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【開催報告&資料公開】テレコム業界向け:Mobile World Congress (MWC) 2025 Recap
アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 ソリューションアーキテクトの林です。
通信事業者の方々、通信業界に関わられている方々、 AI 活用や最新技術の動向にご興味のある方々を主な対象として、2025 年 5 月 15 日に「テレコム業界向け: Mobile World Congress (MWC) 2025 Recap 」をウェビナーで開催しました。
本記事では、当日の内容・動画を皆様にご紹介します。
ウェビナー開催の背景
2025 年 3 月 3 日から 3 月 6 日までスペイン・バルセロナで開催されたテレコム業界最大のイベント Mobile Word Congress (MWC) 2025。AWS は現地にて、3 回目のブース出展を行いました。10 万人以上の来場者を集めた今回のイベントでは、通信事業者様やパートナー様と AWS の協業による数々の取り組みがデモンストレーション含め展示されました。今回のウェビナーでは、テレコム業界向けの AWS の取り組みとして、「ネットワークのモダナイゼーション」「ネットワークオペレーションの高度化」「ソフトウェア主導型のビジネス変革」「新規ビジネスユースケースの創出」のテーマで、様々な事例をご紹介しました。
1. MWC 2025 における AWS 出展内容のハイライト | Video
アマゾン ウェブ サービス ジャパン
技術統括本部 ストラテジックインダストリー技術本部 通信グループ 通信第一ソリューション部
部長 川崎 一青
資料はこちらからダウンロード頂けます。
まず川﨑より、MWC 2025 における AWS の出展の全体像をご説明いたしました。今回の出展では、通信業界向けの新たなAWS サービスの発表と、24 のデモ展示、多数のセッションを通じて、通信事業者各社の変革への取り組みが紹介されました。
特に注目を集めたのは、通信業界の要件に対応した新しい AWS Outposts の発表です。高スループット対応の Outposts rack と Cloud RAN 向けの Outposts server により、低レイテンシー、高スループット、リアルタイムパフォーマンスの要件に対応し、オンプレミスに延伸したAWSインフラストラクチャにネットワーク機能をデプロイすることが可能となります。
また、 AWS IoT Device Management のマネージドインテグレーション機能も発表され、異なるプロトコルやメーカー間の互換性問題を解消し、統一的なデバイス制御と SDK を提供することで、スマートホームなどのサービス開発を加速することが可能となります。
Verizon、BT、Orange、Swisscom など、世界の主要な通信事業者とのセッションも多数行われ、各社が AWS を活用し、5G コアの展開や Cloud RANの評価、オペレーション高度化、AI を活用した顧客サービスの改善などを行なった取り組みが紹介されました。これらの取り組みは、通信業界が直面する課題に対する革新的なソリューションを提示するとともに、 AWS が通信業界の変革において重要な役割を果たしていることを示しています。
2. ネットワークのモダナイゼーション | Video
アマゾン ウェブ サービス ジャパン
技術統括本部 ストラテジックインダストリー技術本部 通信グループ 通信第二ソリューション部
ソリューションアーキテクト 林 文傑
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林からは、ネットワークのモダナイゼーションをテーマとして、通信事業者のネットワーク構築・運用における課題と、それらに対する生成 AI や AWS インフラを活用したソリューション事例についてお届けしました。
通信事業者は、ネットワークデプロイの自動化、ベンダー開発の効率化、そしてデプロイ環境の最適化といった課題に直面しています。これらの課題に対し、 MWC 2025 で展示/デモンストレーションされた、 AWS が通信事業者およびパートナーと協業したソリューション事例を対応する3つの観点からご紹介しました。
以下に各観点の概要をまとめましたのでご参照ください。
【デプロイ自動化】
ネットワークデプロイの自動化において、 NTT DOCOMO では Open RAN 向けコンテナ環境の構築およびそのライフサイクル自動化を、 AWS クラウドサービスを使って実現しています。また、 TELUS では Samsung および ng-voice とのローミングプロジェクトにおいて生成AIを活用したデプロイ自動化の PoC を実施し、実証を進めています。 LLM・RAG により設計書やネットワーク機能設定を元にIaCアーティファクトを自動生成し GitOps ワークフローで効率的に展開しています。
【ベンダー開発】
ベンダー開発の効率化において、 Ericsson では、カスタム言語モデル、 RAG 、エージェントを活用してエンジニアのナレッジソースへのアクセスを容易にし、エンジニアの製品設計・開発を支援しています。エージェントへの仕様問い合わせ、コード検索、コードの説明、コード生成を実施することで、複雑な技術的な問いでインサイトに辿り着く時間が数時間から数分に短縮され、レガシーコードに対し 4-10% の効率向上を実現しています。
【デプロイ環境】
