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AWS Summit Japan 2025 ~ 生成 AI とグラフデータを活用した 業務横断データ活用(Digital Thread)の展示のご紹介

みなさんこんにちは。AWS ソリューションアーキテクトの伊藤ジャッジ向子です。本記事では AWS Summit Japan 2025 における Digital Thread の展示についてご紹介します。

展示概要

製造業におけるデータの活用はビジネスの成功に不可欠な要素となっていますが、一方で多くの企業は、業務をまたいだデータを包括的に活用することは難しいと感じています。実際、ものづくり白書 2025 でも、DX の具体的成果が半分以下しか出ていない、と報告されています。この理由の一つとしては、部門や関連会社ごと、さらに部門内のシステムも CRM、PLM、ERP、MES/MOM などに散らばってデータが保存されているからです。この展示では、データ活用のハードルを下げる提案の一つとして、e-Bike の仮想的なビジネスのデータを集約し、グラフデータと生成 AI を組み合わせ、業務横断のデータ (Digital Thread) の活用を実現するアプリケーションを展示しています。

よくある課題

多くの製造業は下記のような問題に直面しています:

  • 製品ライフサイクルの各段階のデータが、分断された企業システムで管理され、ビジネス意思決定者が洞察を得るためのデータ活用ができていない
  • 部署や拠点を単位としたシステムがサイロ化しており、業務プロセスにおける問題が顕在化しにくい
  • 業務プロセスにおける問題がたとえ顕在化したとしても、問題の特定に至るまでには、属人的、もしくは高度な技術を必要とする膨大なコストが嵩む調査が必要になる

この展示の注目ポイント

この展示では、e-Bike の業務プロセスを例に取り、様々なデータソースからの接続されたデータの繋がりにより問題の解決やトレース、またはビジネス決定のための洞察を与える、データ活用例を体現したアプリケーションを展示しています。

DigitalThread_Concept

例えば、e-Bike 製品の品質管理における課題として、塗装に関するクレームが発生した場合を想定してみましょう。従来であれば多数の部署に問合せ、多数のシステムを確認せざるをえなかった複雑な問題でも、業務横断のデータ活用ができれば、クレームに添付された製造番号から、製造ラインの特定、使用している部品、影響を受けるユーザーの範囲まで、一つの検索で瞬時に把握することが可能になります。また、お客様からのフィードバックを製品改善に活かす際も、サプライチェーン・エンジニアリングチェーン全体を通じた影響分析が可能となります。

さて、ここまで読んでくださった方の中には、Digital Thread やグラフデータといった言葉には、馴染みのない方もいらっしゃるかもしれません。以下にこの展示のキーワードとなる概念と技術について解説します。

Digital Thread とは

Digital Thread は、製品のライフサイクル全体にわたるデータの流れを一貫して管理する概念で、仕入れ、設計から製造、運用、保守、市場調査に至るまでの全てのプロセスで記録されたデータを、糸 (Thread) で紡ぐように連携させることで、製品に関する包括的な情報の把握を可能にするという考え方です。Digital Thread は、米国で 2010 年代にデータドリブンの一つの概念として広まりました。ここで以前から存在していたグラフデータと併用することにより、Digital Thread の実現が可能になりました。

グラフデータベースとは

グラフデータベースとは、データをノードとエッジで表現するデータ構造を持つデータベースです。リレーショナルデータベースと異なり、データ間の関係性を直接的に表現できるため、複雑な関連性を持つデータの処理に優れています。例えば、下記の図はソーシャルネットワークで広く使われているグラフデータです。

GraphDataSocial
上記の図はソーシャルネットワークの例ですが、製造業では製品を構成する各部品や、製造工程における製造ラインの組み合わせなど、データ間の繋がりが重要な役割を果たしています。このような複雑な依存関係を検索する際も、グラフデータベースではテーブルの結合操作が不要なため、シンプルな検索が可能です。またグラフデータベースはスキーマの柔軟性が高く、新しい種類のノードや関係性を容易に追加することが可能なため、ビジネス要件や企業の部門の統合などの変化に迅速に対応することが可能です。

