Amazon Web Services ブログ
Research and Engineering Studio on AWS (RES) による CAD / CAE 環境の最適化
みなさん、こんにちは!製造業のお客様を中心に技術支援を行っているソリューションアーキテクトの山田です。
AWS Summit Japan 2025 が開催され、製品設計・エンジニアリング分野の展示「CAD や CAE で使用するデスクトップワークステーション環境をクラウド化して最適化〜Research and Engineering Studio on AWS〜」において、多くの関心をいただきました!
今回の展示では、Research and Engineering Studio on AWS (RES) による CAD(コンピューター支援設計)/CAE(コンピュータ支援エンジニアリング) 環境のクラウド化と、その環境上で Amazon Q Developer を活用した CAE アプリケーションによる流体解析のデモを実施いたしました。従来の製品設計・CAE 解析プロセスがどのように効率化されるのかをご紹介します。
従来の課題と RES による解決
研究・開発環境の課題
研究とエンジニアリングにおけるイノベーションの阻害要因として以下のような例が挙げられます。
- 海外の設計チームとデータ共有や打ち合わせが難しく、各拠点でバラバラに作業することになり、同じような問題を何度も解決する無駄が発生する
- ワークステーションの設定やソフトウェアのインストール、ライセンス管理などに時間を取られ、本来の設計・解析業務に集中できない
- 手持ちのワークステーションでは大規模な CFD(計算流体力学)解析ができず、「もっと高性能なコンピューティングリソースが欲しい」と思っても簡単には増強できない
Research and Engineering Studio on AWS (RES) とは
RES は、研究開発チームがクラウドの専門知識を必要とせずに研究者とエンジニアがワークロードを実行できる環境を管理および構築するためのオープンソースの使いやすいウェブベースのポータルです。
図1 RESアーキテクチャ
管理者にとってのメリット
インストール、設定、管理が楽になる
- ハードウェア調達を待つ必要なし、数分で環境構築完了
- 各拠点への CAD 環境配布も仮想環境で一括管理(図2)
- 仮想環境により設計拠点に捉われずに CAD 環境の展開やバージョンアップなどのメンテナンスも容易
- プロジェクト全体の AWS 使用状況とコストを一元的に監視・管理(図3)
- 既存の ID 認証システム(AWS マネージド AD サービス)と統合でき、セキュリティとガバナンスを一元管理
エンドユーザーにとってのメリット
Web ポータルにログインしてタスクに集中できる
- 最適なコンピュータ環境を使用することで開発の時間を短縮(図4)
- AWS リソースの管理を習熟する必要は無い
- 自宅でも出張先でも、どこからでも同じ環境にアクセス可能
- 大規模解析の時だけ高性能 GPU、普段は低コスト環境で無駄なし
- 共有データにアクセスできる環境でチーム間の共同作業が可能
図2 Virtual Desktops
図3 Virtual Desktop Dashboard
図4 選択できる高性能な仮想サーバ(Amazon EC2 インスタンス)一例
RES の使用開始方法
GitHub のAmazon Web Servicesリポジトリにホストされている RES ソースコードをダウンロードします。
RESの起源となる事例 – Amazon Lab126の事例 –
Amazon Lab126 は、カリフォルニア州サニーベールに拠点を置く、 Amazon の研究所です。このラボには Amazon Devices のハードウェア、ソフトウェア、運用チームが含まれており、Amazon Echo や Amazon Kindle など 知名度の高い製品を開発しています。
Amazon Lab126 では、老朽化した、コストのかかるオンプレミスの CAE 環境を使用していました。そのためエンジニアリングチームが必要とするスケーラビリティと使いやすさを提供できませんでした。
AWS ベースの CAE 機能を有効にするために、Amazon Lab126 は、最も多くの I/O 集中型ワークロード向けに Amazon FSx for Lustre を使用しました。また、AWS Backup を使用してクラスターの耐障害性を高める新しいスケールアウトコンピューティングフレームワークを作成しました。
これにより、CAE ジョブの実行を3倍高速化し、新規ユーザーを数週間ではなく1日足らずでオンボーディングすることが可能になりました。必要に応じて新しい CAE クラスターを起動でき、製品設計の革新を推進することができました。
デモ:RES 環境での Amazon Q Developer を活用したCFD(計算流体力学)解析業務支援
アーキテクチャ
図5 RES 環境での Amazon Q Developer を活用した CFD 解析 アーキテクチャ
