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AWS 上の Teamcenter Simulation による製品エンジニアリングの促進

急速に変化し競争が激化する製造業界において、組織は製品開発プロセスを加速および最適化するために、エンジニアリングシミュレーションなどの仮想エンジニアリングワークフローの採用を増やし続けています。性能、コスト、信頼性、製造性、組立性などの主要な性能指標を評価するための複雑な設計研究への需要が高まる中、シミュレーションプロセス・データ管理(SPDM)は、組織がシミュレーションデータを製品ライフサイクル管理(PLM)システムに管理および統合できるようにすると同時に、製品設計者、シミュレーションアナリスト、製造エンジニアを含む機能横断的なチーム間の相互作用とコラボレーションを促進する重要な記録システムになりつつあります。ただし、世界中に分散しているエンジニアリングチームの性質に対処し、インフラストラクチャコストを管理し、柔軟なデータ移動を実現するには、SPDM 導入の近代化が不可欠です。このブログでは、お客様の製品エンジニアリング変革をサポートするために、Amazon Web Services(AWS)クラウドインフラストラクチャを活用して、費用対効果が高く、安全でスケーラブルな SPDMを構築する方法について説明します。

シミュレーションデータ管理とインフラストラクチャ制約の課題

さまざまな市場への対応が求められることによって、あらゆる業界が製品の複雑化に直面しており、その結果、製品のバリエーションや構成が多様化しています。計算流体力学(CFD)や有限要素解析(FEA)などのデジタルエンジニアリングシミュレーションは、製品の複雑性を管理し、効率的な製品開発を実現するために不可欠であると広く認識されていますが、シミュレーションプロセス自体が大きなボトルネックになることがよくあります。分析チームは、バージョン管理が適切でない古いデータや、結果の提供が遅すぎて設計の方向性に影響を与えられないようなデータを扱うことがよくあります。分野の専門家は、相関作業を行う際に、物理テストとシミュレーションのデータセットを一致させるのに苦労することがよくあります。コンピュータ支援エンジニアリング(CAE)の結果はアナリストの支援がないと閲覧できないため、プログラムマネージャーは多くの場合、可視性に乏しく、洞察を得ることができません。重要なのは、設計者やアナリストが不在の場合、適切なデータに適切なタイミングでアクセスして、情報に基づいたビジネス上の意思決定を行うことが制限要因になるということです。さらに、設計バリエーションの数と実行される関連シミュレーションの数が指数関数的に増加するにつれて、チームが生成する膨大な量のデータで行き詰まる危険性があります。

従来のオンプレミス環境では、最新のセキュリティ標準への対応が困難で、スケーラビリティが限られ、インフラストラクチャコストが高額になるため、これらの問題がさらに悪化します。このような(オンプレミス)環境では容量が固定されており、多くの場合、シミュレーションのニーズに応じてコンピューティングリソースを迅速に拡張できないため、プロジェクトが遅れる可能性があります。さらに、多くの場合、堅牢なディザスタリカバリおよびバックアップ機能が不足しており、システム障害が発生した場合にデータや運用を迅速に復元することが困難です。

Teamcenter Simulation

Teamcenter Simulation は、エンジニアリングワークフローに携わるエンジニアやアナリスト向けに設計されたシミュレーションプロセス・データ管理(SPDM)ソリューションです。Siemens Xcelerator ビジネスソフトウェアプラットフォーム内の製品ライフサイクル管理(PLM)ソリューションであるTeamcenterを基盤とするこのツールは、シミュレーションと物理試験のプロセス、データ、ツール、ワークフローを包括的に管理できます。既存の製品データとシームレスに統合し、すべての関係者に完全なトレーサビリティと可視性を提供します。Teamcenter Simulationを利用することで、エンジニアリングチームはデジタルスレッド全体で効果的に共同作業を行うことができ、一貫性のある効率的な製品開発プロセスを実現できます。

シミュレーションと製品データの連携

シミュレーションデータ管理の課題に対処するには、製造会社はシミュレーション業務をPLM戦略全体の重要な要素として管理する必要があります。Teamcenter Simulationを使用すると、組織はエンジニアリングシミュレーションのデータとプロセスをより適切に管理、理解、再利用できるようになり、製品開発ライフサイクル全体にわたる制御と効率性が向上します。Teamcenter SimulationはTeamcenterプラットフォームに不可欠なモジュールであるため、コンピューター支援設計(CAD)、材料データ、製品パラメーター、製品要件など、シミュレーションに関連するすべてのデータを製品データと関連付けて管理できます。AWS上のTeamcenterを使用することで、組織全体の信頼できる唯一の情報源を確保し、シミュレーションアクティビティを組織のデジタルスレッドに接続できます。この接続は、モデルベースシステムエンジニアリング (MBSE) やモデルベーステスト (MBT) の導入など、企業レベルのデジタルスレッド構想を実現するために不可欠です。デジタルスレッドにより、シミュレーションチームは最新の製品データをシミュレーションの入力として使用し、すべての意思決定者と利害関係者が主要なシミュレーション結果に簡単にアクセスできるようにすることで、製品ライフサイクルを完全にサポートできます。