さらに、製品に関連する様々なデータ間の複雑な関係性を表現できるグラフデータベースの特性は、Digital Thread が目指す統合的なデータ管理に適しています。例えば、製品の設計変更の影響の分析が必要な際に、既存の業務プロセスや保守計画に影響を与えるかどうかを、データ間の関連性を通じて容易に追跡することができます。
展示するアプリケーションでは、AWS のグラフデータベースを提供するサービスである、Amazon Neptune を利用しています。

Architectureしかし、グラフデータベースのもう一つの特徴として、専門知識が必要であるという点があります。グラフデータは関係性が明確なデータを表現できる良さがある一方で、独自のクエリ言語による問い合わせが必要となります。

Digital Thread における生成 AI の活用

近年多くの企業に注目されている生成 AI は、膨大な量のデータを効率的に処理し、そこから意味のあるパターンを見出すことが可能です。特に製造業における生成 AI とグラフデータの活用については、こちらのブログもご参照ください。
今回の展示アプリケーションにおいて注目すべき点は、生成 AI の活用により、独自のクエリ言語を使用したグラフデータベースへのクエリを自然言語で行える点です。このアプリケーションでは、クエリテンプレートを使用して、自然言語のクエリをグラフデータへのクエリに変換するので、専門知識がなくても必要なデータの抽出や解析が可能になり、さらにその結果も分かりやすい自然言語で得られます。これにより、データ活用をさまざまなタイプの従業員の方々に体験していただき、製品プロセスの改善活動を広く展開することが可能になります。
例えば、下記の画像は展示アプリケーションの画面ですが、不具合が報告された部品のシリアル番号を元に、類似の問い合わせの存在について質問をしている画面です。従来の検索方法では、条件付けや検索範囲の指定が必要でしたが、そういった検索技術は必要ありません。また、「これはよくあることですか」という自然な問いかけから、製品に関連する様々なデータを、関連性を元に検索し、さらに検索結果に対する洞察を、誰にでも分かりやすい自然言語で返答しています。
UI example 1 UI example 2
この展示では AWS のフルマネージドの生成 AI サービス、Amazon Bedrock を使用しています。

製造業の Digital Thread によるグラフデータ活用

グラフデータの特徴として、データ間の関連性を視覚的に表現することが可能という点があります。この特性から、生成AI で返答された回答が、下記の図のように、どのような情報の繋がりを根拠として生成されたかを、データレベルで直感的に理解することができます。

Graph image

このデモでご覧いただける Digital Thread は、IT やデータの専門家のみならず、システムエンジニアリング、設計エンジニアリング、製造エンジニアリング、サプライチェーン、運用、品質管理など、様々な部門のプロフェッショナルの業務効率を劇的に向上させる可能性があり、またビジネス決定に必要な洞察をすばやく提供することが可能となります。

製造業のデジタルトランスフォーメーションに関心をお持ちの方、企業におけるデータ活用の新しい可能性を探っている方は、ぜひ私たちの展示にお立ち寄りください。デモを通じて、最新のデータ活用の姿をご覧いただけます。

利用しているAWSサービス

それでは、AWS Summit Japan 2025 で 業務横断データ活用 (Digital Thread) の展示でお会いできることを楽しみにしています!

著者 : 伊藤 ジャッジ向子 (Ito, Judge Sakiko)
アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社
アソシエイトソリューションアーキテクト

米国で化学と医療の製造業双方で、.Netアプリケーションの開発を経験し、帰国後 AWS Japan のサポート部に入社。その後異動し、エンタープライズ事業本部でソリューションアーキテクトとして製造業のお客様をご支援しています。
趣味は山登りとキャンプの他、クラッシックバレエ、紀州犬と甲斐犬含む家族のお世話です。