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Amazon Q Business と Amazon Bedrock によるSAP データ価値の最大化 – パート 1

企業が生成AIを積極的に活用し、ビジネス価値を創出し始めています。SAP システムを利用している方で、どこから始めればよいのか、アイデアを探している方も多いのではないでしょうか。このブログでは、SAP データに関する一般的なビジネスユースケースと、AWS の GenAI サービスを使用した様々なアプローチについて説明します。

生成AIを活用するERP データ分析には、複数のアプローチがあります。

  • SAP Joule などのソフトウェアに組み込まれた AI
  • Anthropic Claude や Amazon Nova などの Amazon Bedrock モデルへのアクセスを提供する SAP Gen AI Hub などのプラットフォームソリューション
  • HR や法務など、業界固有のソリューションを含むデータ分析のための事前に構築済みのソリューション
  • 独自のビジネスデータを使用した生成型 AI 技術によるアプリケーションの構築とカスタマイズ

このブログシリーズでは、SAP データを AWS で活用する際の独自ソリューションの構築に関する以下のユースケースに焦点を当てます。

  • 自然言語を使用した SAP Early Watch Analysis (EWA) レポートの分析
  • インテリジェントドキュメントプロセッシング (IDP) を使用した請求書処理の自動化
  • 自然言語を使用した構造化された財務データからの業務上の知見の取得

AWS 生成 AI サービス

このブログでは、AWS の以下の生成 AI サービスを使用します:

  • Amazon Q Business: エンタープライズデータに基づいて質問への回答、要約の提供、コンテンツの生成、タスクの完了を行うように設定できる、フルマネージドの生成 AI 搭載アシスタントです。
  • Amazon Bedrock: 主要な AI 企業と Amazon が提供する高性能な基盤モデル (FM) を、統一された API を通じて利用できるフルマネージドサービスです。Bedrock の Knowledge Bases 機能により、基盤モデルとエージェントに企業の非公開データソースからコンテキスト情報を提供し、より関連性が高く、正確で、カスタマイズされた応答を実現できます。

自然言語を使用した SAP Early Watch Analysis (EWA) レポートの分析

EWA レポートには SAP システムの正常性に関する重要な詳細が含まれており、時間の経過に伴うトレンドを分析するために使用できます。
これらのドキュメントには詳細な情報が含まれているため、レポートが数十ページに及ぶことは一般的です。例えば、SAP が公開している S/4HANA EWA のサンプルは 213 ページあります。
レポートの分析、推奨事項の反映、時間の経過に伴うトレンドの把握は面倒な作業ですが、Amazon Q Business を使用して自動化することができます。

図 1 は、想定されるソリューションのアーキテクチャ図を示しており、このセクションではその構築手順を説明します。

  1. 組織の EWA レポート (すべての SAP システムから) を Amazon S3 バケットにアップロードします
  2. Amazon Q Business アプリケーション、Q Index を作成し、S3 をデータソースとして追加します
  3. Web UI を使用して EWA レポートを分析します

図 1: EWA 分析ツールアプリケーションのアーキテクチャ

  1. 組織の EWA レポート (すべての SAP システムから) を Amazon S3 バケットにアップロードします

新しい Amazon S3 バケットを作成するか、既存の空のバケットを使用することができます。すべての EWA レポートをダウンロードし、Amazon S3 バケットに保存します (S3 バケット名を控えておいてください。例: sap-early-watch)。

:このソリューションを一般に公開されているレポートでテストしたい場合は、公開されているサンプルレポートを使用できます。

  1. Amazon Q Business アプリケーション、Q Index を作成し、S3 をデータソースとして追加する

Amazon Q Business アプリケーションを作成するには、以下の手順に従ってください:

  • AWS コンソールで Amazon Q Business に移動し、[Get Started] ボタンをクリックします
  • 図 2 に示すように、[Create Application] をクリックし、フォームを使用してアプリケーションを作成します
  • AWS のベストプラクティスに従って AWS IAM Identity Center の使用が推奨されますが、AWS 外でユーザー認証を管理する場合は AWS IAM Identity Provider も使用できます
  • すぐに始めるためにユーザーを選択します。これは後で編集することもできます (オプション)
  • フォームの入力が完了したら、[Create] ボタンをクリックすると、数秒でウェブアプリが作成されます

図 2 Amazon Q Business でのアプリケーションの作成

図 2: Amazon Q Business でのアプリケーション作成

Amazon Q インデックスを追加するには、以下の手順に従ってください:

