブースではご紹介してきたデモごとに、ユースケースに最適な生成 AI が選ばれて利用されていることもご覧いただけたと思います。
流通小売消費財業界におけるテクノロジーによるイノベーションは急速に多様化しつつあります。新しい技術を次々と取り込まなくては行けないように思われるかもしれませんが、今回のデモではそれだけでなく、AWS サービスを使えば簡単に実装、展開できる!と実感いただけるよう、これまでに皆さまの中に蓄積されてきた知識と経験があればすぐに始めていただけるアイデアを考えました。ご参加いただけなかった皆さまでも「試してみたい!」と思われた方は、すぐに AWS アカウントチームにご相談ください。
それではまた、来年の Summit でお会いしましょう!
今後も、流通・小売・消費財業界の皆さまに向けたイベントを企画し、情報発信を継続していきます。ブログやコンテンツも公開していきますのでご覧ください。
参考情報
[1] AWS ブログ ”流通小売” カテゴリー
[2] AWS ブログ “消費財” カテゴリー
[3] AWS 消費財・流通・小売業向けソリューション紹介ページ
[4] recap ページ、EIB ブログも紹介
このブログは、ソリューションアーキテクト 杉中 が担当しました。