デプロイ環境の最適化において、 AWS は新たに高スループット対応の Outposts rack および Cloud RAN 向けの Outposts server を発表しました。これにより、 AWS をオンプレミスに延伸し、低レイテンシ、高スループット、リアルタイム性能が求められる UPF/CU/DU をホストすることが可能になります。O2 Telefónica や Orange といった通信事業者がこれらの新しい AWS Outposts の導入や検証を予定しており、ネットワークのクラウド化を推進しています。
これらの事例は、生成AIやクラウドインフラの活用により、通信事業者のネットワーク開発・構築における課題解決と効率化が着実に進んでいることを示しています。
3. ネットワークオペレーションの高度化 | Video
アマゾン ウェブ サービス ジャパン
技術統括本部 ストラテジックインダストリー技術本部 通信グループ 通信第一ソリューション部
ソリューションアーキテクト 宮崎 友貴
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宮崎からは、通信事業者のネットワークオペレーションの高度化をテーマとして、通信事業者の運用における課題と、それらに対するAWSの生成AIやAI/MLを活用したソリューション事例についてお届けしました。
通信事業者は、監視、原因特定、復旧処置の各フェーズにおいて、 5G や Open RAN による複雑性の増加に伴う様々な課題に直面しています。これらの課題に対し、MWC 2025で展示/デモンストレーションされた、 AWS が通信事業者およびパートナーと協業したソリューション事例をご紹介しました。
以下に各社の解決事例の概要をまとめます。。
【SK Telecom】
SK Telecom は、日々検出される異常が多くノイズに埋もれる問題や、複数のネットワークドメイン・ベンダーによる一元的な把握が困難という監視フェーズの課題、および適切なリソース配分が必要な復旧処置フェーズの課題に対し、トラフィックデータを用いてスループットの予測を行う推論モデルにより、アプリケーションのリソースの自動スケールを実現しています。 RAN SMO への AI 活用に向け、 AWS が設計済の ML Platform ブループリント(IaC)を活用しています。
【NTT DOCOMO】
NTT DOCOMO は、ネットワークトポロジーが不明確で原因の切り分け・特定が困難という原因特定フェーズの課題に対し、 Amazon Neptune を活用した商用データでの検証では、動的に変化するネットワークトポロジーをグラフデータ化し、警報が同時に大量発生するような複雑な障害ケースにおいて、数千台以上の機器の中から障害被疑ノードを15秒という短時間で特定することに成功しています。
【StarHub/SUTD/SynDesignTek】
StarHub/SUTD/SynDesignTek は、監視から原因特定、復旧処置までの一連のフェーズにおける課題に対し、 Amazon Bedrock を活用し、ネットワーク構成と状態を理解したマルチ AI エージェントによる運用支援機能を備えた統合 O-RAN 運用ライフサイクルプラットフォームを構築し、トラブルシューティング時間を数週間から数分に短縮することに成功しています。
【O2 Telefonica】
O2 Telefonica は、監視フェーズにおける警報の集約、原因特定フェーズでの切り分け、そして復旧処置フェーズまでの E2E プロセスにおける課題(人手による作業のミスリスクや、マニュアル化されていない複雑な障害の復旧時間の長時間化)に対し、 Tech Mahindra が開発したAIを活用した自律型ネットワーク運用プラットフォーム(ANOP)を導入しました。これにより、アラーム集約やインシデント管理などの運用プロセス自動化を実現し、インシデント対応時間を40%以上改善、復旧までの平均時間(MTTR)を 30% 以上改善しました。
これらの事例では、 Amazon Bedrock(生成AI)、 Amazon SageMaker(機械学習)、 Amazon Neptune(グラフデータベース)といった AWS サービスを活用し、障害の検知時間/復旧時間の短縮、ヒューマンエラーの防止、運用コストの削減を実現しています。
4. ソフトウェア主導型のテレコムビジネスの変革 | Video
アマゾン ウェブ サービス ジャパン
技術統括本部 ストラテジックインダストリー技術本部 通信グループ 通信第一ソリューション部
ソリューションアーキテクト 岡本 篤志
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岡本からは、ソフトウェア主導型のテレコムビジネスの変革をテーマとして、通信事業者のビジネスオペレーションが抱える課題と、それらの課題に対して、生成 AI とともにクラウドに最適化されかつ通信業務に特化したパートナーのソフトウェアサービスを活用したソリューション事例、 AI エージェントとの協業を課題解決の手段として活用した事例ついてお届けしました。
通信事業者は、プロダクト開発/営業、販売/デリバリー、運用/サポートの各フェーズにおいて、ヒューマン主導型の様々な課題に直面しています。これらの課題に対し、 MWC 2025 で展示/デモンストレーションされた、 AWS が通信事業者およびパートナーと協業したソリューション事例を3つご紹介しました。
以下に各事例の概要をまとめました。
【WIM/Symphonica:デジタルブランドの立ち上げを加速】
AWS 上のAI主導のノーコードプラットフォームにより、メキシコ市場でデジタルモバイルブランドを 90 日という短期間で立ち上げを実現しました。 Amazon EKS上に構築したクラウドネイティブな OSS システムと、 Amazon Bedrock を活用したコネクター生成により、 5 分以内での簡単なモバイル接続体験を実現しています。