AWS 上の Teamcenter Simulation による組織的メリット

AWS上のTeamcenter Simulationは、お客様のSPDMプロセスとインフラストラクチャのニーズに合わせてカスタマイズできます。AWS のサービスは、スケーラブルなインフラストラクチャとストリーミングサービス、運用コストの削減、従来のオンプレミス環境を上回る堅牢なセキュリティと信頼性により、Teamcenter Simulation インフラストラクチャの課題を克服するのに役立ちます。次のセクションでは、  Well-Architected Framework の原則に基づいて、AWS上にTeamcenterを展開するメリットについて詳しく説明します。

セキュリティの向上 : オンプレミスのTeamcenter実装を管理している組織は、多額のコストと従業員のスキルセットギャップにより、現在のセキュリティプロトコルと暗号化標準を維持する上で課題に直面することがよくあります。さらに、これらの組織は進化する基準へのコンプライアンスを保証する責任を負っており、これはAWS の継続的に更新されるインフラストラクチャが本質的に提供する堅牢なセキュリティおよびコンプライアンス認証と比較すると困難です。また、要件、部品表(BOM)、CADファイル、シミュレーション結果など、Teamcenterで管理される機密性の高い製品情報は、AWSサービスを使用して保存時と転送中の両方で暗号化できます。これにより、重要な製品データの機密性、一貫性、整合性が保証されます。

信頼性の向上 :  AWSリージョン内の複数のアベイラビリティーゾーンにより、高可用性とデータレプリケーションが確保されます。Teamcenter Simulationを高可用性アーキテクチャで導入することで、企業は個別のハードウェア障害とデータセンター停止の両方から保護され、重要なPLMデータとプロセスへの継続的なアクセスを確保できます。さらに、AWS のグローバルなリージョンネットワークにより、組織はクロスリージョンレプリケーションによる災害復旧戦略を実装でき、事業継続性をさらに強化し、企業の厳しい稼働時間要件を満たすことができます。対照的に、オンプレミス環境では、ハードウェア障害、停電、拡張性の制限といった脆弱性により、このレベルの信頼性に欠けることが多く、深刻なダウンタイムやデータ損失につながる可能性があります。

コスト最適化 : TeamcenterをAWS上に展開することで、お客様はオンプレミスインフラストラクチャに関連する初期投資を回避できます。その代わり、コンピューティング、ストレージ、ストリーミング、データ処理 (ML と Analytics)、およびその他の使用したリソースに対してのみ料金を支払います。この従量課金モデルは、特にワークロードが変動する組織では、必要に応じてリソースをスケールアップまたはスケールダウンできるため、大幅なコスト削減につながります。企業は AppStream 2.0 サービスを活用して、シミュレーションソフトウェアと統合されたTeamcenter Simulationクライアントをストリーミングできます。このアプローチにより、エンジニアが高価なローカルワークステーションを所有する必要がなくなり、エンドユーザーのITハードウェアとソフトウェアの管理が簡素化されます。

パフォーマンス効率 : お客様は、TeamcenterとCAEアプリケーションの両方に対してカスタマイズされたコンピューティング構成とGPU設定を通じて性能を最適化することができます。CAEシミュレーションでは、効率的な実行と結果取得時間の短縮のために多大な計算能力が必要となるため、オーバープロビジョニングすることなく、必要に応じてコンピューティングリソースをスケールアップまたはスケールダウンし、最適なパフォーマンスを確保することが重要です。

運用効率 : AppStream 2.0では、TeamcenterおよびSimulationアプリケーションを事前構成したカスタムイメージを作成できるため、IT組織はエンドユーザー環境を効率的に管理できます。さらに、Amazon Relational Database Service for OracleFSx for NetApp ONTAP などのマネージドサービスは、データベースとファイルシステムの管理をオフロードします。これにより、組織はITインフラストラクチャとプロセスが合理化され、Teamcenterの管理者はコアアプリケーション管理に集中できるようになります。

AWS 上の Teamcenter Simulation アーキテクチャ

AWS では、ウェブサーバー、エンタープライズサーバー、FMS サーバー、ビジュアライゼーション、および Solr サーバーを、異なるアベイラビリティーゾーンの複数の Amazon EC2 インスタンスに分散させることで、Teamcenter を高可用性アーキテクチャで実装できます。このセットアップでは、Amazon RDS for Oracleをフルマネージド型の商用データベースとして使用し、Teamcenter ボリュームストレージは FSx for NetApp ONTAP または Amazon EFS を使用してプロビジョニングされます。このアーキテクチャの中心的な要素は、マネージドストリーミングサービスであるAmazon AppStream 2.0の統合です。これにより、Teamcenter Simulationクライアントをシミュレーションソフトウェアに統合して配信できます。AppStream 2.0 は、高性能な NVIDIA GPU 搭載インスタンス (グラフィックス G4dn、G5、Graphics Pro ファミリーなど) を活用して、シミュレーションワークロードに必要な高度な可視化ニーズをサポートします。

