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AWS ISV Accelerate プログラム参加による販売チャネル拡大の実現 – 株式会社ギークフィードの取り組み

この記事は、以下 4 名による共著です。

  • 株式会社ギークフィード クラウド開発事業部マネージャー 荒尾 将吾
  • 株式会社ギークフィード クラウド開発事業部マネージャー 岩間 理佐
  • アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 パートナーディベロップメントマネージャー 関根 佳祐
  • アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 パートナーソリューションアーキテクト 田根 英樹

はじめに

AWS ISV Accelerate (ISVA) プログラムは、AWS 上で動作する、または AWS と統合されるソフトウェアソリューションを提供し、AWS Marketplace を通じて販売する AWS パートナー向けのグローバルな共同販売プログラムです。このプログラムを活用することで、AWS ビジネスの成長を加速することができます。2024 年の Canalys 社の調査によると、AWS との共同販売を行うパートナーのうち、平均して 51% が高い収益成長を経験しており、80% のパートナーは AWS Marketplace が AWS との共同販売において重要な役割を果たしていると述べています。

株式会社ギークフィード (以下、ギークフィード) は、AWS とオープンソースソフトウェアを活用した IT コンサルティングおよびソフトウェア開発を行っている AWS パートナーです。2018 年に AWS パートナーネットワークに登録された後、AWS パートナーパスでソフトウェアパスとサービスパスの両方に参加し、2023 年 3 月に AWS アドバンストティアサービスパートナーに認定されています。2025 年には ISVA プログラムに参加し、AWS とのパートナーシップを深めています。

本記事では、ISVA プログラムへの参加を検討されている AWS パートナーの皆様に向けて、ギークフィードがどのように 10 ヶ月という短い期間で ISVA プログラムへの参加を完了できたのか、実施した取り組みと、それにより得られた成果について紹介します。

ギークフィードが ISVA プログラムへの参加を目指した理由

ギークフィードでは、SI (システム導入や運用支援) で得た現場知見を自社プロダクト開発に活かし、また自社プロダクトで得たノウハウを SI 提案へ還元する相互補完的なサイクルを確立して事業展開を行っています。その代表例が、SI プロジェクトで得た知見を反映し、Amazon Connect の機能を拡張して開発した Sylphina です。Amazon Connect は、コンタクトセンターに必要な機能が標準で備わった AWS のクラウド型コンタクトセンターサービスで、他の AWS サービスと組み合わせたり、追加機能を開発することで拡張が可能です。ギークフィードは、内線通話・転送、発信番号選択、エージェントの座席表管理、カスタムレポートといった日本のコンタクトセンター特有の運用要件に寄り添う機能を Sylphina に実装し、Amazon Connect の標準機能に加えて、追加機能が必要な顧客に対してすぐに導入できるソリューションを提供しています。また、Sylphina の開発で培った知見を、SI 開発の立ち上げスピードや品質を向上させるために役立てています。

ギークフィードは、SI と自社プロダクトが互いに高め合うサイクルをさらに加速させるためには、より多くの顧客にプロダクトを届けるための新しい販売チャネルが必要と考えました。クラウドサービス市場の競争が激化するなか、従来の営業活動だけでは新規顧客の獲得と事業の成長に限界があると感じていたためです。その具体的な取り組みとして、ISVA プログラムへの参加を検討することにしました。

AWS ファンデーショナルテクニカルレビュー (FTR) を通じたアーキテクチャと運用の改善

ISVA プログラムへの参加要件の1つに、ソフトウェアパスの Validated ステージ以上のパートナーであることが含まれています。Validated ステージに到達するためには、少なくとも1つ以上のオファリングで FTR 認定を取得する必要があります。FTR は、あらかじめ定義されている要件に従って、ソフトウェアやソリューションが AWS のベストプラクティスに基づいて実装および運用されていることを検証するパートナープログラムです。このレビューを受けることで、ソリューションのリスクを特定し、改善していくための機会を得ることができます。また、FTR 認定を取得することで、サービスの品質や信頼性が第三者の視点からも担保されます。

ギークフィードは、AWS のパートナーソリューションアーキテクトによるレビューを通じて、以下の改善を行い、より良いアーキテクチャを作り上げることで、FTR 認定を取得しました。

  • アーキテクチャの最適化
    • システム構成を AWS のベストプラクティスに沿って再設計し、AWS アカウント構成やサポート体制を含め、より効率的で拡張性の高いアーキテクチャに変更
  • セキュリティ強化
    • 認証情報の管理方法を従来のフレームワーク標準仕様から AWS Secrets Manager に移行
    • 脆弱性管理や権限管理を強化し、より堅牢なセキュリティ基盤を構築
  • 信頼性・可用性の向上
    • 事業継続計画 (BCP) の観点から、サービスにおいて重要なデータの取り扱いを再定義し、バックアップ対象の拡大ならびにバックアップ戦略を強化