【Amdocs/NVIDIA: B2B サービスの収益化と運用革新】
AI駆動の統合された B2B 顧客体験により、営業からサービス提供までの効率化を実現しました。ビジネスフローに対する Agentic なオーケストレーションの適用とデジタルツインを活用し、ネットワーク展開計画を意識した営業の実現、運用コストの 30% 削減、サービス品質の最大 25% 向上、ネットワーク使用可能率の最大 15% 向上を達成しています。
【Radcom/ServiceNow: AI 制御の苦情予測とアシュアランス自動化】
AIによる苦情予測と顧客体験スコアの統合により、効率的な問題解決を実現しました。 Amazon SageMaker による顧客の苦情を予測するための AI モデルと、 Bedrock Agents を活用したカスタマイズされた AI モデル、 LLM 、ナレッジベースを使った RAG により、ネットワークチケット解決時間を 30% 短縮、予測型 AI によりチケット量を 40% 削減、解約率を 3% 改善しています。
これらの事例は、生成 AI との協業による自動化、ノーコード開発、生成 AI を活用した Agentic なオーケストレーション適用、オペレーション自動化、予兆監視/事前アクションといったソフトウェア主導型のアプローチにより、新規顧客の獲得、既存顧客の体験向上、解約リスク低減といった成果を実現しています。
5. 新しいビジネスユースケースの創出 | Video
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技術統括本部 ストラテジックインダストリー技術本部 通信グループ 通信第二ソリューション部
ソリューションアーキテクト 川岸 基成
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川岸からは、新しいビジネスユースケースの創出をテーマとして、通信事業者の立ち位置を活かしたビジネス変革の取り組みについてお届けしました。こちらでは、スマートホーム、 Network API、コンタクトセンター、エッジの活用の4つの領域における取り組みを AWS 活用のポイントを交えてご紹介しました。
以下に各領域の概要をまとめました。
【スマートホーム】
AWS は、センサー、カメラ、家電製品など、多様なタイプのデバイスの統合と制御を簡素化するための AWS IoT Device Management のマネージドインテグレーション機能のプレビューを発表しました。通信テクノロジー企業である TELUS は AWS とのパートナーシップを基礎にマネージドインテグレーション機能を活用することで、 IoT デバイスを統合したシンプルな体験を実現する SmartHome+ プラットフォームを開発しました。 Telefónica の事例では、 AWS の生成 AI と IoT 技術、Alexa Smart Properties を組み合わせた在宅高齢者向け AI エージェントを開発しました。家族や友人との通話、ビデオ通話、メッセージ、写真共有などのコミュニケーション機能や、緊急通報、ヘルプ要請機能を提供し、高齢者の孤独防止と自立支援を実現しています。
【コンタクトセンター】
SMB向けの Amazon Connect を活用した SaaS コンタクトセンターソリューションでは、従業員が数人しかいないような顧客層でも利用できるコミュニケーションプラットフォームを提供します。30 分以内に専用のコンタクトセンターを立ち上げ可能で、生成 AI を活用したコールフローの自動生成や、 Amazon Location Services を使用した GPS での位置確認による現場作業員と顧客間のコミュニケーション改善を実現しています。
【Network API】
Deutsche TelekomとDroniq は、 Network API を活用して公共安全活動向けのドローンソリューションを開発しました。 Quality on Demand API を使用して帯域幅と遅延の保証をオンデマンドでリクエストし、ドローンのシームレスな運用を実現しています。また、 VerizonとAquimo は、 QoS Network API によるゲームトラフィックの優先制御を行い、スタジアム内の混雑した環境でも低遅延で高品質なゲーム体験を提供しています。
【エッジの活用】
Intel との協業により、 AI ハードウェアを搭載した宅内ゲートウェイに、エッジ環境に最適化された圧縮版SLMを実装しました。エージェントオーケストレーターが問い合わせの複雑さを判断し、大部分の問い合わせを端末上で処理することで、レイテンシー削減や帯域幅使用を最小化しています。
これらの事例は、通信事業者が持つユーザー、サービス、デバイスの接点を活かし、生成 AI 、IoT やエッジコンピューティングなどの最新技術を組み合わせることで、新たな価値創造とビジネス機会の拡大を実現していることを示しています。
まとめ
本ウェビナーでは、2025 年 5 月 15 日に開催した「テレコム業界向け: Mobile World Congress (MWC) 2025 Recap 」の振り返りとして、開催概要や発表の見どころ、お客様事例をご紹介しました。セミナーにご参加いただいた方、誠にありがとうございました。ご参加頂けなかった方も、このブログから動画や資料を参照いただき、今後の AWS 活用の参考としてお役立ていただければ幸いです。ご質問やご要望がございましたら、お問い合わせページ、もしくは担当営業までご連絡をお願いします。
このブログの著者
林 文傑 (Bunketsu Hayashi)
アマゾン ウェブ サービス ジャパン
技術統括本部 ストラテジックインダストリー技術本部 通信グループ 通信ソリューション第二部
ソリューションアーキテクト