  • 作成したアプリケーション (ABC-EWA-Analyzer) に移動し、図 3 に示すように Data sources を選択します。

図 3 Amazon Q Business のデータソース

図 3: Amazon Q Business のデータソース

  • 「Add an index」オプションに移動し、新しいインデックスを作成します (図 4 を参照)
  • フォームに入力してインデックスを追加します (完了まで最大 20 分かかる場合があります)

Figure 4 add index to application ABC-EWA-Analyzer

図 4: アプリケーション ABC-EWA-Analyzer へのインデックスの追加

S3 をデータソースとして追加するには、以下の手順に従ってください:

  • インデックスを作成したら、(図 5 に示すように) Add Data sources をクリックし、EWA レポートが保存されている S3 バケット (この場合は sap-early-watch) を選択します

図 5 アプリケーションのデータソースとして Amazon S3 を追加する

図 5: アプリケーションのデータソースとして Amazon S3 を追加する

  • 同期タイプとスケジュールを選択します
  • データソースフォームに記入し、「Add Data sources」ボタンをクリックしてタスクを完了します
  • データソースが追加されたら、「今すぐ同期」を使用して初期同期を実行できます。レポートの数と長さによっては、最大 20 分かかる場合があります
  1. Web UI を使用して EWA レポートを分析

同期が完了したら、アプリケーションに表示されるデプロイされた URL を使用して EWA Analyzer アプリにアクセスします。
アプリに表示されるタイトル、ウェルカムメッセージ、会社のロゴを独自のものに変更することで、Web サイトの外観をカスタマイズできます。

図 6 は、カスタマイズしたアプリの表示例を示しています (ナレッジソースのトグルで company knowledge が選択されていることを確認してください)。

Figure 6 Early Watch Analyzer app

図 6: Early Watch Analyzer アプリ

アプリを使用して以下のような分析を行うことで、生産性が向上するだけでなく、より深い調査が可能になります。

  • 最も実行時間の長いデータベースクエリを見つける
  • データベースとオペレーティングシステムが最新の状態に更新されているか確認する
  • レポートで言及されているパフォーマンス向上のための具体的な推奨事項を得る

図 7 は、S3 バケットにアップロードされた EWA レポートに関連する質問をするためのアプリケーションの操作例を示しています。また、Amazon Q の透明性という側面にも注目してください。これは回答を生成するために使用されているソースを表示している点です。

Figure 7 EWA analysis using Amazon Q Business application

図 7: Amazon Q Business アプリケーションを使用した EWA 分析

ヒント: Amazon Q Business アプリを使用して、SAP レディネスチェックレポートやサイジングレポートなどの分析も可能です。

これで、以下の内容について解説した EWA 分析のユースケースを終了します。

  • 複数ページにわたる EWA レポートの手動レビュー時間を削減
  • 複数の SAP システムにわたるシステムヘルスの迅速な分析を実現
  • 時間の経過に伴うトレンドと推奨事項を追跡

インテリジェントドキュメントプロセッシング (IDP) を使用した請求書処理の自動化

従来の紙ベースやデジタル請求書の手作業による処理は、時間がかかるだけでなく、エラーが発生しやすく、支払いの遅延、コンプライアンスリスク、貴重な人的リソースの非効率な使用につながります。
ビジネスが拡大するにつれて請求書の量は指数関数的に増加し、手作業による処理はますます持続不可能になっています。
ここで生成系 AI ソリューションを活用して、負担を軽減することができます。
また、AWS テクノロジーに加えて、SAP Build プロセス自動化ソリューションを使用することもできます。

請求書の処理と分類: 組織が紙ベースまたは PDF/メールの請求書を扱っている場合、効率性と正確性の両立の難しさをご存知でしょう。また、手作業による処理は業務拡大に対応できません。このセクションでは、以下のユースケースに対して Amazon Bedrock Data Automation 機能を使用する方法を紹介します:

  • SAP またはサードパーティシステムにおける紙/PDF ベースの請求書処理を自動化
  • 請求書を異なるグループに分類し、さらなる分析を行う

: SAP に請求書を直接転記する場合は、処理を自動化するために SAP Build Process Automation ( AWS で利用可能な Business Technology Platform サービス)などの代替アプローチを使用することもできます。

Bedrock Data Automation (BDA) は、生成 AI を活用して非構造化ドキュメント (請求書など) やメディアからのデータ抽出を簡素化して、マルチモーダルデータを構造化フォーマットに自動変換します。BDA は、以下のように請求書の処理と分類に使用できます:

