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株式会社 BTM 様の AWS 生成 AI 活用事例:Amazon Bedrock と Strands Agents を活用したシステム調査の自動化により、調査時間を大幅短縮し運用業務の効率化を実現

本ブログは株式会社 BTM 様と Amazon Web Services Japan 合同会社が共同で執筆いたしました。

みなさん、こんにちは。AWS ソリューションアーキテクトの伊勢田 氷琴です。

昨今、多くのお客様から生成 AI を活用した業務効率化についてご相談いただくようになりました。特に、複数のシステムを管理する企業様においては、システム調査や障害対応における関係者間のコミュニケーションコストが大きな課題となっています。

DX 推進事業や IT エンジニアリングサービスを展開する株式会社 BTM 様は、自社構築システム調査に対する頻繁な問い合わせ対応と、これに伴って関係者間で発生するコミュニケーションコストの課題を解決するため、Amazon Bedrock を活用した AI エージェントシステムを構築されました。本記事では、生成 AI と MCP(Model Context Protocol)を組み合わせた革新的なシステム調査自動化の取り組みについてご紹介します。

お客様の状況と課題

株式会社 BTM 様は、従業員数 196 名(2025 年 2 月末時点)の企業として、DX 推進事業と IT エンジニアリングサービスを中核事業とされています。IT エンジニアリングサービスでは、ソフトウェアやシステムの開発に関するサービスを提供し、経験豊富なエンジニアが技術力をもとにお客様の課題解決を行っています。また、DX ソリューションサービスでは、コンサルティングからシステムやIT インフラの設計・構築・運用まで一気通貫でご支援されています。

多数のシステムを管理するシステム運用者として、BTM 様は深刻な課題に直面していました。システム調査を行う際、営業チーム、アプリチーム、インフラチーム、業務部門など多くの関係者とのやり取りが発生し、多大なコミュニケーションコストが生じるというものです。

具体的には、同じ説明を繰り返す必要がある、人によって回答が食い違う、情報が集約されない、必要な情報が揃わない、違うチームへ情報を渡す際に整理が必要になるといった問題が現場では日常的に発生していました。結果的にラウンドが異なる関係者間の情報連携に多大な工数がかかり、迅速な調査を実施しづらい状況でした。

さらに、システム管理者や担当エンジニアが複数のプロジェクトやシステムを担当する場合もあり、限られた時間の中でシステム調査に多くの工数を割きづらいという制約もありました。従来のシステム調査では 1 時間から半日を要しており、1 日に 5 件程度発生する調査依頼に対して、営業担当から詳細をやり取りし、結果を書面で返答するという手間のかかるプロセスが必要でした。

解決策の検討

これらの課題を解決するため、BTM 様は生成 AI を活用したシステム調査の自動化に着目されました。特に、非エンジニアからの問い合わせを生成 AI と MCP を使って自動で調査する仕組みの構築を検討されました。

AWS サービス、特に Amazon Bedrock の採用を決定された理由は、その高い性能と日本語対応の充実にあります。また、オープンソース AI エージェント SDK である Strands Agents を活用することで、わずか数行のコードで AI エージェントを構築・実行できる点も大きな魅力でした。

Strands Agents は、シンプルなエージェントのユースケースから複雑なものまで、そしてローカル開発から本番環境でのデプロイまで対応することができ、実際に AWS の複数チームでも既に Amazon Q DeveloperAWS Glue、VPC Reachability Analyzer などの本番環境で AI エージェント基盤として利用されている実績があります。

実装の詳細

BTM 様は、Strands Agents を MCP サーバーと LLM を結びつける基盤として活用されました。MCP とは、生成 AI がツールと連携する方法を標準化したプロトコルであり、MCP サーバーはそのツールに接続するためのサーバーです。MCP サーバーを使用することで生成 AI がツールとしてデータベースへのアクセス API を利用したり、インターネット検索 API を利用できるようになります。

システム構成は以下のようになっています。ユーザーインターフェースとして Slack を活用し、バックエンドには Amazon API GatewayAWS Lambda を使用しました。AI エージェントには Strands Agents を採用し、AWS Lambda に strands モジュールを実装されました。

将来的には、非同期の呼び出しに対応するために、Amazon SQS と Amazon SNS を利用してキューイングすることも検討されています。

AI エージェントの具体的な実装方法については、次のようにしました。まずエラーや障害データ、ログ等が格納されている Amazon Aurora および Amazon DynamoDBAmazon CloudWatch に対してアクセスを可能にする MCP サーバーをコンテナとして Amazon ECS on Fargate でホストします。そして、これらの MCP サーバーを Strands Agents にツールとして渡しました。このようにすることで、AI エージェントは自分が持つツールとその役割を認識し、ユーザーからのリクエストに応じてツールを使い分けながら必要な情報を集め、ユーザーにフィードバックすることが可能となります。

実際のアプリケーションログでは、ユーザからのリクエスト内容を踏まえて、エージェントがどのデータベースにどのようなクエリを発行し、データをクエリした結果を元に回答内容を生成する様子が確認できます。また、日本語に対応した Amazon Bedrock Guardrails を利用して、関係のない問い合わせをブロックする機能も導入されました。

使用している 基盤モデル は Claude 4.0 Sonnet で、高い精度での日本語対応と複雑な推論能力を活用されています。

導入効果

このシステムの導入により、BTM 様は劇的な効果を実現されました。最も顕著な成果は、従来半日を要していたシステム調査時間を最短で10分ほどに短縮したことです。これにより、エンジニアはより本質的な開発業務に集中できるようになりました。さらに、関係者間で必要になる冗長なコミュニケーションが不要となることで、PM のトラブルシュート工数を95%削減しました。

定性的な改善としては、日本語対応した Guardrails を利用し、無関係な問い合わせを効果的にブロックできるようになりました。さらに、開発 AI エージェントの OSS である Cline とそのバックエンドに Amazon Bedrock を使うことで、プロジェクト開始時の開発工数の見積もり40時間に対して、実開発時間を5時間に短縮し、全体で90%の工数を削減することに成功しました。

今後の展開

BTM 様は、今回構築したシステムを同じ悩みを抱えている企業様へ展開していきたいと考えられています。システム調査の自動化という共通課題を持つ企業に対して、この革新的なソリューションを提供することで、業界全体の効率化に貢献したいという意欲を示されています。

お客様の声

株式会社 BTM クラウドインフラ事業部 部長補佐 瀬﨑 優太朗 様からは、以下のようなコメントをいただいています。

「Amazon BedrockでAIエージェントを構築する事で、半日かかっていたシステム調査時間を10分に削減。システム運用保守業務上、ユーザーへの問い合わせ対応が迅速化しました。」

まとめ

BTM 様の取り組みは、生成 AI と MCP を組み合わせた革新的なシステム調査自動化の事例として、多くの企業にとって参考になるものです。Amazon Bedrock と Strands Agents を活用することで、従来の手作業による調査プロセスを大幅に効率化し、エンジニアがより価値の高い業務に集中できる環境を実現されました。

このような生成 AI エージェントを活用した業務効率化の取り組みは、今後ますます重要になってくると考えられます。BTM 様の成功事例が、同様の課題を抱える企業様の参考となれば幸いです。

株式会社BTM:瀬崎 優太朗様(右)
Amazon Web Services Japan : アカウントマネージャー 浜崎佳子(左)、ソリューションアーキテクト 伊勢田 氷琴(中央)