AWS Startup ブログ
次世代AI「Ambient Agent」の実現 – CoTerrace社がAmazon Bedrockで切り開く自律的AIの未来
「ヒトを科学し、個を照らし、組織の力を最大化する」をミッションに掲げ、人的資本経営と AI エージェントを融合した革新的なソリューション「Myles.」を提供する株式会社 CoTerrace(コテラス)。同社が開発するのは、従来の「指示待ち AI」 を超え、常にユーザーの状況を先読みして自律的にアクションする次世代 AI 「Ambient Agent」です。 今回は、アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社(AWS)スタートアップ事業本部のアカウントマネージャー 浦田力樹 とソリューションアーキテクト 冨山英佑 が、CoTerrace 社 CEO 山永航太氏、CTO 村上嵩大氏にお話を伺いました。組織の中で「ヒト」にまつわる課題を解決し、企業風土をポジティブに変える「Ambient Agent」と、その未来への可能性に迫ります。
「人的資本経営 × AIエージェント」で組織課題を解決
浦田:まずは CoTerrace 社の事業概要についてお聞かせください。
山永:CoTerrace は「⼈的資本経営 × AIエージェント」を掛け合わせて組織⼒の最⼤化を⽬指すスタートアップです。多くの企業では、社内の組織変革が進まない、HR データの収集・蓄積・活用ができていない、現場の⾏動変容を起こすことが難しい、といった⼈的資本経営を”実践”する上での壁が存在します。これらの壁を乗り越えるには、ミドルマネジメント層の成長および HRBP など組織開発に取り組む人的リソースが重要になります。⼀方、⽇本特有の⼈材不⾜を背景として、組織開発の担い⼿はまだまだ足りない状況です。その結果、本来、継続的な行動変容を支援すべきマネージャーや HRBP が、サーベイや研修といった単発イベントでの支援に留まってしまうという課題があります。私たちはこの課題を解決するために、“ヒト“にまつわるマネジメント業務を支援するAI エージェント「Myles.」を開発しました。Slack‧Microsoft Teams 上で⾃律的に動作し、マネージャーのマネジメントの幅を拡張することで、人的資本経営の実践のために戦略と実行をつなぐソリューションを提供しています。
浦田: その上で、CoTerrace 社が独自に掲げる「Ambient Agent」という概念についても教えていただけますか?
山永:従来の AI は人間からの指示を待って反応する「リアクティブ」なものが一般的でした。しかし私たちが開発している「Ambient Agent」は、常にバックグラウンドで動作し、ユーザーの状況を先読みして自律的にアクションを起こす「プロアクティブ」な AI です。これにより AI が「道具」から「パートナー」や「同僚」へと進化し、人間はより創造的で戦略的な業務に専念できるようになります。

株式会社CoTerrace CEO 山永航太 氏
浦田:山永さんと村上さんはどのような経緯で CoTerrace を設立されたのですか。
山永:私は以前から人事領域でのキャリアを重ねる中で、組織における「ヒト」の 課題の複雑さと重要性を肌で感じていました。それに加え、丁度「人的資本経営」 という考え方が国内でも広がってきたこともあり、当社のビジョンである「ヒトを科学し、個を照らし、組織の力を最大化する」という思いからも、この領域と私たちの実現しようとしている社会が近いこともあり、「人的資本経営」というテーマを軸に事業を検討していきました。 一方で村上は AI・機械学習分野や Web 開発などの技術的なバックグラウンドをフルスタックに持っていることや、丁度海外などでも HR 領域に対して AI エージェントを適用する事例なども増えてきたこともあり、「人的資本経営と AI を組み合わせれ ば、これまで解決できなかった組織課題にアプローチできるのではないか」という考えが生まれました。
村上:技術面から言うと、生成 AI の急速な進歩により、これまで実現が困難だった自律型 AI エージェントが現実的になったことも大きな要因です。従来のような SaaS ソフトウェアだと解決が困難だった人の領域に対して、AI エージェントというアプローチとの相性が良さそうだと感じたことや、Amazon Bedrock のような高性能 でセキュアな AI 基盤が利用できるようになったことで、企業が安心して利用できる AI ソリューションの開発が可能になりました。
Ambient Agent – 自律的に動く AI の実現
冨山:CoTerrace の技術的な特徴である「Ambient Agent」について詳しく教えてください。
村上:私たちの Ambient Agent の核となるのは、Amazon EventBridge を「AI の心臓部」として活用した「Heart Beat Job」という仕組みです。人間の心臓のように常に一定周期で動き続け、ユーザーの状況を判断して AI 自らが最適なタイミングでアクションを起こします。
現在、設計・実装・導入が完了した 5 体のエージェントが実際に稼働しています。各エージェントは独立して動作しつつも、互いに情報共有を行い協調して動作しています。Amazon EventBridge によって 30分~60分の間に毎回実行されて自律的な判断を行い、月次では深い分析も実行して長期的な業務パターンを学習しています。