  • 請求書からデータを抽出、正規化、検証します
  • BDA の出力をカスタマイズし、既存の処理ワークフローと統合します
  • 正規化された出力を請求書の分類 (ビジネスユニットごとなど) に使用します

図 8 はソリューションのアーキテクチャ図を示しており、このセクションではその構築手順を説明します。

  1. 組織の請求書を Amazon S3 バケットにアップロードします
  2. BDA プロジェクトを作成し、ブループリントを追加します
  3. 結果を既存のワークフローに取り込んで処理を行います

図 8 請求書の処理と分類に BDA を使用するためのアーキテクチャ

図 8: 請求書の処理と分類に BDA を使用するアーキテクチャ

  1. 組織の請求書を Amazon S3 バケットにアップロードする

新しい Amazon S3 バケットを作成するか、既存の空のバケットを使用することができます。すべての請求書 (PDF、スキャンした画像など) を Amazon S3 バケットにアップロードします。

  1. BDA プロジェクトを作成してブループリントを追加する

BDA プロジェクトとブループリントを作成するには、以下の手順に従ってください:

  • AWS コンソールの Amazon Bedrock の Data Automation に移動し、図 9 のようにプロジェクトを作成します

図 9 新しい BDA プロジェクトの作成

図 9: 新しい BDA プロジェクトの作成

  • プロジェクトが作成されたら、図 10 に示すように、請求書が保存されている S3 バケットからデータをインポートするためにテストオプションを使用します

Figure 10 Invoice processing test from AWS console

図 10: AWS コンソールからの請求書処理テスト

  • 図 11 は BDA からの標準出力の例を示しており、JSON 形式でダウンロードすることができます。

Figure 11 Example of standard output of BDA

図 11: BDA の標準出力の例

  • 標準出力を評価し、さらなる制御が必要な場合は、カスタム出力 (図 12 に示すように) を使用し、「ブループリントプロンプト」を使用してブループリントを作成します。また、AWS が提供するブループリントのリストから選択することもできます。

Figure 12 BDA custom output and blueprint

図 12: BDA カスタム出力とブループリント

  1. 処理のための既存のワークフローに結果を統合: 入念なテストを行い、ブループリントが組織の運用に沿ってデータを抽出することを確認した後、SAP Business Technology Platform (BTP) サービスを使用して作成されたアプリケーションなど、SAP への請求書処理のための既存のワークフローに BDA プロジェクトを統合します。

AWS SDK for SAP ABAP: ワークフローにおいて、AWS SDK for SAP ABAP を使用することで、RISE with SAP、GROW with SAP、および自己管理環境内で SAP ABAP と 200 以上の AWS サービスをシームレスに統合できます。

ヒント: 抽出した情報に対して自然言語でクエリを実行するために、出力を検索拡張生成 (RAG) ワークフローの一部として使用することもできます。

以上で、IDP を使用した請求書処理のユースケースの説明を終えました。ここでは、以下の方法について説明しました。

  • 非構造化された請求書データを構造化フォーマットに変換
  • 紙ベースおよびデジタル請求書の処理を効率化
  • 手作業による処理エラーを削減し、効率を向上
  • 請求書の分類による分析を可能に

コストの内訳例

以下の表は、デフォルトパラメータを使用して US East 1 (バージニア北部) リージョンでご自身の AWS アカウントにこのソリューションをデプロイした場合のコスト内訳のサンプルを示しています。

AWS サービス 料金単位 コスト (USD)
Amazon Q Business Pro ユーザーあたり月額 $20
Enterprise Index インデックスユニットあたり月額 $192.72
Amazon Bedrock Data Automation (BDA) ブループリントを使用して処理された 1,000 ページあたり $40
Amazon S3 EWA と請求書用の 1 TB ストレージ $23.55

ヒント: コストの管理に役立てるため、AWS Cost Explorer予算 (Budget) を作成することをお勧めします。詳細については、このブログで使用される各 AWS サービスの料金ページをご参照ください。

まとめ

このブログでは、AWS Generative AI サービスを使用して SAP データの作業効率を向上させ、エラーを削減する方法について説明しました。
ブログのパート 2 では、自然言語を使用して構造化された財務データからビジネスインサイトを得る方法の詳細について説明します。

AWS の生成 AI サービスについてさらに詳しく学び、Amazon Q で独自のユースケースを始めましょう。

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本ブログはパートナーソリューションアーキテクトの松本が翻訳しました。原文はこちらです。