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2021 KYB 株式会社

IoT と機械学習で設備予知保全システムを構築AWS 活用により、従来の手法と比較して 97% のコスト削減を実現し、耐障害性も向上

概要

四輪車や二輪車のショックアブソーバー、建設機械用油圧シリンダー、コンクリートミキサー車などの技術や製品を提供する KYB 株式会社。同社は 2017 年頃から、IoT や機械学習を活用した設備の予知保全の実証実験を開始し、翌年にはクラウドネイティブの予知保全システムが稼動。アマゾン ウェブ サービス(AWS)の活用により、オンプレミス環境と比べて 97% ものコストを抑えた予知保全システムを構築し、製品領域への IoT/AI 活用を推進しています。

Modern office lobby with light wood flooring, a reception desk with the KYB logo, seating area with plants, and shelves displaying brochures.

データ活用による工場設備の予知保全システム構築を着想

油圧技術を核にした製品を国内外に展開する KYB は、自動車やオートバイのショックアブソーバー、鉄道のサスペンションシステム、建設機械用のシリンダーなどの製造/販売を行っています。

デジタルトランスフォーメーション(DX)に取り組む同社は、データ活用によってより良いモノづくりに貢献する IoT プラットフォームを構築しました。「AI/ML、IoT などのデジタル技術を活用したいというニーズが増え、社内データを一元管理する仕組みが必要だと考えました」と語るのは、同社 DX 推進部の大内田俊氏です。

IoT や機械学習におけるクラウドの活用は、2017 年ごろから工場などの設備機器の予知保全システムの実証実験として始まりました(ステップ 1)。KYB は国内外に生産/製造拠点を持ち、工場によっては数千台もの生産設備が稼働しています。保全担当者のメンテナンス作業の負荷軽減に向け、予知保全を仕組み化することにしました。

DX 推進部の齊藤雄太氏は「設備機器に取り付けたセンサーからデータを収集・分析して、それを現場の担当者に通知する仕組みを構築するにあたり、クラウドを検討しました。その中でも IoT 関連サービスが充実し、開発者コミュニティが活発で、日本語のドキュメントが豊富な AWS を選択しました」と語ります。

同社は AWS を活用して設備機器の異常検知ができることを確認した上で、専門知識を備えたパートナーを探します。相談したパートナーの中から選んだのは伊藤忠テクノソリューションズ株式会社(CTC)でした。
「当初から工場の設備を見ていただき、親身に相談ができたことと、コストパフォーマンスに優れた提案書に加え、オプションに関する構成提案も評価しました」(齊藤氏)

クラウドネイティブな IoT プラットフォームを構築

CTC をパートナーに迎えた予知保全システムの開発は、2019 年 3 月から本格的なプロジェクトに移行(ステップ 2)。同年 8 月には、KYB 社内の製品・生産の 2 領域のエンジニアを中心に招集した、DX 推進部が新設されました。

ステップ 2 で構築した予知保全システムは、工場側の端末で一次判定をする短期の故障判定と、クラウド側で最終判定を行う長期の故障判定を組み合わせたものになりました。短期の故障判定は AWS IoT Greengrass を活用し、センサーから得た情報を推論によって判断。そこから得たデータをクラウド側の AWS IoT Core を通じて Amazon S3 に保存し、さらに Amazon Athena を経てTableau ダッシュボードによる可視化を行います。保存したデータを AWS Lambda や AWS Step Functions によって適切に処理した後、Amazon SageMaker にて展開されている機械学習モデルによって長期の故障判定を実施。異常が検知されると、担当者に通知します。

本ステップで構築したシステムは特定の設備に特化したものだったため、KYB の他の設備にも展開できることを目指したシステム改善を進めました。「固有の AI モデルを用いた判定が必要なことにより他の設備への提供に数か月かかる点や、振動センサーに特化しておりセンサー追加/変更に柔軟に対応できない点、そしてシステム全体の監視や運用体制が不十分であった点を見直す必要がありました」と、DX 推進部の菊池貴好氏は語ります。

ステップ 3 に進んだ予知保全システム開発では、特定のセンサーや機器に特化せず、汎用的なモデルを自動学習する学習パイプラインを追加し、AWS Lambda や AWS Step Functions を採用。十分な速度が出なかった Tableau ダッシュボードも、Amazon Aurora によるデータベース連携の仕組みに変更することで大幅に改善されました。

また、ステップ 2 では AWS IoT Greengrass を使用していましたが、予知保全というタスクにおいてリアルタイム性はそこまで求められないため、クラウド側に処理を集約し、スケールしやすくコスト低減を図ったアーキテクチャに変更しています。

AWS の多様なサービスから最適な選択をする際には、CTC や AWS からの提案が役立ったといいます。「このサービスを使えばコストを抑えて、目標を達成できるなど、親身にアドバイスをいただきました。いろいろな選択肢を吟味しながらスピード感を持って作れたのがよかったと思います」(大内田氏)