SaaS Builder Toolkit for AWS (SBT) の活用により AWS Marketplace 出品を実現

ISVA パートナーとなるには、 AWS Marketplace の出品も必要です。ギークフィードは、AWS Marketplace に Sylphina を出品して提供することで、顧客がわずか数クリックで、すぐにパートナーソリューションを導入し利用を開始できることに大きなメリットを感じました。さらに、AWS アカウントの請求に統合されるため、コストの透明性を高め、調達プロセスを簡素化できます。

出品準備を進める過程で、ギークフィードは AWS Labs で公開されている SBT を活用しました。SBT は SaaS アプリケーションに必要な AWS リソースを生成するためのライブラリですが、AWS Marketplace 出品に必要なリソースの作成も行えます。ギークフィードは、このソースコードを精査し、知見を積み上げていきました。試行錯誤を重ねる中で SBT への貢献も行っています。具体的には、AWS Marketplace 購入者に対してコントロールプレーンからメール送信されない事象を確認した際、SBT のソースコードとログを調査し、AWS Lambda が参照する環境変数が正しくないことを発見しました。この事象は、プルリクエストを通じて修正されています。また、AWS Cloud Development Kit (CDK) と SBT を組み合わせた自動化パイプラインを構築することで、AWS Marketplace 出品に必要な AWS リソース群の作成を、わずか数十行のコードで再現可能としました。こうした実践的な取り組みを通じて、ギークフィードは AWS Marketplace への出品を完了しました。

Buy with AWS の導入と効果

ギークフィードは、さらに多くの顧客に自社ソリューションを届ける施策として、Buy with AWS を導入しました。Buy with AWS を使用すると、AWS パートナーのウェブサイト (製品サイトやランディングページなど) から顧客が AWS Marketplace 製品を購入できるようになり、スムーズに契約・導入を進めることができます。Buy with AWS を活用することで、従来の AWS Marketplace 製品ページからの流入に加えて、自社の製品ページを起点とした新たな販売経路を確立することができます。また、AWS Marketplace Management Portal 上でボタンクリック数やページビュー、エンゲージメントなどのユーザー行動データを可視化できるため、マーケティング施策やコンテンツ改善の PDCA サイクルを回すことも可能になります。導入後、ギークフィードでは、Buy with AWS からの AWS Marketplace 流入数が増加するといった効果が得られています。

図 1: Buy with AWS – 購入に関する販売者メトリクスダッシュボード

パートナーの声: ISVA プログラムへの参加を通じて得られたもの

「今回の取り組みは、部署横断的に編成したアライアンスチームを中心に、経営陣も関わる全社的なプロジェクトとなりました。FTR 認定の取得、AWS Marketplace への出品、Buy with AWS の導入、そして ISVA プログラム参加までを一気通貫で経験できたことは、私たちにとって大きな学びとなりました。

技術面では、AWS のベストプラクティスへの理解が深まり、セキュリティ・運用面の仕組み化に取り組むことができました。また、AWS のパートナーソリューションアーキテクトによるレビューを通じて、自社アーキテクチャの改善点を客観的に見直す機会となり、新しい知見を多く得ることができました。

さらに、ビジネス面では AWS Marketplace という新しいチャネルを通じて、これまで届かなかった顧客層にプロダクトを届けられるようになりました。販売経路の拡大という枠を超え、グローバル市場へのアクセスや、海外企業との新たな接点が生まれたことは大きな成果であり、Designated Seller of Record (DSOR) を通じた新しいビジネス展開へのきっかけにもつながりました。DSOR を活用することで、これまで直接販売が難しかったお客様にも、ディストリビューターパートナー経由で製品を提供できるようになります。ベンダーとしては、直販に頼らずに販売の範囲を広げられるため、より多くのお客様にリーチでき、お客様側も従来通りの技術サポートや支援を受けながら、AWS Marketplace を通じた簡単な購入手続きや契約管理のメリットを享受できます。

何より印象的だったのは、部署を越えて集まった多様なメンバーが一つの目標に向かって挑戦し、想像以上の成果を生み出せたことです。エンジニア、営業、経営陣、秘書など、それぞれ異なる立場や視点を持つメンバーが力を合わせることで、単独部署では辿り着けなかった結果を実現できました。この経験は自信に繋がり、日々のプロジェクト運営にも活かせる貴重な収穫になりました」

まとめ

ISVA プログラム参加への取り組みを通じて、ギークフィードは販売チャネル拡大のみにとどまらず、サービス品質向上および運用体制の標準化を実現しました。また、部署横断でチームを編成し、技術担当とビジネス担当が密な連携をすることで、10 ヶ月という短い期間で ISVA プログラムへの参加を完了しました。この記事が、これから ISVA プログラムへ参加を目指す方々にとって参考になれば幸いです。


ギークフィード – AWS パートナースポットライト

株式会社ギークフィードは「音声」と「クラウド」に強みを持つ AWS パートナーおよび AWS Marketplace 販売者です。様々な録音を一元管理できる「YouWire」や Amazon Connect 連携拡張サービス「Sylphina」を自社開発・運用しています。AWS を中心としたクラウド技術を武器に、自社プロダクト開発と SIer としてのシステム構築の両面から、お客様の課題解決を支援します。

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