想定ユーザー例:若手エンジニア
想定ユーザープロファイル:
- 学歴・基礎知識:機械工学科卒業、CFD 理論は学習済み
- 実務経験:CAD 基本操作可能(FreeCAD 等)、流体力学基礎知識あり
- プログラミング:Python 基礎レベル
- CFD 経験:学生時代に OpenFOAM を少し触った程度
課題:
- 学生時代の簡単な CFD と実務レベルのギャップが大きい
- 多機能・高機能な CAE ソフトは使い方がよくわからない
- 上司から「バイクフレームの空力解析やって」と言われたが、実務経験なし
- 社内に CFD 専門家がいない(または忙しくて教えてもらえない)
Amazon Q Developer による設計プラン作成
Amazon Q Developer(生成 AI 会話アシスタント)とのチャットやり取りで設計目標等を相談し、設計プランドキュメントを作成してもらいます。
図6 バイクフレーム CFD 解析 設計プランドキュメント例
Amazon Bedrock Knowledge Bases による RAG 活用
市販 CAE アプリケーションのユーザーガイドは web で一般公開されているケースが少なく、ソフト購入者のみが見れるケースが一般的です。従って生成 AI モデルで十分に学習済みではないため、Amazon Q Developer が自律的に判断して Amazon Bedrock Knowledge Bases で必要な CAE アプリケーションのマニュアルもしくはドキュメントを RAG(検索拡張生成)検索して操作ガイドや解析自動実行 Java マクロファイルなどを作成してユーザーに提示します。
2 つの利用方法
1. GUI 操作ガイド
CAE アプリケーションの GUI 画面で操作を行っていきたい場合は、Amazon Q Developer が生成した詳細な操作ガイドに従って操作していきます。
図7 バイクフレーム CFD 解析 CAE アプリケーション GUI 操作ガイド例
2. Java マクロ自動実行
CAE でユーザーサブルーチンでカスタマイズしたり自動化するなどの目的でコードを書く必要がある場合(マクロ機能の実行イメージの場合)には、Amazon Q Developper にコードを生成させて利用するようなユースケース(マクロファイルの実行ボタンを押すだけで自動解析実行が行われるイメージ)も考えられます。
図8 バイクフレーム CFD 解析 CAE 自動化コード例
赤字で示された箇所のような、パラメータの数値を変更するだけで様々なバリエーションの解析が自動実行できます。
図9 バイクフレーム CFD 解析 メッシュ分割、流速分布図
CAE アプリケーションを実行時に、ハイスペックな EC2 インスタンスに変更して処理することで、シミュレーション時間を大幅に短縮できます。
RES と同じ AWS 上に構成した HPC(ハイパフォーマンスコンピューティング) クラスタで処理させて、これまで実現できなかった大規模で高精度な解析にチャレンジすることも可能です。
図10 並列処理による解析時間の変化
まとめ
AWS Summit Japan 2025 の展示「CAD や CAE で使用するデスクトップワークステーション環境をクラウド化して最適化〜Research and Engineering Studio on AWS〜」では、RES による CAD/CAE 環境のクラウド化と、Amazon Q Developer を活用した CFD(計算流体力学)解析業務支援のデモを通じて、製品設計・エンジニアリング分野における以下のような革新的な変化を実現できることを示しました。
技術面での革新
- 専門知識の民主化: 若手エンジニアでも高度な CFD 解析を実行可能
- 学習コストの削減: 生成 AI による対話的な学習とガイダンス
- 自動化の推進: Java マクロによる解析プロセスの自動化
運用面での改善
- 迅速な環境構築: 数分でのワークステーション起動
- 柔軟なリソース管理: 需要に応じたスケーリング
- コスト最適化: 使用量ベースの課金とリソース管理
組織面での効果
- グローバルコラボレーション: 地理的制約を超えた共同作業
- 知識の共有: チーム間での専門知識の共有促進
- イノベーションの加速: 技術的制約の解消による創造性の向上
AWS の様々なサービスと組み合わせてどんどん機能拡張させていくことが可能ですが、まずは初めの一歩として、RES 環境での Amazon Q Developer 活用による製品設計・エンジニアリング分野でのデジタルトランスフォーメーションを推進し、競争力の向上を実現していきましょう。
著者プロフィール
山田 航司 (Koji Yamada)
アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 ソリューションアーキテクト
製造業のお客様を中心にクラウド活用の技術支援を担当しています。好きな AWS のサービスは Amazon Bedrock です。
愛読書は「大富豪トランプのでっかく考えて、でっかく儲けろ」です。