図1 : Siemens Teamcenter Simulation アーキテクチャ

AWS Marketplace

Siemens Xceleratorのソフトウェアとソリューションのポートフォリオへのシームレスなアクセスは、日々のシミュレーションワークフローにシミュレーションプロセスとデータ管理をうまく実装するために不可欠です。AWS Marketplace では、Siemens Xcelerator 製品の購入を含め、お客様が AWS 上で動作するソフトウェアの発見、導入、管理をより簡単に行うことができます。AWS Marketplace が提供する柔軟な価格体系と透明性の高い請求システムにより、IT 管理者はソフトウェアの消費を効率的に監視し、コスト管理を維持できます。AWS Marketplace でSiemensのソフトウェアを購入するメリットをより包括的に理解するには、Siemensのブログ「AWS Marketplace がクラウドでの購入体験をどのように変えるか 」を参照してください。

まとめ

Teamcenter Simulation はお客様のAWS環境にデプロイすることも、AWS上のTeamcenter Xを介してSaaSソリューションとして導入することもできます。Teamcenter Simulation ソフトウェアをAWSに展開することで、インフラストラクチャコストの削減、コラボレーションの強化、データトレーサビリティ、データ整合性の向上、SPDM実装の最新化など、様々なメリットがあります。AWS のクラウドネイティブサービスを利用することで、組織は Well-Architected SPDM ソリューションを構築し、製品ライフサイクルを管理するための安全でスケーラブルで高性能な基盤を提供できます。

AWS Marketplace   は、Siemens Digital Industries Softwareのソリューションを幅広く提供しています。AWS Marketplace で入手可能なSiemens製品の全リストをご覧ください。また、AWS とシーメンスのコラボレーションの詳細については、公式パートナーシップウェブサイトをご覧ください。

このブログにご協力いただいた以下の方々にも心より感謝申し上げます。

·       Noah Jackson (AWS グローバル EUC ソリューションアーキテクト)

·       Indrakanti Chakravarthy(Siemens 戦略プログラムマーケティングディレクター)

Chandan Murthy

Chandan Murthy は AWS でシニアパートナーソリューションアーキテクトを務め、AWS の戦略的パートナーが AWS プラットフォーム上で非常に効率的でスケーラブルなソリューションを設計および構築できるよう支援することに専念しています。20 年の経験を持つ Chandan は、Teamcenter や Mendix などのプラットフォームでの技術ソリューション設計の確固たる基盤を持っています。この専門知識と AWS での職務により、AWS のお客様が PLM やローコード産業用ソリューションを AWS に実装できるよう支援しています。

Vedanth Srinivasan

Vedanth Srinivasan は、アマゾンウェブサービスのエンジニアリング&デザインおよび市場開拓 (GTM) 向けソリューションの責任者です。業界横断型ソリューションに重点を置いているのは、ハイパフォーマンスコンピューティング (HPC) や製品ライフサイクル管理 (PLM) などのコンピュータ支援エンジニアリング (CAE)、製品ライフサイクル管理 (PLM) のほか、モデルベースシステムエンジニアリング (MBSE)、デジタルスレッド、デジタルツインソリューションなどの高次ワークロードです。自動車、航空宇宙、防衛、石油・ガス、ヘルスケア業界にわたる高度なエンジニアリング・ワークフローの開発と展開において 20 年以上の経験があります。

Wouter Dehandschutter, PhD

Wouter は、シーメンス・インダストリー・ソフトウェアのテクニカル・プロダクト・マネジメント・ディレクターであり、シーメンスのシミュレーション・プロセスおよびデータ管理(SPDM)の戦略とロードマップを担当しています。ベルギーのルーベン大学でメカトロニクス・エンジニアとして卒業し、ルーベン大学で博士号を取得しました。Lernout & Hauspie や、後にシーメンス・インダストリー・ソフトウェアに買収された LMS International で職務を歴任しました。シーメンスでは、耐久性試験と解析、試験データ管理、メカトロニクス・システム・シミュレーションとシミュレーション・モデル管理のためのCAEアプリケーションの製品開発と製品管理で複数の役職を歴任してきました。現在、Wouter は Teamcenter Simulation の製品ロードマップを管理し、製品ライフサイクルと密接に関連するシミュレーションプロセスとデータのマルチドメイン管理を行っています。

翻訳はソリューションアーキテクトの 山田航司 が担当しました。原文はこちらです。