また、バックエンド側のアプリケーション開発を担当した DX 推進部の宮内悠樹氏は「予知保全ではリアルタイムの推論は必要ないため、バッチ変換ジョブによって推論コストを削減したり、デバイスが増えた場合も拡張できるように AWS Systems Manager や Amazon DynamoDB で共通の情報や機器固有の情報を管理しました」と、開発における工夫を語りました。

オンプレミスに比べてコストを 97% 削減。スケーラビリティも確保

KYB では予知保全システムの構築によって、今後の業務改革が期待されています。定期メンテナンスの手間やコストをかけず、異常の通知があったときに対処するという、より生産性の高いやり方への移行です。予知保全システムは既存システムではないため実績比較とはなりませんが、AWS 環境での構築は、仮にオンプレミス環境へ同等の仕組みを構築した場合と比較すると耐障害性が向上し、導入/運用コストも約 97% 削減できています。また、システム改善によってより多くの機器やデータにも対応可能となるなど、スケーラビリティも確保できました。

そして、さらなる改善や新しいシステムの提供時に低コストでスモールスタートできる環境も整いました。「ある部署から一時的に必要となった研究用サーバーについて DX 推進部に相談があってもすぐに用意できるなど、オンプレミスでは難しいことも可能になりました。また、AWS Lambda などのマネージドサービスによって開発のハードルが低くなり、本質的な開発に注力できます」(菊池氏)

社内向け、社外向けサービスの両方で IoT プラットフォームの活用へ

製品・生産の 2 領域から集まった DX 推進部のメンバーは、それぞれが各領域のテーマを受け持ち、システム改善・開発にあたっています。「集めたデータを社内の他の人たちが活用できるよう、AI 人材の育成も進めています。今年度は企画段階から AWS に参画していただき、新たにハンズオン研修を開講しました。今後も AWS には機械学習関連サービスの充実とともに当社の教育プログラムにご協力いただけると嬉しいです」(宮内氏)

今回の IoT プラットフォームは、社内の設備に向けたものだけでなく、他部署と共同で新しい製品やサービスを展開する足掛かりにもなっています。自治体が担う道路維持管理支援の人手不足や財政難といった負担を軽減する『スマート道路モニタリングシステム』は国土交通省スマートシティモデル事業として開発中です。また、油圧機器の状態監視を行うシステムの外部への販売も検討しているといいます。

さらに、主力製品の開発領域で活用していく構想もあります。大内田氏は「ショックアブソーバーの新製品を開発する際、実車での試験をします。ここで取得したデータをクラウドですぐに分析してその結果に基づき素早く改良していく仕組みの構築を検討中です」と展望を語っています。

"Netflix logo in bold red text."
膨大な AWS のサービスから当社の目的に合ったものを選択できるよう、CTC や AWS の担当者に相談しました。マネージドサービスも含めていろいろな選択肢を吟味し、オンプレミスと比べてスピーディかつ、大幅に小さな初期コストで IoT プラットフォームを構築できました

大内田 俊 氏

KYB 株式会社 DX 推進部

アーキテクチャ図

Architecture diagram depicting an AWS IoT data processing workflow, labeled in Japanese, showing device management, raw data, statistical calculation, AI judgment, notifications, visualization, storage, and various data flow components.

KYB 株式会社

  • 創業:1919 年

  • 設立:1948 年

  • 従業員数:14,718 名(2020 年度・連結)

  • 事業内容:四輪車、二輪車用緩衝器、油圧器、特殊車両などの製造販売

AWS 導入後の効果と今後の展開

  • インフラ導入・運用コストの 97% 削減

  • 耐障害性の向上

  • 高いスケーラビリティの獲得

  • AI 人材の育成

伊藤忠テクノソリューションズ株式会社

AWS プレミアコンサルティングパートナー

CTC は、2017 年から APN パートナー最上位の「プレミアコンサルティングパートナー」の認定を取得。同時に AWS 移行に関して優れた実績・専門的スキルがあることを AWS が認定する「移行コンピテンシー」を有している。クラウドの新規構築、および移行のためのコンサルティング、実装から運用をワンストップでご支援し、お客さまのビジネスを加速させるためのクラウド活用を共に推進している。

CTC logo with the slogan 'Challenging Tomorrow's Changes' in blue text on a white background.

本事例のご担当者

大内田 俊 氏

A person wearing a black suit jacket and white collared shirt against a light gray background.

菊池 貴好 氏

A person wearing a dark suit jacket and light blue collared shirt against a neutral background.

宮内 悠樹 氏

A person wearing a dark suit jacket and white collared shirt against a neutral background.

齊藤 雄太 氏

Business portrait of a man wearing glasses and a suit, facing the camera with a neutral background.