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お客様事例をベースとした金融アーキテクチャ解説を公開(金融リファレンスアーキテクチャ日本版 2025)

「金融リファレンスアーキテクチャ日本版」では、2022 年の初版公開以来、継続的にコンテンツの拡充を進めています。その中で、「ミッションクリティカル (勘定系) 」や「顧客チャネル」など、金融業界固有のワークロードに応じたリファレンスアーキテクチャが AWS CDK サンプルコードと共に公開されています。例えば「ミッションクリティカル (勘定系) 」は勘定システムだけでなく、一般的なOLTPシステムでご利用できます。
一方で、具体的なシステム特性を踏まえた上で、より詳細な考慮点やアーキテクチャ上の決定根拠を知りたいというニーズは以前からありました。そこで今回、国内のみならずグローバルも含めた先進事例を分析し、アーキテクチャ上の重要ポイントを整理したドキュメントとして公開しました。

今回公開されたのは以下3つのユースケースです。

これらの各ユースケースごとに、アーキテクチャの目的や特徴に関する解説と、想定されるFAQも併せて記載しています。本記事では各ユースケースの概要について解説します。

証券会社における OMS (Order Management System)

証券会社の注文管理システム (OMS) をクラウド環境で構築する際のリファレンスアーキテクチャを公開しました。従来オンプレミスやメインフレームで運用されてきた証券会社の基幹システムを、低レイテンシー・高スケーラビリティ・高可用性のバランスを取りながらクラウドネイティブに構築するための指針を、国内外で稼働している複数の事例を踏まえて示しています。

実装上のポイントとして以下のような内容を解説しています

  • Amazon ElastiCache for Redis によるインメモリメッセージングで低レイテンシーなコンポーネント間通信を実現
  • マイクロサービス化により各コンポーネントの独立したスケーリングを実現し、寄り付き時などの予測可能なピーク負荷にも対応
  • AWS Outposts を活用した取引所近接配置により、EMS との通信レイテンシーを最小化

詳細は本文:金融ワークロードアーキテクチャ解説 資本市場 OMS をご覧ください。

クレジットカードのイシュアシステム

クレジットカードのイシュアシステムをオンプレミスから AWS に段階的に移行・構築運用する際のリファレンスを公開しました。キャンペーン等に起因した決済需要による高トラフィック処理やリアルタイム承認要件への対応、決済技術や業界標準の導入/金融規制要件の変更への対応、業務継続性を支えるための高可用性の担保等、クレジットカード業界に求められる様々な要素を実現するためのアーキテクチャをお客様の先行事例を元に示しています。

Authorization(承認)および Reconciliation(クリアリングファイルと承認済みデータの突合せ)の機能を AWS 上に構築し、Settlement(資金精算)をオンプレミスで構築するアーキテクチャパターンを示しています。

その他、実装上のポイントとして以下のような内容を解説しています

  • マルチリージョンでのActive – Active 構成を採用し、カード番号、顧客ID 等のデータ内容ごとにオンプレミスからどちらのリージョンに振り分けるかを判定することで各リージョンごとに処理対象を分離し、整合性と可用性の両立を実現
  • マイクロサービスアーキテクチャを採用うぃ各機能の独立したスケールアウトを実現
  • リクエストヘッジを導入したDynamoDB のパフォーマンス担保

詳細は本文:クレジットカードのイシュアシステムをご覧ください。

保険業界におけるデータ分析システム

保険業務に必要なデータ処理を実現するデータプラットフォームをAWS上に構築・運用する際のリファレンスを公開しました。データ量急増による処理能力不足とコスト増大、レガシーシステムの機能制約による多様化ニーズへの対応困難、セキュリティ境界の曖昧さによるコンプライアンス対応の課題など、保険業界に求められる様々な要素を実現するためのアーキテクチャをお客様の先行事例を元に示しています。

統合データレイクを中心としたデータプラットフォームにより、保険業務における契約者情報、健康情報、財務データの取り込みから分析機能をクラウド上でシステム化しています。マルチアカウント戦略を採用し、データ取り込み、データレイク、データ変換、データウェアハウス、データ分析の処理ごとに分離されたアカウントで実行することで、 PII / PHI データの完全な分離とセキュリティ境界の明確化を実現しています。

実装上のポイントとして以下のような内容を解説しています

  • Amazon Aurora をメタデータリポジトリとして活用し、AWS Glue フレームワークによるメタデータ駆動型ジョブ自動生成で異なるソースからの統一的なデータ取り込みを実現
  • Amazon Redshift Data Sharing による計算分離アーキテクチャで、プロビジョニングクラスターでの ETL / ELT 処理とサーバーレスクラスターでの分析処理を完全分離し、パフォーマンス競合を回避
  • AWS Organizations によるマルチアカウント戦略と IAM クロスアカウントロールにより、 PII / PHI データの完全分離と最小権限アクセス制御を実現

詳細は本文: 保険ワークロード:データ分析基盤 をご覧ください。

まとめ

今回の「金融リファレンスアーキテクチャ日本版」におけるアップデートでは、従来ご提供してきたワークロードごとのリファレンスアーキテクチャに加え、実際のお客様事例をもとにした特定ユースケースにおける詳細なアーキテクチャの解説文書を公開しました。これにより、同様のユースケースで AWS を活用いただく際のアーキテクチャ検討に役立てていただくことを目指しています。内容に関するフィードバックやご質問は、GitHub 上の issue としてご登録いただけます。皆様からのフィードバックをお待ちしております。

本ブログ記事は、AWS のソリューションアーキテクトである 樋口 健人、武方 総、髙木 香里、吉澤 稔、松本 耕一朗が執筆いたしました。