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README ファイルの心配をやめた方法
本記事は 2025 年 10 月 9 日に公開された Keerthi Sreenivas による “How I stopped worrying about ReadMe files” を翻訳したものです。
多くの開発者と同じように、私もこんな経験があります。:深夜 2 時に素晴らしい新機能をプッシュし、ビルドが通ってデプロイが成功したときの達成感。ところが 3 週間後に、新しいチームメンバーが私の古い README を見ながらオンボーディングしようとすると、そこに書かれているのはバージョン2.1の手順。一方で、実際に動いているのはバージョン3.2。セットアップコマンドは通らず、APIエンドポイントも変わっている。かつて頼りになっていたドキュメントが、今や足かせになっていたのです。
開発チームにとって、ドキュメントを常に最新に保つのは大きな課題です。変化の早い開発環境において、コードの変更のたびに README を手動で更新するのは現実的ではありません。その結果、ドキュメントはすぐに古くなり、信頼できない情報源となってしまいます。これが新しいメンバーのオンボーディングを遅らせ、開発者同士が質問のために作業を中断しなければならない事態を引き起こします。こうした絶え間ない中断はシニアエンジニアの負担を増やし、燃え尽き症候群や離職を加速させます。そして彼らがチームを離れると、重要な組織の知識も一緒に失われてしまうのです。
ドキュメントが自動的に「魔法のように」更新されるとしたら?
Kiro のエージェントフックがこの問題を解決します。エージェントフックとは、IDE 上で特定のイベントが発生したときに、あらかじめ定義されたエージェントのアクションを自動で実行するトリガーのことです。ドキュメントを手動で更新する代わりに、ファイルを保存した際に README を自動更新したり、エンドポイントの変更時に API ドキュメントを更新したり、コードの進化に応じて使用例を自動生成するようなフックを設定できます。
仕組み
1. エージェントフックを定義する: ユーザーは、ドキュメント要件をエージェントフックとして自然言語で定義できます。
プロンプトの例:「このリポジトリ内のすべての Python ファイル(.py)において、新しく追加された API や削除された古い API を検出し、OpenAPI の YAML を更新してください。存在しなくなった API は削除してください。また、.py ファイルの更新内容に基づいて ReadMe ファイルも更新してください。」
図 1 は、ユーザーがエージェントフックを作成している様子を示しています。
2. Kiro がエージェントフック設定を作成する: Kiro は、エージェントフック要件をタイトル、説明、イベント、監視するファイルパス、およびイベント発生時に Kiro に送信される指示を含んだ構成を自動作成します。詳細については、フック定義のベストプラクティスをご参照ください。
この場合では、ステップ 1 のプロンプト例に基づいて、以下の構成(図 2)が作成されました。Kiro はタイトルを「API Documentation Sync」として構成を生成し、イベントを「File Saved」(他のフックタイプも利用可能)として設定し、監視するパスをリポジトリ内のすべての .py ファイルに設定しました。エージェントフックの指示も、エージェントフック作成時にユーザーが提供した初期プロンプトに基づいて生成されます。
エージェントフック作成
エージェントフックが作成されると、json 設定が .kiro/hooks フォルダに .hook ファイルとして保存されることがわかります。私の場合、図 3 の以下の設定が保存されます。エージェントフックの設定は、UI または生成された .hook ファイルのいずれかの方法で変更できます。
エージェントフック作成後に .kiro/hook/api-documentation-sync.kiro.hook に保存される設定:
3. イベント発生時にフックがトリガーされる: ファイルの保存や作成などのイベントが発生すると、エージェントフックがトリガーされ、Kiro 内で新しいセッションがバックグラウンドで実行されます。開発者は、エージェントフックセッションを通じて提案された変更を受け入れたり修正したりできます。
フックをテストしてみましょう。 たとえば Kiro に「レコードを CSV として抽出する新しい API を追加するのを手伝って」と依頼したとします。Kiro は関連する .py ファイルに新しい API エンドポイントを追加します。バックグラウンドでは、「Execute hook: API Documentation Sync」という名前の別のセッションが作成され、Kiro が OpenAPI.yaml ファイルと README ファイルを更新します。Kiro は導入された変更を追跡するために CHANGELOG.md も生成します。
以下のビデオは、新しい API が「app.py」ファイルに追加されたときに API Documentation Sync フックがトリガーされる様子を示しています。
エージェントフックがトリガーされる
エージェントフックで他に何ができるか?
README の自動化は強力ですが、それは始まりに過ぎません。エージェントフックは、コードが変更されたときに必要となるあらゆる日常的なタスクを自動化できます:
- コード最適化: 可読性、保守性、パフォーマンス最適化のためのコード最適化
- 言語ローカライゼーション:ユーザー向けテキストコンテンツの自動翻訳生成
- セキュリティドキュメント: 認証コードを変更したときのセキュリティ考慮事項の更新
- アーキテクチャ図: サービス統合を変更したときのシステム図の更新
- デプロイメントガイド: Docker 設定を変更したときのデプロイメント手順の更新
- トラブルシューティングガイド: 例外処理コードに基づく一般的なエラーシナリオの生成
- Figma デザインの検証: Figma MCP を使用して HTML/CSS ファイルが Figma デザインに従っているかを検証
その他にもたくさんあります。詳細なエージェントフック設定を含む例のリストをご覧ください。
最終的に重要なのは何か
ドキュメントが自動で常に最新の状態に保たれるようになると、まるで魔法のような変化が起こります。:開発者は再びドキュメントを信頼するようになります。チームメンバー同士で作業を中断し合うことも減ります。開発者は集中状態を保ったままより多くの時間を過ごし、コード品質が向上し、機能のリリースも加速します。しかし、得られる恩恵は生産性指標にとどまりません。
新しい開発者のオンボーディングが速くなり、正確なドキュメントが組織にとっての「知の蓄積」なります。経験豊富な開発者がチームから去るとき、知識も一緒にドアから出て行くのではなく、彼らの在職中にエージェントフックによって常に最新の状態に保ってきたガイドの中に生き続けます。ドキュメントは 3 か月前の古いスナップショットではなく、コードベースの現在の状態をリアルタイムで反映した「生きた記録」であるべきです。Kiro のエージェントフックを活用すれば、ドキュメントがコードと並行して自動的に進化する間、あなたは優れたソフトウェアの構築に集中できます。
まとめ
みなさんが Kiro でエージェントフックを設定し、ご自身のプロジェクトで実際に動作する様子を見るのをとても楽しみにしています。ぜひ Discord サーバーにて、ご意見やご感想をお聞かせください。このブログで話したドキュメントのユースケースから始めて、他のユースケースにもぜひチャレンジしてみてください。具体例はこちらのドキュメントでも紹介されています。
エージェントフック使用時の注意点
正規表現を利用するイベントトリガー(たとえば、**/*.py
)でエージェントフックを実装する場合、パターンの適用範囲を慎重に検討することが重要です。あまりに広範囲なスコープになると、フックが実行されたときに過度の変更をもたらし、大規模プロジェクトにて意図しないドキュメント更新につながる可能性があります。効率性とドキュメントの明確性を維持するために、より具体的で対象を絞ったパターンマッチングを実装することをお勧めします。エージェントフックのトラブルシューティングを参照してください。
翻訳はApp Dev Consultantの宇賀神が担当しました。