株式会社 CoTerrace CTO 村上嵩大 氏
冨山:一般的なリアクティブな AI ではなく、本当の意味で自律的 「Ambient」に動作するということですね。
村上:その通りです。チャットアプリでのやり取りや導入企業ごとのデータベース内容を総合的に分析し、「今、ユーザーに何をすべきか」を自ら判断する仕組みを実現しています。将来的には Heart Beat Job を企業の人事システムなどと連携し、AI が自律的に判断してアクションを実行する構想も持っています。
Amazon Bedrock が支える自己進化型AIの秘密
浦田:Ambient Agent の実現にあたり、Amazon Bedrock を選択された理由を教えてください。
村上:開発スピードが最大の理由です。検討段階では、LangChain や Dify なども候補にありましたが、最終的には Amazon Bedrock Agents を採用しました。Amazon Bedrock Agents では、AI エージェントを稼働させるための専用インフラを別途構築する必要がなく、推論部分以外の制御機構も AWS サービスとスムーズに統合できます。これにより、迅速な開発を実現できました。加えて、スタートアップにとって重要なプロダクト価値検証のスピードや将来的なスケーラビリティを確保できる点、そしてエンタープライズ向けに求められる高いセキュリティ環境とも親和性が高い点も大きな決め手となりました。
当初は、Langchain や Dify などの利用も選択肢にありました。Langchain だと AI エージェントの開発にかかる実装コストがかかってしまい、Dify ではセキュリティ面やアプリケーション部分以外のインフラ周りの整備などのコストがかかってしまう問題がありました。Amazon Bedrock Agents を使用すれば、別途 AI エージェントを動かすインフラが不要であり、Ambient 化を実現するための AI エージェントの推論部分以外の制御機構などの実装を AWS サービスでインテグレーションしてスピードを持って開発が可能です。スタートアップとしてプロダクトの価値検証のスピードとスケーラビリティ、to B 向けと相性が良いセキュリティ環境の高さから Amazon Bedrock を選定しました。
浦田: 技術的な特徴についても教えてください。
私たちの最大の技術的特徴は「使えば使うほど、その組織に合わせて賢くなる」自己進化の仕組みです。Amazon Bedrock API の高いトレーサビリティを活用してユーザーの利用データを詳細に収集し、強化学習的なアプローチで Amazon Bedrock Agents のプロンプトをその組織に対して自動的に最適化し続けます。

アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 スタートアップ事業本部 ソリューションアーキテクト 冨山 英佑(写真左)& アカウントマネージャー 浦田力樹 (写真右)
浦田:具体的にはどのような最適化を行っているのですか。
村上:ユーザーとエージェントの会話から得られるパーソナル情報は Amazon DynamoDB にログとして蓄積され、一定の周期で「OrgProfile システム」が稼働します。このシステムは AI 自身が企業固有のコミュニケーションパターンや業務特性を分析し、その組織に最適化されたプロンプトを自動生成・適用します。 さらに、この仕組みでは、State・Action・Reward という概念を導入しています。具体的には、エージェントに生成を行わせるためのインプット情報を State、その結果エージェントが取った行動を Action、その行動に対してユーザーが示した反応を Reward としてデータを構造化します。これにより、ユーザー利用データを活用したプロンプト改善のフィードバックループを実現しています。この「OrgProfile」によって、AI は組織特有の業務に特化し、より精度の高い進化を遂げていきます。
エージェント協調を支える技術アーキテクチャ
冨山:Ambient Agent は複数のエージェントが同時に稼働していますが、どのように情報を共有しているのですか。
村上:Amazon Aurora Serverless を活用したリレーショナルデータベース構造を基盤にしています。独立して動作するエージェント同士でも、正規化されたデータ構造により効率的に知識を共有できる設計です。これにより、各エージェントは重複することなく専門性を発揮し、学習した知識や経験を他のエージェントも参照可能となります。エージェ ントごとに見ると現場レベルで小さなタスクを実行しているように見えますが、これらが協調して複数体が同時に動くことで、結果として、組織全体を考慮したエージェントの振る舞いを実現することができます。
冨山:技術的な構成についても教えてください。
村上:CDK × AWS Lambda をベースとしたサーバーレス構成を採用しています。各エージェントを独立させたままデプロイでき、開発や改修の俊敏性を確保できるのが大きな特徴です。呼び出されたときだけリソースを使用する仕組みなので、コスト効率も非常に高い。サーバー常駐型と違い、初期費用やメンテナンス費用を大幅に削減でき、AWS Lambda 単位での独立デプロイにより顧客要望への対応速度も向上します。スタートアップに最適化されたインフラ戦略といえます。
冨山:この革新的な構想を実現できた決め手はどこにありますか。
村上:AWS のサービスをシームレスに連携できたことです。Amazon Bedrock Agents を中核に据え、Amazon EventBridge や AWS Lambda などと組み合わせることで、単一プラットフォーム内でエコシステムを完結できました。その結果、開発効率を最大化できただけでなく、マルチクラウド環境にありがちな統合コストを回避しつつ、迅速にエージェント間の連携機構を構築できています。
未来への展望
浦田:今後の展望についても、それぞれお話いただけますか。
山永:Ambient Agent によって、AI は単なる「道具」から「パートナー」や「同僚」へと進化します。AI と協力し合うことで、人間はより創造的で戦略的な業務に専念できる世界が実現します。
村上:現在稼働中の 5 体のエージェントは、その未来のほんの始まりに過ぎません。マルチエージェント協調システムがさらに発展すれば、人間と AI が真に協働する新しい働き方のスタンダードを創造できます。将来的には 1 万体の AI エージェントが自律的に組織を改善する構想があり、その大量展開も進めています。また Heart Beat Job は、将来的に各企業の人事システムと連携し、AI が自律的に判断・動作する仕組みへ進化させる計画です。ここに Amazon Bedrock AgentCore (Preview) を採用することで、 さらに効率的なエージェントの開発・運用も視野に入れています。
浦田: CoTerrace 社が描くビジョンは、AIと人の協働の未来を切り拓くものだと強く感じています。AWS としても、Amazon Bedrock AgentCore の導入をはじめ、その実現に向けて技術・ビジネスの両面から全力でサポートしてまいります。本日は貴重なお話をありがとうございました。