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AWS Summit Japan 2025 鉄道展示ブース開催報告 Part1

2025 年 6 月 25 日・26 日に開催された AWS Summit Japan 2025 において、鉄道業界向けの 2 つのソリューションを展示いたしました。本記事では、展示ブースの内容と来場者の皆様からいただいたご意見をご報告いたします。

展示概要

今回の展示では、鉄道業界が直面する課題に対応する 2 つのアプローチをご紹介しました。

展示内容

  1. 生成 AI エージェントによる鉄道業界の業務改善 〜鉄道 AI エージェント 〜
    1. 複数の AI エージェント連携による部門横断型の業務支援
    2. AI エージェントと MCP を用いた業務効率支援 〜 Strands Agents と MCP を組み合わせた効率的なリサーチ業務 〜
  2. 鉄道運行制御システムのクラウド活用に向けたアプローチ
    1. IEC 61508 をはじめとした国際規格に準拠しながら、クラウドの特性を活かした実装方法の解説
    2. 鉄道連動装置を例にした具体的な実装手法のご紹介
※ こちらの記事では Part1 のみご紹介し、 Part2 はこちらの記事でご紹介します。

1. 生成 AI エージェントによる鉄道業界の業務改善

人工知能 (AI) エージェントは、環境と対話し、データを収集し、そのデータを使用して自己決定タスクを実行して、事前に決められた目標を達成するためのソフトウェアプログラムです。目標は人間が設定しますが、その目標を達成するために実行する必要がある最適なアクションは AI エージェントが独自に選択します。
質問応答だけを所掌とする RAG とは異なり、AI エージェントはシステム間の連携も活躍の範囲となります。( 日本語のWorkshop はこちらをご覧下さい)
こちらの展示では、深刻な担い手不足が進む鉄道業界への一助として、生成 AI エージェントを用いた業務改善のためのアプローチを示しました。

1-1. マルチエージェントによる部門横断型タスクの効率化

日本の鉄道は高度で多様な技術に支えられています。この技術を保つため、鉄道業界では、例えば電気部門、信号通信部門、運行管理部門のように、部門ごとに専門性を持たせる手法が取られています。
しかし、部門ごとの高度な専門性が分離されているため、部門間での情報共有や調整が難しいといった課題があります。実際に、部門横断的な全体最適を図る計画タスクや調整タスクが複雑で業務負担になっていると、複数の鉄道業界のお客様から伺ったことがございます。
そこで、今回の展示では、計画タスク、調整タスクといった、部門横断型の大変な作業の効率化を、生成 AI マルチエージェントを用いて解決するためのソリューションを紹介しました。本ソリューションは、生成 AI のマルチエージェントの仕組みを取り入れており、親エージェントとしての部門間連携エージェントが、子エージェントとしての専門部門エージェント (図の例だと、電気部門エージェント、信号通信部門エージェント、運行管理部門エージェント) との連携を担ってくれるようになっています。そのためユーザは、部門間連携エージェントへ依頼をするだけで、必要部門との調整と連携が行われた上で回答を得ることができます。

展示のデモでは、ユーザがチャットから「保線業務効率化に向けた提案をお願い!」と依頼を行うと、部門間連携役の親エージェントが各専門エージェント (画面の例だと、保線部門エージェント、財務部門エージェント、駅運営部門エージェント) にタスクを割り振り、各部門エージェントとの連携、調整を行なった上での「保線作業効率化計画」の提案を、親エージェントが返す過程などが見られるようになっていました。親エージェントから呼び出される専門エージェントは、ユーザの依頼内容によって柔軟に変わる仕組みとなっていました。
また、親エージェントの最終回答を、Amazon Bedrock (Claude 3.7 Sonnet) により変換させ、報告書形式の見た目にすることができることもお見せいたしました。
もしかすると「これは単体の AI エージェントでも実現できるのでは ? なんであえてマルチエージェントを用いたの ? 」と気になった方もおられるかもしれません。たしかに、 1 つの AI エージェントで実現する仕組みも可能ではあります。しかし、単体の AI エージェントに複雑なことを行わせようとすると、エージェントが誤ったツールを呼び出したり、逆にツールを呼び出せない、プロンプトやコードが煩雑化するといった、さまざまな課題が出てきます。今回は、鉄道業界の高度な技術知識、多様な部門の連携といった、明確に複雑性の高いユースケースとなるので、マルチエージェントを採用しました。
マルチエージェントの仕組みを AWS で実現するには、さまざまな方法があります。上記のソリューションアーキテクチャ例のように、Amazon Bedrock のマルチエージェントコラボレーション機能を用いるのは 1 つの有効な手です。マネージドにマルチエージェントの機能を実現できるので、ビジネス要求を素早く実証し、運用負荷を抑えたい場合におすすめです。他にも、オープンソース AI エージェント SDK である Strands Agents を用いるのも有効です。Strands Agents を用いて、マルチエージェントを実装し、より高度なエージェント機能を、効率的に実現したい場合におすすめです。プログラミング (Python) での実装が必要ですが、自由度の高いマルチエージェントの実現を目指して、独自開発したエージェントを扱うことも選択肢の 1 つとなるでしょう。
AWS には、豊富な LLM モデルを扱え、生成 AI を扱っていく上で役立つ豊富な機能を活用できる、Amazon Bedrock があります。Amazon Bedrock を用いることで、進化の激しい生成 AI の最先端技術をいち早く取り入れ、ビジネスの差別化に繋がらない機能開発は Amazon Bedrock の機能群にお任せし、高機能な生成 AI ソリューションを効率的に開発、運用していただければと思います。

1-2. AWS Lambda 上で Strands Agents と MCP を組み合わせたリサーチ業務の効率化

MCP (Model Context Protocol) とは

MCP は、AI エージェントへデータを効率的に共有するための共通規格です。これにより、異なるシステム間でのデータ連携が大幅に簡素化されます。

MCP の利用イメージ

実は、AWS 社内でも同様の課題があります。AWS Blog や AWS YouTube など、日々更新される最新情報をまとめる業務において、従来は手作業で情報収集・整理を行っていました。
従来の課題
  • 複数のソースからの情報収集に時間がかかる
  • MCP ツールのインストールが必要で導入の敷居が高い
  • 情報整理後の資料作成も別途必要
Strands Agents と MCP を組み合わせた解決策
Strands Agents は、MCP ツールのインストール不要でブラウザ上で直接利用できるソリューションです。これにより、導入の敷居を大幅に下げることができます。

リサーチデモの実演

展示では、実際のリサーチ業務を想定したデモを実演しました。

MCP × マルチ AI エージェント の効果

MCP Server を複数の AI エージェント に登録することで、複数のタスクで構成される業務にも適用できます。
たとえば
  1. 情報収集エージェント: 複数の AWS 情報源から最新情報を自動収集
  2. 資料作成エージェント: 分析結果を基にプレゼンテーション資料を自動生成
の2つの AI が共通する MCP Server を利用できるため、リサーチのみならず、データに基づいた資料作成も可能になります。
この マルチ AI エージェント の発展形として、AWS の最新情報を AWS Blog や AWS YouTube MCP をリサーチし、最新情報の資料を紹介する資料作成のデモ展示も行いました。
実際にこの統合アプローチで、従来多くの時間がかかっていた資料作成業務を短縮することが可能になっています。

来場者の皆様からの反応

鉄道事業者の皆様から

  • A 社様
    「大変感動した。今日帰ったらすぐに試してみます!」
  • B 社様
    「AI エージェント 同士で部門間のすり合わせを行うアプローチは面白そう。ぜひやってみたい」
  • C 社様
    展示内容全般に対して良好な反応をいただき、具体的な導入検討への関心を示されました。

他業界からの関心

  • 人材サービス業
    「資料を AI エージェント で作ってくれる機能は非常に魅力的。すぐにでも使ってみたい」

以上が Part1 の展示内容です。このほかの展示内容については Part2 でご紹介いたします。

是非続編の Part2 もご覧ください。